見出し画像

女性社外取締役は必要なのか② 女性社外取締役の研究と学術的な意義

そもそも女性の社外取締役は、企業の業績にプラスの影響があるのでしょうか?
多くの研究がありますが、答えはおしなべてYESと言ってよさそうです。

この分野の代表的な研究をご紹介します。

Carter, D. A., Simkins, B. J., & Simpson, W. G. (2003). Corporate governance, board diversity, and firm value. Financial review, 38(1), 33-53.
引用5000を超える有名な研究で、フォーチュン1000企業の取締役会の多様性と企業価値の関係を調べたものです。この研究での取締役会の多様性は、取締役会における女性、アフリカ系アメリカ人、アジア人、ヒスパニックの割合として定義されます。つまり女性だけでなく人種も対象にし、取締役会の多様性が財務価値の向上と関連しているかどうかを問いました。
結果、規模、業界、その他のコーポレートガバナンス対策を統制した後の結果として、取締役会の女性またはマイノリティの割合と企業価値の間に有意な正の関係があることを発見しました。また、取締役会の女性とマイノリティの割合は、企業規模と取締役会規模とともに増加する一方、社内昇進者の数が増えるにつれて減少することも発見しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/1540-6288.00034

Adams, R. B., & Ferreira, D. (2009). Women in the boardroom and their impact on governance and performance. Journal of financial economics, 94(2), 291-309.
これも引用8000を超す有名研究で、女性取締役の存在が企業のコーポレートガバナンスと業績にどのような影響を与えるかを分析したものです。女性取締役が取締役会のインプットと業績に有意な影響を与えることを示しました。
この研究が扱った米国企業のサンプルでは、①女性取締役は男性取締役よりも出席率が高く、②性別が多様な取締役会ほど男性取締役の欠席が少ない、③女性取締役は監査委員会に参加しやすいことが分かった。これらの結果は、性別が多様な取締役会ほど監査により多くの労力を割いていることを示唆しています。
ただ本研究の結論は、必ずしも女性取締役が常に業績にプラスとは言っておらず、例えば買収防衛策の少ない企業ではマイナス、といった示唆も提示します。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304405X09001421

Campbell, K., & Mínguez-Vera, A. (2008). Gender diversity in the boardroom and firm financial performance. Journal of business ethics, 83, 435-451
この研究はスペイン企業を対象に、従来女性の労働参加が少なかったが、現在では機会均等を改善するための法律が導入されているスペインで取締役会のジェンダー・ダイバーシティと企業の財務パフォーマンスとの関係を調査したものです。
スペインでもジェンダーの多様性が企業価値にプラスの影響を与えることを発見、ジェンダーの多様性は経済的利益を生む可能性があることを示唆しました。

Terjesen, S., Sealy, R., & Singh, V. (2009). Women directors on corporate boards: A review and research agenda. Corporate governance: an international review, 17(3), 320-337.
女性取締役に関する学術文献のレビュー論文で、企業のパフォーマンスへの影響やガバナンス改善の観点からの研究が整理されてます。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1467-8683.2009.00742.x



Post, C., Rahman, N., & Rubow, E. (2011). Green governance: Boards of directors’ composition and environmental corporate social responsibility. Business & society, 50(1), 189-223.
本研究は、取締役会の構成と企業の社会的責任(CSR)を環境の観点から研究したものです。フォーチュン1000企業78社の開示企業データとKinder Lydenberg Domini (KLD) Inc.の自然環境格付けデータを用いた本研究では、社外取締役の割合が高いほど、より好ましいECSRと高いKLDの強みスコアに関連することを発見しました。3人以上の女性取締役で構成される取締役会を持つ企業は、KLDの強みスコアが高く、また、取締役の平均年齢が56歳に近く、西欧の取締役の比率が高い取締役会ほど、環境ガバナンスの仕組みやプロセスを導入している可能性が高いことも提示しています。
つまり女性取締役の存在が環境に対する企業の社会的責任に、好影響を与えていました。


Lückerath-Rovers, M. (2013). Women on boards and firm performance. Journal of Management & Governance, 17, 491-509

オランダの上場企業を対象とした研究。オランダの女性取締役会指数(Female Board Index)に含まれる上場企業99社を調査、女性取締役を擁する企業は、女性取締役を擁さない企業よりも業績が良いことが示された。

Gul, F. A., Srinidhi, B., & Ng, A. C. (2011). Does board gender diversity improve the informativeness of stock prices?. Journal of accounting and Economics, 51(3), 314-338.
女性取締役が取締役会にいる企業は、より情報に基づいた株価形成がされると結論付けています。これにより、市場パフォーマンスに影響を与えること、ジェンダー・ダイバーシティは、大企業では情報公開の増加、小企業では私的情報収集の促進というメカニズムを通じて、株価情報価値を向上させることを提起しています。

Nielsen, S., & Huse, M. (2010). The contribution of women on boards of directors: Going beyond the surface. Corporate governance: An international review, 18(2), 136-148.
ノルウェーの201社を対象とした調査の結果、女性取締役の比率が取締役会の戦略的管理と正の相関関係にあることを示唆しています。さらに、女性取締役の存在が取締役会活動の活発さと揉め事の少なさに影響していることまでわかりましたが、女性取締役がいるからと言って議論がオープンとまでの結果を得ることはできませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?