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なぜ高齢者の足のケアが行き届きにくいのか? -介護福祉士のある視点からの考察-

私はこれまで3箇所(新設も含む)の特別養護老人ホームにて介護福祉士や介護支援専門員などとしても約14年従事してきました。その中で言えることですが高齢者の足の皮膚や爪に異常の無い方のほうが稀でした。趾間の白癬、趾間の垢の瘡蓋化、皮膚の乾燥、爪白癬疑い、肥厚爪、巻爪などといったように。



足部や足爪に異常があることで

こちらは山下和彦先生他の研究論文のご紹介になります。

【高齢者の足部・足爪異常による転倒への影響】

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejeiss/124/10/124_10_2057/_pdf/-char/ja

こちらの論文によりますと『足部や足爪に異常があることで、下肢機能が低下し転倒リスクが高まるという因果関係があると考えられる』とあります。

また、この研究をするにあたり対象となったデイサービスを利用している高齢者で足爪の異常がある割合、そして足部や足爪の異常や真菌症に感染している人の割合は6割、ケアが必要な人が9割以上ということでした。この割合からも高齢者の足が何かしらのトラブルがあることが皆さんもお分かりになるかと思います。私もこれまで高齢者の介護をしてきて転倒しないような配慮や気配り、ケアを行ってきましたが転倒を100%防ぐことはできませんしご家族にもその旨は入居の際や担当者会議の際にもお話をしてきて説明と同意を得てきたという経験があります。ただ、フットケアを学ぶ前は足爪の異常や靴が転倒を誘発する要因となるということに私は無知の介護士、介護支援専門員でした。履いていた上靴にも原因があり小規模多機能でお世話になっていた祖母がトイレで介護を受けている最中に転倒そして骨折、寝たきりの生活、尿意があってもトイレには行けず、オムツに排泄する生活、食欲低下、約3ヶ月後に死を迎えるといった負の連鎖をみてきました。知らなければ知らないで済まされる足への視点や足へのケアなのかもしれませんが足爪や靴、足部に異常があることも転倒の要因となるのであれば足へのケアの知識を取り入れることで防げる高齢者の転倒や守れる暮らし、幸せな人生もあるのではないかと私は想うのです。


なぜ足部や足爪の異常があるのか?

今回は高齢者施設でのこれまでの経験からをお伝えしていきますが、在宅で暮らす高齢者そして介護保険サービスを利用していない高齢者でも足部や足爪などに異常がある方はいらっしゃいます。次に記すことは、あくまでも私のこれまでの経験からのお話になりますので全ての介護施設でこの様な状況が当てはまるわけではありません。


1.毎日足を清潔に保つことができない環境の中で暮らしている

私がこれまで勤めていた特別養護老人ホームという高齢者施設では、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準にて『1週間に2回入浴、適切な方法により入所者を入浴させ、又は清拭しなければならない。』とあります。施設には80〜100名の高齢者が利用していましたが身体状況に応じた浴槽数、設備も限られていました。施設内に特浴槽(座位姿勢が保持出来ない方が主に使用し要介護度の重い人が入居している特養では使用率が高い浴槽です。)が1〜2箇所。車椅子型の椅子に座り、そのまま入浴できる浴槽が1〜3箇所。個浴(一般的な家庭風呂)が2〜4箇所といった浴槽数でした。浴槽数も多く、要介護4、5の人でも個浴(家庭風呂)で入れる浴槽の作りや、浴槽の出入りの時だけ他の職員がフォローに入れる体制、連携が作れていた施設は足を清潔に保つ、整容するというケア意識があれば足の観察や足部を洗うこと、爪を整える時間も比較的確保することができていました。足を清潔に保つことができない環境がひとつの足部の皮膚トラブルを誘発する原因となっているのかもしれません。これは入院していても、在宅にいても毎日入浴できる環境が備わっていない場合も同様のことが起こるのだと思います。


2.足部を観にくい、洗いにくい、足爪を切りにくいといった環境

・浴室、脱衣所の照明数が少ない、照明があっても暗いといったことがあります。このような環境では足が観え難い、そして爪が切りにくいのです。

・浴槽の種類にもよりますが、これは個浴、一般浴、家庭風呂を想像して読んでいただければと思います。足を洗う時、観る時、そして足の爪を切る際に介護士はしゃがみながら介助をすることが多いと思いますが、足を高く挙げることができる高齢者は殆どいらっしゃいませんので足の裏までしっかり観察したくても観察が難しいといったこともあるのです。

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・手すりに掴まり立てる人には、どうしても手すりが届く位置に浴室用の椅子をセッティングします。シャワーも届く位置になると蛇口ギリギリに膝がくることもあり足を洗うスペースが狭く、介護士が高齢者の横に位置すると趾間、足裏が特に観えにくいのです。ですので、足を洗う時に椅子を後方に移動して洗います。そして、また浴槽に入る時に手摺を使い立ち上がる方は手摺が届く前方に椅子を移動をするといった手間と力を要することになるのです。

・浴槽数が少なかったり、システム等が変えられないケースでは足を洗うこと、観察すること、爪を切ることに時間を割くことができていないといったこともあります。

・2〜3時間の中で1人で5名入浴介助をすることもありました。洗身する場所も狭いこともあり、しゃがむ動作の繰り返しにより腰痛を伴うこともありました。介護者が万全でなければ、万全なケアは行き届かないこともあるのだとおもいます。

・介護士自身が老眼だからと爪を切るのが怖い、出血させるのが嫌だ、報告書を書きたくない。だから爪を切らないといった選択をすることもあるのでしょう。


2.そもそも足への関心や問題意識が無い

足部の観察、皮膚や爪を清潔にすることの意味や重要性を認識していなければ興味や関心、そして自分が普段関わりのある高齢者の足の現状への問題意識には繋がらないのかもしれません。介護福祉士養成課程等において足のケアの大切さや足の爪切りなどのフットケアの教育が十分ではないということも関連性があるのかもしれません。


できるように考えること。そして実践をすること。

入浴の際に足の観察や爪を整えることができないのであれば、入浴以外でできる方法を考え、実践できるかが鍵となってきます。細分化することで解決できる場合もあるのだと思うのです。その前に足の観察ケアや清潔ケア、足の爪切りケアなどのフットケアがなぜ高齢者にとって大切なケアであるのかということを知ることがスタートなのかもしれません。


現在自分たちが行っている介護は、そのまま自分たちが高齢者となり介護を受けるようになった時にそのままのスタイルやケアなどが自分たちの老後の暮らしに跳ね返ってくるものだと私は常々想っています。AIの開発、進歩により課題が全て解決されるわけではないと想っていますし人間でなければできないケアもあるはずです。足のケア(フットケア)もそのひとつだと私は想います。




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