梁川梨里詩集『蝶番』を読んで
この詩集を読む、というか、読み解く、というか、詩篇本文を読む以外の、幾つかの仕掛けを感じながらこの詩集を開いています。
『蝶番』という題名から初めに思い浮かんだのは建築用語として使われる扉の開閉できるようにする部品でした。しかし同時に表紙カバーは二頭の蝶で、こちらの表現だと蝶番は「蝶・番い」で、雄蝶と雌蝶のカップル(つがい)ということになります。この二重構造のことばは、調べてみると金具の語源自体が蝶の番いに似ていることから名前がついたと辿り着き、納得することになりました。
この詩集には『蝶番』という収録詩はありません。だからこそ、この「蝶番」の意図を探しています。
この「蝶番」は建築材であり無機物でありまがら、生物のようとも取れます。凪6号で、著者自身がこの蝶番へのもう一つのヒントを書いていました。『斫り(はつり)』という詩篇との関連性です。はつり、ということばも建築用語で、コンクリート作業に関わること全般を斫りというらしいと知りました。
家の建築、あるいはリフォームにおいて、そこを住まいとするであろう家族を形成する二人と、扉の蝶番は存在が重なりました。
『斫り』の中では「自分に見合う番いは来ない」という一行があり、蝶番の話のようでありながら、人同士のつがい(伴侶)をも思い起こさせました。
それと、装幀の形式というか、うす紫(ペールパープル)と真っ白の二色に、カラーが統一されている。余白の美しい組版とも感じられ、白が発光するような美しさを放っています。
この詩集の巻頭と巻末には翻訳詩が置かれています。
冒頭は「Blanche」白。フランス語詩。私は外国語に弱いので内容を的確に読み取ることはできないが、次に巻末詩を見ました。「White」白。もしかしたらと思って本文を確認すると「しろい」という詩があり、訳詩が読めないなりにこの詩の翻訳詩が収録されているのだろうと思われました。
その目次も章立てのない25篇として収録されています。
この謎めいた造本と詩集の二頭の蝶に惑わされ、導かれ、今も詩集の詩篇の扉を開けて、閉じて、開けて、閉じて、読み進め、読み返しています。