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【読書会感想】五七五や五七五七七の話

 読書会に参加した際、ある方から柿本人麻呂の和歌が紹介された。この日のテーマは好きな俳句や短歌だったのだが、万葉の和歌の「見る」の面白さを教えてくれた。

秋山に落つる黄葉(もみぢば)しましくはな散り乱(まが)ひそ妹があたり見む
秋の山の黄葉した葉よ、もうしばらく散り乱れないでくれ、妻の居る辺りを見たいのだ

万葉集 第2巻 137番歌

 妻と別れて都へ上る別れの辛さを詠んだ歌とのこと。
 山道の黄葉した葉が激しく散ると、来た道の先の妻の家が見えなくなるから、散らないで欲しいと、秋山の黄葉へ呼びかけている。

 読書会の最中は、勘違いをしていて、「秋の山の黄葉した葉よ、もうしばらく散り乱れないでくれ、妻の居る辺りが見えてしまうから」だと思っていた。黄葉が強い風で散ってしまうと、枝の間から妻の里まで見通せてしまう。そうしたら、名残を断ち切れないから、本当に里が見えなくなるまで黄葉でまだ隠していて欲しいっていう意かと思ったのだが、それだと妹があたり見むが変だなあとは感じていた。

 柿本人麻呂は、妻が気がかりだから少しでも長く見ていたいというように胸に迫る別れの場面を詠ったけれど、どうも私は、潔いんだか弱いんだかわからないが「どうせ離れねばならぬなら心を寄せるものが目に入らない方がいいぜ」方向のベクトルが働いたらしい。
 この誤読で、私にはそういう傾向があるかもな、と思った。それだけでもなく、私の育った土地柄もたぶん影響している。落葉広葉樹の山が身近だから、秋の落葉で山が丸裸になるイメージが強く、咄嗟に葉が散ったら見やすくなると思ったのだ。
 誤読だが、大事なものが黄金の葉に隠されるイメージは共有していると思う。日に照らされて輝く黄葉を想像する。


 この日の読書会は特に、私の知っている本や著者を、他の参加者からたくさん聞いた。木下龍也最果タヒ若松英輔穂村弘『思いがけず利他』『急に具合が悪くなる』「朝日歌壇」など。
 読書会で新しい作家の方や、全く知らない本の話を知れることは楽しい。だけど、読書会の間、ずっと聞いたことのない話題ばかりだったら、もしかしたら続けて参加はしないかもなあと、この日は思った。
 紹介される本を知っているとか読んだことがあるとか、それは読書会を楽しめる条件ではないけど、この人も読んだんだ!と嬉しくなることがあって、私はそれも楽しんでることに気づいた。ただ、繰り返すが、たくさん知識があるとか多読であるとか、本が好きかどうかも、読書会を楽しむための条件ではない。

俵万智『あなたと読む恋の歌百首』

積読本の中からサルベージしてた

 この日に私が紹介したのは別の本だが、「朝日歌壇」を愛読されている方がいて、たくさん素敵な句や歌を紹介してくださった。
 朝日新聞つながりで読み始めている。一九九七年の刊行。30年位前に朝日新聞日曜版に連載されていた俵万智さんセレクトの恋の歌とエッセイ。30年という時の流れをエッセイから感じる。
 まだ途中だが、短歌にまつわる俵さんのエッセイについてはピンとこない。うまい具合に私とズレているのかもしれない。

 読書会で、「短歌は時と場合によって自分の読み方が変わるんですよねぇ」とおっしゃった方がいた。
 短歌は言葉数が少なくて余白がある分、読み方の可動域が広いのかもしれないと思ったが、読み方の余白は、作品の側でなく読む自分に探すことも出来ると思った。いつかこのエッセイにピンとくる時が来るかも知れぬ。