調判定できるようになりたい!【第4回・近親調、遠隔調】
前回、転調について触れて、次はソナタ形式を取り上げたい!と思っていたのですが、その前に「近親調」と「遠隔調」について復習しておきましょう。
【近親調とは】
近親調は4つあります。いつでも4つまとめて出てくるようにセットで覚えるのが大事です。
①平行調
②同主調
③属調
④下属調
近親調の「近親」というのは「近い親族」の意味ですから、
この4つの調関係はファミリーのようなものです!
一つずつみていきましょう。
①平行調
:同じ調号を持つ長調、短調
例)C durの平行調はa moll
f mollの平行調はAs dur
前回の記事の「タランテラ」の分析のところでも出てきました。
「d mollでドに♯がついているが、ドに♯がつかない4小節間があり、この部分はF dur」というところです。
平行調は、短調の第7音が導音となる(半音上がる)ところが異なる音で、あとの音階構成音は共通しています。
例えば、C durの曲をa mollに転調するのだったら、a mollの導音「♯ソ」を入れれば良いのです。すなわち、ソの音を半音上げるだけで平行調に転調できます。(そのソは導音になりますので扱いに注意。)
②同主調
:同じ主音を持つ長調、短調
例)C dur の同主調はc moll
Fis dur の同主調はfis moll
この調の関係も前回の「タランテラ」で出てきました。(→転旋)
同主調で音階構成音が異なるのは第3音と第6音です。
よく童謡などを短調にしたり長調にして歌った経験はありませんか?
私は、ひなまつりの歌を長調にしてみたり、チューリップを短調にしてみたりして子どもの頃楽しんだ記憶があります。
それは音階の第3音を上げるか下げるかして転調しているんですね!
(※短調のメロディーはほとんど旋律短音階で書かれるので、第6音はもともと半音上がっている場合が多い。)
このように、旋律の元の形は残し、違う音階、旋法に移し変えるのを移旋と言います。
前回の転旋(こちらは旋律関係なく、同主調で転調すること自体に対して使います)と一緒に覚えておきましょう。
このように、平行調と同主調は、
同じ調号、同じ主音、と共通する事柄があるので、
「近親」というイメージが湧きやすいですね。
さて、
あと2つがちょっとややこしいです。
③属調
:ある調の属音を主音とする調。
例)C dur の属調はG durである。(※g mollではない)
g mollの属調はd mollである。(※D durではない)
※ある調が長調であれば、属調も長調。短調なら短調である。←間違えやすいところです。しっかり押さえましょう。
④下属調
:ある調の下属音を主音とする調。
例)C durの下属調はF durである。(※f mollではない。)
b mollの下属調はes mollである。(※Es durではない。)
※ある調が長調であれば、下属調も長調。短調なら短調である。
いかがですか?なんだか難しい表現ですね。
まず、「属音」「下属音」の復習から。下の音階を見てみましょう。
長音階、短音階とも第5音が属音、第4音が下属音です。
属音は主音から完全5度上の音
下属音は主音から完全4度上の音(そして主音から完全5度下の音でもある)
どちらの音も長短調共通して同じです。
この属音を主音にした調が属調
下属音を主音にしたのが下属調
というわけですが、
完全5度上の調
完全5度下の調
どこかで聞いたことありませんか?
そう、
第1回目、調号の記事で説明した五度圏です!
右へ1目盛進む=シャープが1つ付く=完全5度上の調=属調
左へ1目盛進む=フラットが1つ付く=完全5度下の調=下属調
五度圏で考えれば一目瞭然!
ある調の右隣が属調で、左隣は下属調なんですね。
なんと近い関係!!
これぞ「近親」!!
近親調まとめ
以上の説明からまとめた図です。
図1
その名の通り、近い関係ですが、
調の「近親」というのは
音階構成音がほとんど共通している
ことなんですね!
そして、
1か所、2か所、わずかに臨時記号をつければすぐ転調できる
というのもミソです。
ちょっと気軽にお家にお邪魔できるのは近親関係ならでは!
図1で示した主調と4つの近親調の関係は非常に重要です。
古典派時代までの転調はこれが基本になってきます。
絶対に覚えましょう。(次回の記事で使いますから!)
