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「自分らしい働き方」を買いたいあなたへ

女性向け商品を売るコツをご存知だろうか?
キーワードは「あなたにぴったり」「あなたらしくいられる」「あなたの本来の魅力を取り戻す」。

例えば化粧品を買うとして。
「全くの別人に生まれ変われます」と言われるより、「あなたの持っている本来の美しさを取り戻せます」と言われた時。

例えば洋服を買うとして。
「着るだけでモデルのようなスタイルに見えます」と言われるより、「着るとあなた自身の魅力を引き出せます」と言われた時。

後者の方が思わず買いたくなりはしないだろうか。
これは、多くの女性が持っている心理をうまく活用したアピールなのだ。

※以降、「女性は」と大きい主語で文章を書き進めるが、一般的な概念としての女性という意味で使っていく。勿論当てはまらない人もいることは承知しているが、ご了承いただきたい。

脳が求めるストーリー

突然話は変わるが、男性と女性では脳の求めるストーリーが違うと言われている。
男性が求めるのは冒険による成長ストーリー。平凡な主人公が使命に目覚め、仲間と共に努力して成長し、使命を果たす。
一方女性が求めるのは、自分が本来いるべき場所に戻って新しい人生を取り戻すストーリー。不遇な境遇にいる主人公が誰かの手によって見出され、新天地で幸せに暮らす。
この2つの大きな違いは何か。
それは、変化しているのが「自分自身」なのか「周囲の環境」なのかということだ。

女性の求めるストーリーは、主人公自身に何か課題がある訳ではない。ただ周囲の環境に問題がある。だから、本来いるべき場所に行けば、元々持っている魅力や能力が開花して、みんなから認められ、幸せに暮らせるのだ。この時、主人公自身に努力や変化は必要ない。だって元々素晴らしい存在なのだから。いるべき場所が間違っているだけなのだから。

女性に商品を売る方法

さて、話を戻そう。商品を売る話だ。
ストーリーに照らし合わせて考えると、答えは自ずと見えてくる。
あなたはそのままで素晴らしい、ただ、「メイクの仕方」とか「洋服の選び方」とか、ちょっと方法が間違っているだけ。努力は必要なくて、あなたの本来の魅力に気付いた私が、正しいアプローチを紹介します。それを手に入れれば、元々の魅力が引き出されて、もっとあなたらしく素敵に生きられる。
このストーリーに沿って商品を勧めれば、買ってもらえる確率はグッと上がると言われているのだ。

私はこの方法に問題があるとは思わない。
例えばファッションにおいて、骨格診断とかカラー診断はとても人気があるし、私も診断してもらったことがある。自分に似合う(と言われた)物を身につけるのは気分が良いし、実際は似合っているかどうかはさておき、自分が満足した物を買える確率が上がるならハッピーだ。

自分らしく幸せでありたい。
これが女性の持つ本能的な欲求なのだとしたら、それを満たそうとすることや、満たすような商売をすることを否定する気はない。
だが、近年これが「働き方」にまで及んでいるように感じる。別に「自分らしく幸せに働きたい」と本人が願うまでは良いのだが、問題はその感情を食い物にしてお金を稼ごうとする人々がいるということだ。特に狙われやすいのは、子供のいる女性である。

自分らしく働く、を金で買う

例えば育休明けは、仕事がままならない人も多いだろう。保育園に預け始めて一年は特に病気をもらってきやすく、熱が出てお迎えに呼び出されることもしばしば。残業もできない。同期は先に出世している。育児も仕事も中途半端。私の働き方はこれでいいんだっけ?そんな疑問が生まれやすい時期だ。
そんな時に、「今もやもやしているのは環境が悪いだけ」「あなたらしく輝ける場所が別にある」「これまで何人も自分の居場所を見つけて幸せに稼いでいる人がいる」そんな風に囁きかけられたら。
思わず飛びつきたくなる気持ちもわかる。誰だって、「あなたにはあなたが気付いていない素晴らしい価値があるんだ」と言われたら嬉しいに決まっている。そしてその素晴らしい価値を活かして、今より楽しく、今よりたくさん稼げると言われたら。その誘いはすごく魅力的に聞こえることだろう。

