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異端のプロ野球監督。栗山英樹の野球が終わる。栄光と挫折ー成功と失敗、終わりよければ全て良しとはならなかった10年間。

新型コロナウイルスが世界を脅かし、全ては変わってしまった。2023年の北広島新球場へ向けての、北海道日本ハムファイターズという会社の目指す道筋は、深刻にブレたと想像できる。

北広島の新球場は、前提として北海道だけでなく、日本全国、そして韓国、台湾、中国、タイ、ベトナムといったアジア諸国からの観客、さらにはアメリカのメジャーリーグとの提携までを目論んで出発していたはずだ。

そうでなければ、巨大な資金を投じて、初めからある程度の安定した観客数を計算できる札幌ドーム=札幌市から出ていく理由も勝算も見えない。しかしコロナ禍は、その目論見を根本からひっくり返してしまう。まずもって飛行機が飛ばなくなってしまったのだから。

コロナの影響はどこでどう収束するかはわからない。2019年まであれほど賑わっていた札幌中心街に海外からの観光客は、ほとんどいない。韓国からも台湾からも中国からも大勢のツアー客が札幌ドームに来ていたが、もちろんいない。

2020年、2021年としのいできたプロ野球だが、収入減はどうみたって明らかで、中でも飛行機移動をするしかない北海道のファイターズと九州のホークスの経済的な痛手は相当なものではないのか。いくらホークスがお金持ちだからって。独立採算制を目指すファイターズには、そもそもお金もない。

現場チームにとってもコロナ対策を重ねて繰り返されるシーズン、試合と移動の繰り返しは、こちらが想像するよりもずっとキツかったはずだし、そのストレスは、どのくらいだったか。その中で起こってしまった痛恨の中田翔殴打事件は、無関係とは到底思われない。

そして、もしも2020年新型コロナの流行がなかったら、栗山英樹監督は、もうすでに監督ではなく、オリンピックを終えた稲葉篤紀監督にバトンを渡していたし、中田翔も巨人に移籍させられることもなかったし、わたしたちは、新しいファイターズを応援していた。

に、違いなかったが、そんな妄想を並べても現実は、一ミリも変わらない。2021年のファイターズは、シーズン前の予想を覆すことはできず、あまたの野球評論家の予想通りに最下位に沈み、チームは崩壊。一番給料の高かった中田翔は、カットされ、これから契約更新なしの選手は何人でるかゾッとするくらいで、球団にとっては不幸なのか幸いなのか、年俸高額予想の選手は、上沢直之と伊藤大海くらいしか見当たらない。軒並み下がるのを受け入れるしかない状況。

嘘か本当か知らないけど、ファイターズの監督の年俸は安くて、誰もやりたがらないって夕刊フジに書いてあったくらいで、「割りが合わない」ことを栗山さんはずっとやって来てくれたことになる。

去年は、さすがに自分では辞めたがっていたと思うが、つなぎの人もいないし稲葉さんがオリンピック終わるまでと引き止められていたんだろうって、まあ有り体にファイターズファンならみんな分かってたよね…。

2016年に日本一になって以来、北海道に来てからのファイターズの指針「3年に一度(くらい)優勝する」想定は、当てはまらなくなった。それまでのファイターズならば2018年に3位に滑り込んだなら、19年にはそこそこ上位でクライマックスシリーズまでは入っていくことが出来ていたけど、「誰もがどんな場面でも活躍できる」破格のスペクタクルなチーム作りに挑んだ栗山監督究極のロマン野球は成功せず、無惨な結果に終わる。

もしもコロナがなかったら。

もしももしももしも。

もしもしもし…

いくら考えたって振り返ったって詮ないこと。

わたしたちの目の前には、たった今ありのままのファイターズがあるだけ。

その現実から。

始められるのか。2023年の途方もない夢の始まりに向けて。支えることができるとしたら、わたしたち北海道民しかいない。道外や海外からの収益を期待できるかどうかは、全くの暗中模索でしょう。北海道のファンがコツコツ支えるしかないんだよ。

そうまるきり2003年の秋、2004年の早春。「日ハム」のことなんか誰も知らなかった頃と同じように。だけど17年後の今、ファイターズ自体の状況はまるで違う。支え切れるような規模ともわたしには思えないから。

新型コロナの脅威を見て、北広島の新球場のあり方が正しかったのか、疑問にも思えてきている。飛行機でしか移動できないファイターズと世界中から観客を集めたい球場と。二酸化炭素出しまくりのボールパーク構想が、地球の、わたしたちが遭遇している気候変動の脅威にさらされている現実に、削ぐわないのは、明らかだ。いったいどうするんだろうかと不安ばかりが渦巻いている…。

栗山町の森の中に手作りの野球場を開いた栗山さん。監督を退いたら自然の中で畑をやって暮らしたいと話した栗山さん。ボールパークとは真逆の地点に帰るのは、必然なのか偶然なのか。

監督就任以来、2012年の開幕戦から、2021年今日に至るまで、およそ全ての試合を(主にテレビ。ラジオですが札幌ドームでもビジター球場でも)観戦してきた。脱プロ野球を目指し、指導者と選手の関係を変え、ファンとの垣根もなくし、「誰も見たことのない野球」を表現したいと必死で模索、努力して、選手のために、チームのために、北海道民のために、野球界のために、身を粉に、比喩でなく、文字通りに命を削ってきたのが、栗山英樹という一人の人間。

確かに見てきた。わたしは、そう思うけれど。だからと言ってその必死の懸命の努力が、報われるとは限らなかったし、正しいとも限らなかった。全身全霊をかけて育てた大谷翔平と中田翔のあまりにも残酷で無慈悲な非対称。

常人には計りしれない熱量でもって、野球を愛し、おそらくはいつまでも愛するのだろう、異端のプロ野球監督の時間が、終わる。


(文中敬称略)








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