日本中の重症心身障がい児と出会うために ~Ricoraのココロインタビューvol.1~
河村雅美
重症心身障がい児童デイサービス リコラ管理者
プロフィール
看護師として市民病院の小児病棟に勤務
東大阪市の重症身心障がい児童を専門とした福祉施設で9年間勤務
2021年3月奈良市にRicora(児童発達支援・放課後等デイサービス)を設立
小学生から大学生までの4児の子育て中
趣味は仏閣巡り!
++++++
Ricoraを作った目的は「最高の支援を行うためではありません」そう語る河村さん。彼女が見据えるのは、その先の子どもたちの未来です。設立4年目を迎えたRicoraを作ったときの想い、そして、これから目指す未来についてお聞きしました。
インタビュー&ライティング andna野村由紀
1. ふたつの再会から始まった障がい福祉へのかかわり
地元のお祭りでの同級生との再会
障がい福祉との出会いは、地元のお祭りで高校の同級生とバッタリ再会したことがきっかけです。卒業以来の再会となる同級生は、2012年4月に開始される新しい福祉サービス「放課後等デイサービス」を運営する準備をしており、「施設を手伝ってくれないか?」と誘ってくれました。
しかし、私の福祉へのイメージは、看護実習の精神科で経験した「怖い」「汚い」というもの。熱心に誘ってくれていたため、断るにしてもとりあえず見学をしてからにしようという消極的な気持ちでした。
小児病棟に入院していた子との再会
見学に行ったのは、開所したばかりの重症心身障がい児のための放課後等デイサービス。初めて足を踏み入れた福祉施設で出会ったのは、体が動かない子や医療が必要な子どもたち。明るくポップな施設の雰囲気に、想像していた福祉の世界とは全く違う空気を感じました。
一番驚いたのは、看護師として勤務していた市民病院の小児病棟に入院していた子との再会。「わぁ、〇〇くん、ここに来てたんやー!」思わず声を掛けていました。小さな赤ちゃんだったあの子が、医療的ケアに支えられ小学生に成長し放課後等デイサービスを利用していたのです。
2. 放課後等デイサービスの役割は「お母さんの支援」
お母さんの支援ってどういうこと?
その施設で大切にしていたのは、子どもの支援だけではなくお母さんの支援をすること。しかし、「お母さんの支援をするというのはどういうこと?」と、最初は意味が分かりませんでした。
放課後等デイサービスができるまでは、重症児たちはお母さんと一緒に過ごしており、お母さんには自分の時間はなかったのです。そのため、子どもには子どもらしく楽しく過ごせる時間を、お母さんにはお母さんの時間を過ごしてもらいたいという思いで作られた施設でした。
新しい出会いと繋がりを作る取り組み
子どもたちがたくさんの経験ができる場所を目指していた施設では、施設の増設、新しい福祉サービス、新しいイベント、次から次へと新しいことにチャレンジしていきました。目まぐるしく進化する施設運営の中で、子どもたちの支援をするということは、施設の中だけで楽しく安全に過ごすことだけではないということを学ぶことになったのです。
施設外の取り組みとして、難病の子どもとその家族をUSJに招待する活動に参加したり、福岡県の重症児の施設へ訪問させてもらったりしました。そこで新しい出会いが生まれ、自分の経験を活かし繋がりを作り、それを子どもたちの支援に活かしていくことができるのです。とても楽しく価値のある仕事だと感じていました。
日本初の訪問型重心児サービス開始
大きな転機となったのは「居宅訪問型児童発達支援」に携わったこと。このサービスは、施設に通所することができないくらい重度の障がいのある子どもたちの家庭を訪問し、医療機関と連携しながら支援をすると共に、通所サービスへと繋げていくことが目的です。
2018年4月、当時勤務していた施設が、日本で最初にこのサービスに取り組みました。施設の子どもたちより重度の子どもと接するため、支援を行う人は医療の知識や療育についての高い専門性を求められます。そのチームに看護師として関わらせてもらうことになったのです。
重症児の家庭での子育てを知る
居宅訪問型児童発達支援を通じ、重症児の家庭での子育ての大変さを改めて知ることになりました。今までは施設で過ごす子どもの姿しか知らず、お母さんの気持ちを深く知る機会はありませんでした。しかし、家庭を訪問することで、ご家族との距離が縮まり、お母さんが悩みながら怖がりながら光が見えない中を必死で子育てをしている姿を知ることに。お母さんは福祉の専門家ではなく重症児と接ことも初めてのため、メンタルが不安定になることもあります。
専門家チームの役割は、ちゃんとケアをすれば怖くないし外出もできるようになることを、お母さんに伝え寄り添い、その方法を一緒に考えていくことでした。
たくさんの経験がRicoraを作る自信に
重症児が外出するためには、たくさんのハードルがあり難しい仕事でしたが、私には必ずできるという自信がありました。それまでの施設での経験があったからです。
福祉での看護師の役割が分からず試行錯誤してきた日から6年が経ち、たくさんのことを経験していく間に看護師としてだけではなく、障がい福祉の仕事の価値を感じ、私の中にRicoraを始めるための気持ちが育ってきていました。
3. 医療的ケアの必要な子どもたちが新しい冒険をする場所「Ricora」
Ricoraを立ち上げた理由
Ricoraを立ち上げるときに考えていたことは、放課後等デイサービスを作ることがゴールではないということです。
奈良県の重症児と出会いたい。日本中の重症児と出会いたい。子どもたちに障がい福祉を通じてたくさんの出会いがあることや、そこから新しい世界が広がることを伝えたいと思っていました。そのための拠点として自分の住む奈良市に作ったのが、重症児を受け入れる施設「Ricora」です。
学びながら考えながらの1年目
2021年3月Ricora開所。当時のスタッフには、障がい福祉に関わった経験者はいるものの、重症児の子どもたちのサポート経験者はほぼいませんでした。1年目、スタッフは重症児のサポートを学びながら、私は新米管理者として組織作りを考えながら、事故を起こさないようにするだけで精一杯の毎日でした。
2年目になると、利用者さんも増え、スタッフも慣れてきたこともあり、夏休みに向けて更に人を増やしていくことに。利用者さんは多い日も少ない日もありましたが、施設としての形はなんとか作ることができてきました。
スタッフからの大ブーイング!
