若さの残り火
週末にベスパを点検に持っていった。どこにも悪いところはないが保証の関係で定期的な点検が必要になっている。僕にとっては、はじめての外車なので保証=命綱のイメージで点検も真面目に受けている。
週半ばくらいから「週末は南岸低気圧の通過で関東でも雪の可能性」と、天気予報がしきりに言っていたので心配だったが、結果的には曇りでセーフだった。
雪と雨以外にもう一つ心配だったのは『寒さ』だ。
この季節、バイクに乗る時はモモヒキにジーパンで乗っているけれど、今、僕のジーパンは穴だらけになっている。正月中、弱っていた時に、うちの猫が僕のところにやって来てはジーパンを履いた僕の足で爪を研ぐ、というのを繰り返したからだ。膝から太ももにかけて大小8つほどの穴がある。
これでは絶対に寒いと思ったので、よそ行き用のズボンで行こうと思ったが妻に止められてしまった。若い頃から「バイクに乗る」と言っては、ついでに整備もして、油の付いた手でズボンを汚してきた過去があるので、彼女はそれを警戒しているのだ。
「ベスパだから大丈夫だよ」と言ったが彼女は譲らなかった。
「寒いんだから、あのダサいズボン履いていきなよ。」
ダサいズボン…。オーバパンツのことだ。正面切ってダサいと言われるのは悲しいが、確かにダサい。
「えー。点検が終わるまで待ってるのが恥ずかしいよ。」
「寒くて良いことなんか無いんだからダサくても良いじゃん。」
仕方なく約1年ぶりにオーバーパンツを履いた。
意外にも自分の記憶よりもダサくない気がした。
オーバーパンツを履きジャケットを着た僕の姿を見て、妻も「そんなにダサくないね?」と言った。
変だな。あのダサかったズボンが似合うようになってしまった。これも歳を取ったおかげ、というか歳のせいというか。自分自身がこのズボンと釣り合うようになったということだな。
あまり良いことではないけど、良しとしよう。
思い返すと30代半ばにも同じような事があった。それまで着ていた若い雰囲気の服が似合わなくなった。それと同じ波がまた来た訳だ。
あーあ、またおじさんになっちゃうよぉ。
(もう十分おじさんなのは承知)
負け惜しみを言わせてもらうなら、服や持ち物が自分に似合うかどうかが自分で判らなくなる時、その時が来るまでは、まだ若さの残り火があると言って許されるのじゃ無いか?と思っている。