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春の夜

そういえば、20代のころに書いていたブログはどうなったのだっけ。もうログイン情報も思い出せない。眠れない日はノートパソコンで何か打ちこんで、気が済んだら寝ていた気がする。あれはまだ、ひとり暮らしを始める前だ。

夜、東向きの小さな窓から月の光りが部屋に届く日は、灯りを消してカーテンを開け、ベッドにうつる濃い影を見ていた。北側にある私の部屋は、東の小さな窓がいちばん明るかった。満月の夜は、東の窓から月の姿が見えなくなっても、濃い影を映してくれた。

階下から聞こえる笑い声より、あたたかな場所より、北側のひんやりした部屋が私の居場所だとよくわかっていた。月の光りが映す影を見ていると、ときに感情がゆれることがあった。朝が来れば、それは消えてしまう。夜だけの、大げさといってもいい感情の反抗か何かだったのだろうと思う。

明るい世界では、鈍感になっていないとやっていけない。夜の感受性のまま昼間に飛び出したら、白い花を咲かせた雪柳がお化けにしか見えなかった。ひどく混乱して取り乱して、底に沈めておくべき感情が表層に出てきてしまったことを後悔した。夜になにか浮かんだ考えは、眠りの中で地中深くに埋めてしまうほうがいい。そうして忘却するのがよい。


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