でも、一歩立ち止まって考えてみてほしい。
その言葉は、セールストーク。あなたを想っての言葉ではない、商品を売るための宣伝文句なのだ。
洋服や化粧品なら問題はない。気分よく買い物して、人生の満足度が上がるならそれでいい。だが働き方はどうだろうか。冷静になって考えてほしい。果たして、働き方は買えるものなのか。自分がお金を稼ぐ手段そのものを、別の人から買ってうまくいくのだろうか。

世の中にはキャリアコンサルタントという職業がある。転職エージェントもある。どちらも適職について相談には乗ってくれるだろう。うまく活用するのは手段の一つだ。支払う金額に納得できるならそれもいいだろう。でもその金額が極めて高額だとしたら……果たして望んでいるものは手に入るのだろうか。

自分らしく働くとはなんなのか

そもそも、自分らしい働き方とはなんだろう。
仕事において自分らしさとはそんなに大切なのだろうか。仕事とは、自分以外の存在になんらかの価値提供を行い報酬を得る行為だ。相手が価値を感じなければお金にはならない。つまり判断のベースは自分にはない。
そういう行為において、本当に自分らしさは必要なのだろうか。勿論自分を表現して対価を得ている人たちもいる。でもそんな人はごく一部だし、自由業の代表だと思われる小説家だって漫画家だって、読者が望むものは何かを考えている筈だ。
すると、大切なのは自分の能力においてどの分野なら相手に必要として貰えるのか、という点になる。仕事は人のためにすることで、自分のためにするのは仕事ではなく趣味だ。あなたは歌を歌いたい時、カラオケに行ってお金を払い、歌を歌う。お金は貰えない。あなたの歌は他者に提供する価値が低いからだ。インターネットが普及して誰もが気軽に発信活動を行える為に忘れがちだが、本来自分のためにする発信はお金にはならない(余談だが、趣味を仕事にしてしまうと、自分のために行う娯楽の一つを失うことになる)。

では、何が人の役に立てるのか、何が必要として貰えるのか。これは過去の経験からしか見えてこない。自分が普通にできて人から褒められた経験を思い出してもいいかもしれない。必要なら友達や会社の同僚に聞いてもいい。でもそんな事をしなくても、現在仕事をしてお金を貰えているなら、それは誰かに価値提供できているという事だ。まずはそこに目を向けてはどうだろうか。

少なくとも、自分がどんな価値提供ができるかは、誰かに大金を積んで探してもらう事ではない。だってその人はあなたのことをよく知らないし、あなたにお金を払う側ではなく、あなたからお金を貰う側の人間なのだから。

そうは言っても仕事がつらい時に

とは言え、今が辛くてたまらないという人もいるかもしれない。どうしてもつらいことは、できたら解決した方がいいだろう。
そういう時は、一度紙に辛いことを書き出してみるのがおすすめだ。ポイントは出来るだけ具体的に書き出すこと。仕事がつらい、ではなく、朝の満員電車に乗るのがつらいとか、夕方の保育園のお迎えがギリギリで帰宅後短時間で食事を作るのがつらいとか、毎日言われた事務作業をエクセルで淡々とこなすのに嫌気がさしたとか。具体的に嫌なことが見えると、解決策が立てやすい。満員電車が嫌ならフレックス勤務使うとか引っ越すとかグリーン車乗るとかで意外となんとかなるかもしれない。食事は作り置きサービスで解決するかもしれないし、エクセルの単純作業ならマクロの勉強して自動化できるかもしれない。
そうやってつらい要素を一つずつ潰していけば、意外と今の職場が居心地が良くなる可能性もある。誰かに強制労働させられていない限りは自分で職場を選んでいる筈で、はじめに選んだ時には何らかの魅力を感じていたのではないだろうか。
そうやって考えると、目の前にある仕事は、自分で思っているよりずっと、自分にとって価値がある仕事の可能性が高いのだ。

終わりに

この文章は、とある音声配信を聞いて仕事に悩む女性の存在を知り、その時に感じた違和感を言語化したいと思い、書き始めた。

あくまで個人の意見なので、この考え方が正解だと言う気はない。だが、もし目の前の仕事に悩んでいて、自分らしく働くために大金を投じようとしている人がいたとしたら……その課金は本当に必要なのか。
今一度、考え直してみる機会になれば幸いである。

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