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【クロサギを読み返す】白石の過去が語られた「不動産詐欺」

「クロサギ」第8巻 黒丸 [原案]夏原武 (小学館)

 「クロサギ」黒崎のライバルとも言える、悪徳企業を標的とするシロサギ、白石。ドラマでは山本耕史が演じている。まさしく怪演。

 ドラマでも触れられていた、白石がサギ師になるきっかけとなった事件は、原作8巻の「不動産詐欺」で語られている。

 白石は高校生の頃に、家族で住んでいたマンションの崩落により母親を失った。そのマンションは欠陥住宅で、マンションを建てた建設会社の子会社に勤めていた父親は、自らも被害者でありながら、親会社の責任を押しつけられて破滅した。

 そしてそのマンションを設計したのが、白石の当時の恋人・星谷澄子の父親だった。白石はそのことを知っていたが、白石は星谷を責めることもせず、黙って姿を消した。

 そのことをずっと悔やんでいた星谷は、黒崎を通じて、建設会社・京創住宅の耐震偽装の証拠を白石に渡す。白石はその証拠と、自分がこれまで集めてきた情報とを合わせて、かつて自分の家族を破滅させた者たちを告発し、けじめをつけた。

 黒崎に情報の出所を尋ねた白石は、それが他ならぬ元恋人の星谷であり、彼女がこのことにずっと責任を感じたことを知る。そして、星谷本人が隠れて聞いているのに気付いていたのかは定かではないが、黒崎にこう伝えた。

じゃあ…その「情報提供者」にこう伝えてくれ…。
けじめはつけるから、もうこのことは忘れろ。責任を感じる必要なんかない。
最後の幕引きは、こっちでやるから、と――――

「クロサギ」第8巻 P.148-149より引用

 この台詞は、「過去のことは忘れて自分の人生を生きろ」と、彼女を長年のわだかまりから解放しようとする優しさと解釈することもできる。

 だが見かたを変えれば、かつての恋人に対して過去を悔やむことすら許さず、彼女の人生と自分の人生を当時までさかのぼって引き離そうとする冷たさを感じる。

 最も、犯罪者になってしまった自分のそばから断固として突き放すのはやはり、元恋人に対する思いやりなのかも知れない。

 白石は星谷に会わずに立ち去り、因縁の敵を葬った後でもサギ師をやめることは無かった。

「どうして」とか「なぜ」とか、そんな疑問に答えられるなら、幸せな人生だろうぜ。
他人が納得できるような答えを持っていないのは、おまえだって同じだろ?

同書 P.150より引用

 コミックスが出た当時、苦い後味を残す「不動産詐欺」の結末が強く心に残り、そこから「クロサギ」は完結編までずっと読み続けていた。

「クロサギ」第8巻

 ドラマの「クロサギ」では、桂の店の従業員、早瀬が女性になっており(原作では男性)、白石の過去を黒崎に語っていたことから、もしかして早瀬が星谷の設定を兼ねているのか?