短編小説 「グレイとの恋」 【全編】
「どうやら、目の前のこの美少女は異星人らしい」
男はずり落ちそうになった眼鏡を直し、目の前に突如現れた女性を呆然と見つめた。
この世界に異星人が現れて、早数十年が経とうとしている。侵略する訳でもなく、彼らは友好的に現れた。友好的とは言え、彼らはその異形から中々受け入れられる事が難しかったが、変身する<能力>を使い、人間の容姿を真似た事で次第に社会へと溶け込んいった。やがて、人類は彼らの<能力>でそれまで以上に発展していった。中には正体を明かし<能力>を使う事で各分野でスター扱いされる異星人もいたが、殆どの異星人たちは<能力>を恐れられ、忌み嫌われる存在にもなっていった。
両親が生まれた令和から随分と時は経ったが東京の住宅事情は相変わらずで、モニターや部屋の家具は未来的になってはいるが、狭さは変わっていない。
大学生の白井悟が六畳一間の狭い一室で一人、真剣な表情でスマホを睨みつけている。「今日こそ必ず引いてやる」と意気込みを呟いた。
画面には「マジカルアイドルズ レアガチャ 10回連続ルーレット」の文字が書かれていた。その下の購入ボタンを決意の表情と共に押す。魔法使いの女性キャラがステッキを振り回すと、可愛い星図柄が次々と出てくるが、全て赤色で星の中からは四ツ星のレア度が低いキャラしか出てこない。
くそっダメか、と悟が落胆しかけるが、今度は最後の星が中々出てこない。魔法のエフェクトは今までに見た事が無いくらい派手になっていく。悟の期待は否が応でも膨らみ、思わず「行け!」と叫んだ。
エフェクトが虹色に輝き、中から虹色の星が現れた。
やった!とガッツポーズを取る悟だが、虹色の星の中からはキャラクターが出てこない。画面には「スーパー激レア抽選」の文字が浮かび、レア度が高いキャラを担保に抽選を行うと激レアキャラが引けるとの説明が書かれている。
悟は今まで激レアキャラを引いた事が無かった。そもそも、このゲームにハマったきっかけは些細な事からだった。大学に入り密かに想いを寄せていた女性に振られ、現実世界からの逃避から始めたが、ゲームの中ですら好きなキャラが引けずにいた。
そんな中での激レア抽選。失うものがない悟は迷わずボタンを押した。すると、スマホから等身大の立体的な映像が現れ、先程の魔女が抽選を行い始める。悟は思わず床にスマホを落とし、最近のスマホは凄いな、と眺めた。
先程同様の魔法のエフェクトが、今度は立体的に行われ、虹色の星にヒビがはいっていく。悟は静かに手を組み、自然と祈っていた。派手な光と共に虹色の星が砕け散り、中から光が溢れだす。立体映像とは分かっていても、その迫力に思わず仰け反り、眩しさに目を瞑った。
悟が目をゆっくり開けると、目の前には一人の女性が立っている。「おめでとうございます! スーパー激レアキャラ、伊崎エリ、異星人、星7つ」と立体的な文字が現れ、消えた。ほ、星7つ! 異星人!?と思わず声にするが、ここで違和感に気づいた。文字が消えても、その女性は消えていない。寧ろ映像ですら無いことに気づいた。そのキャラは現実の人として、男の目の前に存在していたのだ。
悟は眼鏡の位置を直し、女性を見つめ、思わず呟いた。
「どうやら、目の前のこの美少女は異星人らしい」
突如、スマホから現れた美女は戸惑い、辺りをキョロキョロ見回した後、恥ずかしいそうに悟を見つめた。
「あ、あの。はじめまして」
「え、あ、はじめまして…」
異星人、伊崎エリと紹介文にあった女性の美しさに見とれる悟だが、我に返り、「って、いやいや、よく出来たホログラムだなぁ」と言いながら、エリの胸付近に触れた。しかし、そこには柔らかなハッキリとした感触がある。