それから、
もうちょっと広い範囲まで拡大した図も見てみます。
図2
「属調の同主調」など、
「〇調の〇調」まで広げた近親関係です。
ここまでを「近親調」と呼ぶ場合もあります。
遠い親戚も含めるか否か、という感じでしょうか。
【遠隔調とは】
遠隔調は簡単です。近親調以外の調は全て遠隔調です。
ということは、遠隔調というのは、
主調の音階構成音と共通音が少ない音階の調ですね。
例えば、C durからGes durに転調するとしたら、
調号が全くなかった状態から急に♭が6つ付きます。
長い部分Ges durを続けるなら、調号で書かれ、
部分的な転調であれば臨時記号で書かれます。
部分的な転調でも、なんだか急に臨時記号が付き始めたぞ、しかも多いぞ、
♯ばっかりだったのに♭ばっかりに変わったぞ、と言うときは遠隔調に転調していることを疑いましょう。
♪♪やってみよう~コンサートの曲目より♪♪
今日の♪♪やってみよう♪♪のコーナーは壮大です。笑
実は、これを配信した日(7月20日)は、夜19時~ストリーミングコンサートがあるのですが、
https://www.youtube.com/watch?v=rs9jPz6qxcU
(当日から1週間くらいはこちらでアーカイブが見られるのかも)
この中の曲から3曲ほど、転調いいね!の箇所を今から解説しますので、
ぜひ、19時からコンサートを直に聴いて確認してみてください。笑笑
1.ヴィヴァルディ:我らは王をたたえ
ヴィヴァルディはバロック時代の作曲家なので、音階、調性、和声などがまだ確立していない時期になりますが、初心者でもわかりやすい転調になっています。
ピアノ(本来はオーケストラ)の前奏や間奏と二重唱が交互に挟まれてすすんでいくのですが、
前奏-間奏1-間奏2-間奏3-後奏
G : - D: - e: - C: - G:
主調 ー 属調 ー 平行調 - 下属調 ー 主調
というようにシンプルな近親転調で構成されています。
G durの家族紹介みたいなラインナップです。
↓冒頭部分。間奏もこのテーマで調を変え始まります。
ぜひ上の楽譜のテーマが出てきたら、意識を向けてみてくださいね。
7.アルディーティ:口づけ
軽快な3拍子のワルツがひたすら続きます。
長いのですが、調がコロコロ変わるので、色や雰囲気がその都度ガラリと変わり、飽きない名曲。
最初から、調性を見ていくと、
D: - A: ー D: ー G: ー h: ー G: ー e: ー D: ー G: ー C: ー e: ー C: ー A: - D:
(後奏ゼクエンツ部分省略)
こーーーんなに調が変わるのです。
登場するのは、
属調、下属調、平行調、下属調の平行調、下属調の下属調、
と、さっきのヴィヴァルディより拡大しています。
先ほど、【近親調のまとめ】の図2で表した、遠い親戚まで含める、というパターンです。
10.ワーグナー:エルザの夢
「遠隔調」への転調効果が十分に発揮された曲。
そもそもドイツ系の作曲家は和音と転調に凝る傾向があり、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスとずっと凝ってきましたが、後期ロマン(19世紀後半)のワーグナー、マーラー、R.シュトラウスなどは転調の効果を使ってファンタジックな世界を見事に表しています。
転調の時に知らない世界とか宇宙へ行ったような感じがするかもしれません。これは遠い調に転調したためです。
汚い楽譜でごめんなさい。私の楽譜です…
この曲の要となる美しいメロディー、青で囲った10小節間は、
As:から出発して- Ces: ー D: ー F: ー As:
と、どうにも説明しがたい関係の調をたどってまたAs:に戻ります。
楽譜見ていただけるとわかると思いますが、例えばCes:からD:に転調するところ、♭ド→♮シに読み換えています。このように異名同音を使って遠隔調に転調することはロマン派以降多々あります。
ぜひ、上記の近親転調している曲と聴き比べて、印象の違いを体感してみてください!
調の組み合わせ次第で、曲の雰囲気が変わる。
だんだん面白くなってきませんか?
次回こそは、ソナタ形式の調関係について取り上げたいと思います。
質問、感想、ご意見、こんなこと取り上げてほしい!などのリクエストありましたらお気軽にコメントください。
なお、ある程度の知識がある方に向けて書いていますので、これじゃついていけない、という方は、ぜひ個別レッスンに!その人にあったレベルで解説します。(対面、オンラインどちらもあり)
レッスンご希望の方はrie3_e_mail@nethome.ne.jpまで。