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自分の背中を蹴っ飛ばすための旅

「正解を選ぶんじゃなく、選んだ道を正解にするんだよ」

旅立つ私に母は言った。

人生で初めて、大きな決断を前に躊躇していた時。

「これがやりたい」と気持ちばかり焦って、でもこれは正解なのかな、後悔しないかな、と不安で、前にも後ろにも進めなくなるような。

あなたにも似たような経験があるかもしれない。

旅は私にとって、そんな決断をする時の、自分の背中を押す最後の手段だ。

それまで得た膨大な情報や価値観をぜんぶ置いて、それでもついてくるもの。

諦めきれない夢、忘れられない誰か、逆に生きるのに精一杯の日常で、忘れかけていた感情、想像もできなかった体験。

それを確かめて「ほら!あとは行動するのみ!」と自分で自分の背中を押す、いや、蹴っ飛ばすのだ。

前述のはじめてのひとり旅は、はじめての海外旅行でもあった。

18歳。日本から飛行機で8時間の南半球にあるオーストラリアへ。

大学を休学して、海外留学に行こうとしていた時。

行こうと..決めたはいいものの、私は怖くて、うにゃうにゃ誤魔化しながら、手続きを一向にすすめられないでいた。

そんな私の背中を押してくれたのは両親だ。

「まず行ってみてきたら?」

行きの飛行機はジェットスター。オーストラリア人のキャビンアテンダントのお姉さんに「チキンとビーフ、どっちがいい?」と聞かれただけでパニックになる私。

英語には自信があったのに、そうそうに打ち砕かれて、やっぱり海外生活なんて無理だ、と思いながらシドニーに降り立った。びっくりするほど打たれ弱い..

予約したホテルは思いのほか駅から遠く、重たいスーツケースを引きずってやっと辿り着いた受付では、やっぱり英語の通じなさに打ちのめされるし、もう嫌だと思った。やっぱり打たれ弱い..

ネガティブな印象から始まったシドニーでの最初の朝。朝はだらだらと起きて、あぁ外に出るのは面倒だけど朝食を食べないと、と思う。お腹はしっかりすくらしい。

まずはホテルの近くでカフェを探して、その後はホテルに戻っちゃおうかなぁと思ったけれど、昼間の街の印象は最初のそれから少し良い方に変わった。

お腹が満たされたから、だけではないと思う(笑)

朝になってみるとシドニーは、思っていたより色んな国の人や文化がひしめいていて。英語だけでもいろいろな訛りがあって。そして、思っていたより人がとっても優しかった。

この海辺の街の圧倒的開放感に背中を押されて、最初はおずおずと、けれどそのうち大胆に行動範囲をひろげてみる。

見学にきた学校では質問攻めにしてしまおう。このお店のビーフパイ、有名らしい。せっかくシドニーにいるんだから、ビーチにいってみよう。それならバスに乗らないと。

ホテルを出る時は「いってらっしゃい」

街を歩けば「素敵な服ね」

カフェでコーヒーを買えば「このマフィンは、おまけだよ!」

バスで少し話した人には「初めてのシドニー、楽しんでね!」

旅先で、知らない人に声をかけられるのも、こちらからかけて仲良くなるのも、この時が初めてだ。

「海の上からオペラハウスをみたい!」とミーハー心を丸出しにしてフェリーに乗った私は、むっきむきの腕に「忠誠家庭」と漢字でタトゥーを入れているサングラスのお兄さんから目が離せなくなる。

そのイカつい容貌で?忠誠家庭?

今なら怖くてできないけれど、この時はもう好奇心が優って「写真とっていい?」とお願いした。さっきの打たれ弱さはどこへ。

忠誠家庭のお兄さんは、イカつい体に不釣り合いな満面の笑顔で快諾してくれて、私の古いSDカードには彼の写真が残っている。

コアラ・サンクチュアリで、カンガルーと写真を撮って欲しくて声をかけた台湾人のお姉さんに「留学に来ようと思っていて」と切り出すと、大きな目とイキイキした表情で話をしてくれた。

「私はウェディングプランナーをしていたけど、銀行に転職して、今度は結婚してアメリカに行く前にオーストラリアに遊びにきたのよー」と。

全部楽しかったよ、やってみたいことやるのはいいよね、と。

アリなんだ。そういうキャリア。人生を見方につけて世界を飛び回る事。

本で読んだことはあったけど。ずっと憧れていた世界だったけど。今、目の前に。

頭の栓がポンッと抜けたような、開放感と全能感。今考えると笑えるけど、帰りの飛行機の中、はじめてのひとり旅を反芻しながら

「なんだ。私って自分が想像もできないことが、できるんだ。そういう世界が待ってるんだ」

とワクワクが優って、数ヶ月悩んでいたはずが、きっぱり心が決まって。

結局、大学を休学して語学学校へ。その後は1年働くことができるワーキングホリデー制度を使って、ホテルやレストランで働いたり。

休学した学校は、ワーキングホリデーの後に、少し迷ったけれど退学して、オーストラリアで大学に入り直して。

手を抜いている暇もないほど忙しかった。学校に行って仕事に行って図書館に戻って予習してプレゼンの練習をして。

自分の拙い英語に言い訳をしている暇もないほど必死で、プレゼンの前にはストレスで顔中が痒くなって、パンパンに腫れた顔で企業さんの前に出る羽目になったこともある(笑)

「海外で働く場所を見つけるのは、あなたが思うほど簡単ではないよ」と、高校の恩師に言われてショックを受けながら、なんとか潜り込んだ会社で正社員として雇ってもらい..

「もっと広い世界が見たい」「言い訳できない環境で挑戦したい」という、初めてのひとり旅で決めたことを、正解にするために。

あれで良かったのかな、と思う事もある。あの時こうしていたらどうなっていただろう、と考えることも、たくさんある。

でも私は、海外生活を夢見ていた、中学生の自分に教えてあげたい。あなたは、日本と季節が逆の、南半球にあるシドニーという街に7年暮らしたのよ、と。

ネイティブスピーカーに自分の意見を上手に伝えられなくて、大泣きしていた留学中の自分に教えてあげたい。今では英語で喧嘩もできるし、交渉もできるのよ、と。

「私はコレを正解にする」という覚悟を決めるチャンスを、そのためのワクワクの源を旅は私に与えてくれる。

「えーい!ここまできたら、やるっきゃない!」

旅はいつでも、新しいスタート地点に立つために、背中を蹴っ飛ばしてくれるのだ。

#旅とわたし

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