エリは恥ずかしさで真っ赤になった顔で悟をみつめ、「あの…いきなりそういうのはちょっと…」と呟いた。
慌てて後退る悟。
「ご、ごめん! って、ほ、本物? スマホっていつから次元転移装置付きになった?」
「えっと、良く分からないですけど、私は景品みたいなので、宜しくお願いします」とエリは頭を下げた。
「ちょっと待ってよ。景品て、おかしいでしょ? 人道的に人が景品って…」と言いかけ、エリが異星人であるとの説明を思い出した。
「よく分からないですけど、異星人は景品の対象になるっていう法律ができたらしくて」
異星人にもランクがあり、スターになった一部を除いては忌み嫌われる存在だった。
「じゃあ、君も水に濡れると…」と呟きながら悟は後退る。
異星人は様々な〈能力〉を使うが変身はどの異星人も使える基本的な〈能力〉だった。但し、なぜか変身は水に弱いらしく、雨などで全身が濡れると絵の具が溶けるように、変身の皮が溶け、本来の異型な姿に戻ってしまう。悟は幼少時代、偶然変身が解けている異星人に遭遇して以来、差別を嫌う風潮に合わせて表だっては言って無かったが、異星人を嫌悪していた。
「とにかく、景品だって言わてもーー」チャイムが鳴り、壁にドアフォンのカメラの映像が映し出された。映像の男は馴れ馴れしく悟を呼んだ。
「さとるー? いねーの?」
それは大学の同級生の山寺真也だった。悟は事の突然さにすっかり真也が訪ねてくる約束が頭から抜けていた。
ドアフォンが再び鳴り、真也が呼びかけ続けている。真也の執拗い性格を知っている悟は諦め、応答する。
「ト、トイレ行ってたよ。今開けるから」
悟は玄関に向いかけるが、エリの元へ駆け寄り「とりあえず静かにしてて、いいね?」
頷くエリ。悟も同調するように頷き、再び意を決して、玄関に向かう。玄関を半開きにして、隙間から顔を覗かせた。
「ま、まだ着替えてるからさ。今出るから」
悟の焦った様子にすぐに異変を感じ、真也は無理やり扉をこじ開け中へ、片手に持つスマホを自身に向け、録画しながら入っていく。
「どーもー。今日は友だちの悟の家に来てますよー。さぁ。悟君、女だろ? その感じ。何で言わないんだよっ、つれねーなぁ。誰だよ、紹介しろよ」
「ちょ、ちょっと待って、ち、違うって!」
「いいから、いいから」
ひ弱な悟は簡単にガタイの良い真也の力に押し負け、真也の進行を止められない。真也はしがみつく悟を引きずりながら部屋へと入る。真也は本当にいたエリの姿を見て、思わずスマホを下ろした。
「…あ、こんにちは」
エリが恥ずかしそうに頷く。
「って、ホントに女かよ。マジ? 彼女なの? 何で言わねーの? 付き合い長いのによ、つれなさすぎじゃね?」と慎也が矢継ぎ早に尋ねた。
しがみついたままの悟は観念し、事の顛末を真也に話した。
エリをじっと見つめる真也。
「はぁ、この子がねぇ。異星人なんだ? で、景品だと。はぁ…ま、でもさ。こんな可愛いんだもん、いいじゃん付き合っちゃえよ」
悟は眼鏡を直し、「気軽に何言ってるんだよ。景品とか訳分かんないし。それに…」と口篭る。
「なによ?」
「…いや、異星人だよ。異星人とはさ…流石に…」
「はぁ? お前、そんな差別者だったっけ?」
「差別はしてないよ。く、区別。そう、区別だよ。違うんだよ、彼らは」
話を聞いていたエリが申し訳なさそうに謝る。
「ご、ごめんなさい」
真也は両手を振り、「いやいやいや、エリちゃんが謝る事じゃないよ。寧ろこいつが悪い。悟さ、おかしいっしょ、こんなに性格も良さそうで、可愛いこなんだぜ?」
「…そんな事言われても彼女は中身は異星人な事に変わりはないよ」
