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新しい滑走路をつくる。


変えるべきは何か?


私はいま、とても静かに、だけど猛烈に怒っている。実際に私の大事な友人たちを傷つけた男性たちに対しても、弱者を蔑ろにしたまま、そのまま成長し続けてきた、この社会に対しても。

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先日、光栄なことに『SMITHBOOK PROJECT』というプロジェクトで「現代の職人」として取材を受け、それが実際のハードカバーになって、全国の書店で発売された。

その取材は、「私」について深掘りしてくれる、それはそれは素晴らしいものだったのですが(ありがとうございます!)、その中で、私はこんなことを言っていた。

“たくさんのお母さんと関わり対話するようになって気付いたのが、自分には何もできない、自信がない、と思っている人の多いこと。その理由は、恐らく社会で男性性的な認められ方をしていないから、社会的地位や権力が無いからなんじゃないか、と思いました。私からすれば、こんなに気遣いができて優しくて、共感性が高くて……彼女たちは素晴らしい素質を十分に持ち合わせているのに。”


HAHA PROJECTを始めてから、それまでは出会うこともなかった、様々な環境や立場の女性たちと話をしてきた。
彼女たちの不安や辛さは人それぞれで、だけど、それは同時に、共通点があるものでもあった。

その資本“絶対”主義を突き進む平成という時代を生きてきた私たちにとって、経済的な問題というのは、とてもとても大きなものだ。

だけど、いや、だからこそ、本来、豊かな土壌が必要であるはずの、子を持つ女性たちに、その負担や不安がのしかかっている今の現状が是であるはずがないのだ。

変えるべきは何か?
人々のその資本“絶対”主義を刷り込まれたマインドか、そのマインドを元に形成された、現代の社会システムか。



不公平の刷り込みと、男性と女性と、その役割と。


私の実家は曽祖父が開山した北海道の寺院で、曽祖父は私が産まれる前に亡くなったので直接会ったことはないけれど、聞くところによると、開拓者精神のある素晴らしい人だった。
全く知りもしない人を何だか困っているからという理由だけで自身の寺院に呼び、まずはご飯を食べさせるような人だった。

だけど、それとは裏腹に、その男尊女卑っぷりは凄まじいものだった。
それはそういう時代だった、といえばそれまでだし、他にどんな理由があったのかは、今となってはよく分からない。

事実として、そこへ長男の嫁として嫁入りした、アイヌ人ハーフである私の祖母は、幼い子ども(私の叔父)を連れて海へ向かい、心中自殺未遂まで起こした。(もちろん結果的に思いとどまり、そこで彼女は一念発起して、そこから貧乏だった寺院を驚くほど成長させた。)
だけど、アイヌであることを孫の私たちには、ついに最期まで言わなかった。(だから私は20歳頃まで自分にアイヌの血が流れていることを知らなかった)

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今、時代は令和に移り、男女平等やダイバーシティといった考えが主流になり、祖母が苦しんでいたその時代からは考えもつかないほど、生きやすくなったと思う。

だけど、まだまだそんな新しい概念には、頭は追いついていても、無意識の心が追いついていないことが多くて驚く。

男性、女性を問わず、不公平を刷り込まれてきた歴史が、深すぎる。
もちろん、私自身も。
これだけその不公平を変えたいと、誰もが公平に生きやすい社会を実現したいと願いながら動いていても、幾度となく、自分の根底にあるその刷り込みが顔を出し、その度に心底驚くのだ。


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私は、「男性」「女性」と、性、つまり人間を2分割して語ることはあまりしたくない。
むしろ、男性にも女性にも存在する「男性性」「女性性」という言葉を使ってその性質を分け、正しく世の中を理解したいと思っている。

冒頭で、私は猛烈に怒っている、と記した。
もちろん、その言葉は本当で、心底怒っている。
だけど、その対象を「男性」と一括りにして、男性を否定したいわけでは全くない。
むしろ、そんな刷り込みに、同じように不安や辛さを覚え、そうして未だそれに気がつかずに苦しんでいる男性たちとも、手を取り合いたいと思っている。



だけど、だけどね。
それが、誰かを傷つけていい理由には、ならないんだよ。
男性が女性を、蔑んでいい理由には、ならないんだよ。
愛情深くて思いやりがあって、とても優しくて聡明な私の大切な友人たちを、傷つけていい理由には、絶対にならないんだよ。

その身体を使って、あなたの生命を紡いでくれたのは、誰?
そのかけがえのない生命を、毎日大切に大切に、育んでいるのは、誰?

豊かな土壌が豊かである理由は、あなたが持ってくるその水や肥料のおかげだけじゃない。


ましてや、家族というチームを形成していく上のただの役割分担であったはずなのに、現代を生きていく上で必要不可欠なその資源を自分だけのものとして独り占めをして、それを盾にして逃げるなんて、勘違いも甚だしい。卑怯でしかない。

あなたがその資源を自ら持って来られる立場にあるのは、ただ単に、男性であるがゆえに、その立場を辞めなくて良かったから。ただ、それだけ。
(もちろん、男性側にも辞められない辛さや男性性のプレッシャーがあるのも分かる。その問題も、突き詰めれば原因は同じように感じるわけだけれど)



新しい滑走路をつくる。


日本では、シングルマザーの貧困率がとても高い。

ひとり親世帯の相対的貧困率は50.8%と極めて高く、ひとり親世帯の約86%が母子世帯。シングルマザーのうち半数以上が貧困状態に陥っていることになる。(参考:国民生活基礎調査(平成28年)の結果から グラフで見る世帯の状況|厚生労働省 )

男性社会のなかでバリバリ仕事をこなす、聡明で勇敢で引く手数多であろう友人ですら、シングルマザーになることで、今の仕事を辞めて田舎の実家へ帰るしかないかも...と悩むほどの社会。(しかも男性側の不貞が原因で。それなのに、彼女だけが人生を変えなきゃいけないのはどうして? 自分の人生を全うしながら、まだ幼い子とともに幸せに生きたいというのは、そんなに無理な願いなの? そもそも彼女ほどの人がほとんど社会と関わらない選択をせざるを得ないのは、大きな社会損出では?)