Ricoraを作ったのには大きな目標がありました。ただ安心安全に楽しく過ごせる場所というだけの施設を作りたかったわけではありません。Ricoraの大きな特徴となるイベントが始まったのは、1年が経ったときのことです。1周年記念のイベントとして、親子参加のイチゴ狩りを企画しました。
Ricoraでは、さまざまな経験のできる場所として、たくさんの施設内外で行うイベントを行いたいと考えており、その最初のイベントです。しかし、スタッフからは大ブーイング。「準備が大変、危険、言うのは簡単だけどやるのは私たちです」と言われてしまいました…。今までの施設ならみんなでわいわいと楽しみながら取り組めたイベントも、経験のないRicoraのスタッフにしてみると、とんでもない無理難題に思えたのです。そしてそれは、スタッフの経験不足だけではなく、私がRicoraの想いをしっかりと伝えることができていなかったから。自分の理想の施設を作るために、人を巻き込むことの大変さを痛感した出来事となりました
福祉の仕事の価値を感じる経験
イチゴ狩りを皮切りに、2年目からはイベントを数多く企画しました。クリスマス会やお花見などの季節を感じるイベント、みんなで楽しめるイベント。ただ、スタッフは積極的ではなく、私が企画するイベントに渋々ついてくるような感じでした。
スタッフが変わってきたと感じたのは3年目(2023年)のこと。はじめてのおつかい、藍染め体験、親子陶芸など、スタッフから新しい企画がどんどん提案されるようになってきたのです。
最初は大ブーイングだったスタッフが変わった一番の理由は、イベント後の子どもたちの笑顔やお母さんたちの声が聞けたことで、自分たちの仕事の価値を実感することができたから。子どもたちやご家族と一緒に時間を過ごし、一緒に感動することで、私が伝えたかった福祉の仕事の喜びをスタッフも感じてくれたのだと思います。
4. Ricoraがイベントを大切にする理由
子どもたちとのさよならの経験
2024年春には、ちんちん電車に乗るという親子遠足を行いました。天王寺駅発の電車を貸し切った90分間の大冒険です。ご家族は、奈良市から集合場所の天王寺まで電車や車での大移動。遠足が始まる前から冒険は始まっています。車内では歌やクイズやゲームなど、ご家族みんなで楽しめるよう工夫を凝らした企画がたくさん。当然準備は連日夜遅くまでかかりました。
そうまでしてイベントを行うのには理由があります。
前の施設に勤めていたときに、何人もの子どもとのさよならがありました。私たちにとって当たり前の毎日は、重症児にとっては当たり前ではないのです。だからイベントも遊びも中途半端なものにしたくないと思っています。
子どもたちにとって、1年後の親子遠足はとてもとても遠いのです。今を精一杯楽しめるよう、後悔することのないよう、イベントには全力で取り組む!そして、ただ楽しくイベントに参加してもらうだけではなく、この子に何を感じてもらいたいのか、イベントや遊びを通じて何を届けたいのか、家族で参加することにはどのような意味があるのか、私たちはしっかりと考えイベントに取り組む必要があると思っています。
5. これからのRicora
子どもたちの未来をみんなで考える
子どもたちには、Ricoraでいっぱい遊びたくさんの経験をすることで、この先どこに行ってもいろいろなことを乗り越えて行ける子になって欲しいと思っています。そのためにも、たくさんの経験ができるよう、絵本プロジェクトや交流会や学生との繋がりなどこれからも作り続けます。スタッフには、Ricoraの想いを理解し、施設の基盤をしっかりと固めて欲しい。
そして、私たちが目指すのは、最高の支援をする場所ではなくその先です。
子どもたちの未来のためにたくさんの人との繋がりを、みんなで一緒に作っていきましょう!
リコラのInstagramはコチラ