小説 「シャースク・ラブ」 VOL.20
村上と葵が付き合っていた当時通っていた、こじんまりしてはいるが、お洒落な雰囲気のイタリアンの店で料理を待ちながら、まず会話を始めたのは葵だった。
「ごめんね、突然呼び出しちゃって」
「いや、こっちも一度話しておきたかったからいいよ。それはそうと綺麗になったな」
村上の突拍子も無い発言で葵は目を丸くする。
「あはは、どうしたの急に?」
「振られたのは認識しているし、今更口説いても仕方ないのは承知しているが、昔から嘘は言わないだろ? 今の素直な気持ちだよ」
「ほんとだ。 目が二重になってる」
「どういうことだ?」
「真面目な話しする時だけ二重になるの。気づいてなかった?」
「それは気づかなかったな」と村上は気づかない振りをした。
「で、新しい彼とはうまく言ってるの?」
「うん…」と頷いた後、葵は俯いた。
その様子を見て、村上が怪訝な顔をした。
「それにしては浮かない顔してるな」
「んーん、凄く優しいし、かっこいいし、うまくいってるよ」
「それは良かった。なんだ、惚気話をされる為に呼ばれたのか?」
「違うよ。ただ…この前会った時、正直、村上君の事も好きな気持ち残ってる自分に気づいちゃって。それに…」
「それに?」村上はにやけそうになる顔を必死に抑え、平然を装い聞いた。
「正直言うとね。今の彼、あっちの方がね。余り相性良くなくて…」
「あっち?」と言った後、すぐに察し、「ああ、あっちね」と言った。
「そ。村上君との身体の相性凄く良かったんだなって、思っちゃって」
「でも寄りを戻したいって話では無いんだよな?」
「ごめんね。それは無いかな。ただ、たまに会って、するのってどう思う?」
「つまりだ。セフ…って事か?」
村上は明らかに動揺を隠せず思わず声が声が上擦った。
「セフって言うか、なんていうか。仲の良い友達で入れないかなって」
「ちょっと待ってくれ。いや、それは願ったりだけど。いや、そもそもなんで振られたのかを聞きたかったんだが」
「それ言わないと、だめ? 村上君はそんなの気にしないかと思ってんだけど」
「いや、だめじゃ無いが。そもそも」と言いかけたところで村上の携帯が鳴った。それはまなからだったが、村上は取るのを躊躇った。
「電話いいの? 取らなくて?」
「ああ、大丈夫だ。じゃ、今夜もこの後って時間あるのか?」
「うん」
携帯音が鳴り止んだ。
つづく