ここでもう一度、問いたい。

変えるべきは何か?
人々のその資本“絶対”主義を刷り込まれたマインドか、そのマインドを元に形成された、現代の社会システムか。

私は、そのどちらもだと確信している。
どちらも歯車のように絡み合い、影響し合っているから、せーので、どちらも少しずつ少しずつ、変えていかなければいけないのだと思う。


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私は、いや、私を信じてこれまで伴走してくれているHAHA PROJECTのみんなを含む私たちは、この男性的な価値観(成長こそ善・稼げる者が偉い・論理こそ全て)が絶対であったこの社会に、新たな滑走路をつくりたい。

男女平等や女性の権利を掲げて前線を駆け抜けてくれていた、一世代上までの先輩たちは、「男性たちと同等に稼ごう!」「女性も自立できるようになろう!」と、これまで私たちを幾度となくエンパワーメントしてくれた。

そして、それは少女であった私の心にも例外なく突き刺さり、「男たちなんかよりも稼いで、その上で育児も完璧にこなしてやる!絶対に引退なんてするもんか」と意気込んで、その思いをそのままに3年半前に長女を産み、そしてそれを可能にするために、「子育てに第三の選択肢を」を掲げ、HAHA PROJECTを立ち上げた。

でも、そうして反旗を翻しながら、だけど誰も傷つけない方法を模索しながら活動を続け、話し合いを重ね、気がついたんです。

私たちが本当に欲しかったのは、この男性的な社会のなかで勝ち、そこで中指を立て続けるような世界じゃない。
子どもたちや家族や、大事な友人たちと一緒に、心から好きなことをしながら、小さくても幸せに暮らしていける、本当の意味で豊かな経済圏を確立している世界だったんだ、と。

そうすると、必要なのは、既存の社会で育児と仕事を無理してなんとか完璧に両立する方法でも、女性が出世するための方法でもない。

ガラスの天井を破ることももちろん必要だけれど、もう一つ。
本当に必要なのは、その新しい空へ安心して飛び立つための滑走路であり、自分を信じてしっかりと自分の翼で飛び立てるように自らを整えることのできる、安心できる場所でした


安心できる場所 -banana-


私たちはいま、女性たちみんなが安心できる場所を、みんなの手でつくり出すための、準備をしています。
それは「banana」という名前の、主にオンライン上のコミュニティで、ゆっくりゆっくりですが、確実に、整ってきています。

どこにいても、同じ思いを持つ女性たちが、安心して手を取り合える場所。
いざとなれば、物理的にも協力し合ったり駆け込んだりすることができる場所。誰もが本来持つ、人間的なリズムに寄り添ったり、寄り添われたり、できる場所。

人はひとりでは生きていけないし、子育てはひとりやふたりだけで出来るものではない。
子どもたちは、信頼できる人たちのなかで豊かな心を育んでいく必要があるし、それは大人も同じ。

もし、これを読んでくれている人の中に、今まさに苦しんでいる人がいたら、伝えておきますね。大丈夫。あなたは一人じゃないし、ちゃんと、みんないるよ。あなたは、そのままで素晴らしい。それを心から信じられるようになるまで、みんなで一緒に歩いたり立ち止まったり、時には戻ったり、していこう。

もう少ししたら、みなさんへ招待状を送ります。

ちなみに、滑走路づくりには、その安心できる場所がある程度整ってひとりでに回り出してから、本格的に取り掛かります。
今は、小さなアイディアと理想の種に、プロジェクトメンバーのみんなで少しずつ水をあげているところ。

私たちにとってこの“安心できる場所”は、ただ安心できるだけの場所じゃない。
静かに、でも確実に革命を起こすための、準備をする場所でもあるのだ。
本当に見たい景色を、手を繋いで、一緒に見にいくための場所。
私ひとりでは到底辿り着けない、近くて遠い場所へ。


私のすることは、全て先人の夢である。


最後に、これはプロジェクトとして、というより、私個人として、とても勇気をもらっている動画を紹介します。私の編集者の先輩が手がけた、とてもとても素晴らしいムービーです。

『Future is MINE -アイヌ、私の声- 』​

私のすることは、全て先人の夢である。/ほとんど何もないところから言葉を取り戻すことは 少しずつやれば絶対にできるはずです。(Future is MINE -アイヌ、私の声- より)


この数百年間のあいだ、不当に、苦しく悔しい思いを抱えて生き、そうしてそのままこの世を去っていったであろう、すべての女性たち。
そして、自分のなかの女性性を傷付けられてきた、すべての先人たち。

そのことを思うと、勝手に涙が流れてきて、どうしようもない気持ちになるけれど、ようやく変わることを受け入れ始めたこの時代を生きる人間として、この生を全うしたいと思っています。

革命を、起こしたいとは思っているけれど、それはその言葉の持つイメージとは裏腹に、日々の暮らしのなかで静かに起きるものなのだ、と今なら分かります。暮らしのなかに、全部ある。自分の内側にのみ、その扉がある。

すべての人たちが、それぞれに、豊かで幸せな日々を過ごせる世界が近いうちにやってくることを願って。

長くなりましたが、最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
もし良ければ、一緒に新しい世界を、つくっていきませんか?


HAHA PROJECT代表 / 林 理永


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