「もったいないねぇ事言ってんなよ、大体お前ーー」と真也が言いかけたところで、再びドアフォンが鳴った。
「ん? 他にも呼んでたか、今日?」と悟を見る真也。悟は首を横に振る。
二人が映し出されたドアフォンの映像を見ると、そこには黒いスーツに身を包んだ男たちが立っている。
「だれ?」と二人はお互いを見た。
「突然の訪問すみません。私、マジカルアイドルズ運営の関口と申します」と、見た目の厳つさからはかけ離れた物腰の柔らかい口調で関口と名乗る男が話始めた。
「先程のレアガチャでエリが当選し、お宅に送信されたの思うのですが、大変申し訳ございません。こちらの不手際で手違いがございまして…」
悟は真也と顔を見合せ、戸惑った。
「手違い…ですか?」
「はい。お客様がガチャを行った際にサーバーの故障が起きて、当選確率に変動が起きてしまいまして。その、大変申し訳無いのですが、今回、エリの当選は無かった事にして頂きたく、引取りに来た次第でございます」
悟はどこがほっとした表情で、「そうですか。であればーー」と言いかけた所で慎也が悟の口を塞いだ。
「待てよ悟。何か変じゃね? エリちゃんてさっき当たったばっかだろ? 何でこんな早く回収に来んだよ? そもそもこんな話聞いた事ねーぞ」
悟は真也の手を除けた。
「運営だったら住所も知ってるはずだよ。それに…」悟は困った表情でエリを見つめた。
「お前さぁ…そんなんだから、モテないんだぞ?」
「なんだよ、それ。いま関係無いだろ?」
応答を待っていた関口が再び話始める。
「代わりにそれなりのお詫びはさせて頂きますので。いかがでしょうか?」
真也はエリを見つめ、「エリちゃん、知ってるの、こいつらのこと?」
エリは脅えた様子で首を横に振った。
関口の横でずっとモニターを睨みつけていた、もう一人のスーツの男が痺れを切らし、関口に代わり話し始める。
「分かってんだよ、エリがそこにいんのは。さっさと開けろ!」
「やめろ、水木!」
慌てた様子で関口が止めに入る。驚いた様子の二人。
「ほら、ヤバい奴じゃん! 逃げようぜ!」
「に、逃げるって言ったて、ど、どこへさ?」
ドアの外では水木が激しくドアを蹴り始める。関口がそれを抑止する。
「やめろって! 騒ぎを起こしる場合じゃない」
「悠長な事言うな。アイツらが来たら終わりだぞ、俺ら」と言い、懐から銃を取り出す。
悟はその様子をじっと見つめ、「悟!」と真也が焦った口調で迫る。
派手な音をたて、ドアが開かれ、水木と関口が入ってくる。
しかし、部屋には誰の姿もなく、奥のテラスへの窓が空いていた。
「クソっ」水木が急いで窓に向かい、外を見つめると、道路を走っている三人の姿が見えた。
「行くぞ!」
水木は関口を連れ、三人の後を追った。
グレイの両親は犯罪者で罪を償う為にこの星に送られてきた。地球に生まれたというだけで、迫害を受けてきた。お金の為、商品としてガチャの会社との契約をさせられた。ガチャの商品として他の人の所へ行くことが人身売買の隠れ蓑になっている。本来は別の人のガチャに引き当てられるはずが手違いで、主人公の元へときたのだ。
三人が路地を走っている。エリと慎也が先を行き、悟は息を切らせながら、二人に懇願した。
「待ってよ、無理だよ。もう体力が…」
背後からは黒のセダンに乗った関口と水木が追ってくる。
悟の足が縺れ、その場に倒れる。ハンドルを握る水木はスピードを緩める気配がない。
「おい…」と関口が水木に呼びかけるが、「一人ぐらい大丈夫だろ?」とアクセルを踏んだ。
悟は立とうとするが、挫いた足が痛みうまく立てない。目前に迫る車に覚悟を決め、目を閉じた。
しかし、一向に車は当たって来ない。これが死ぬ間際に感じるスロー感なのかと思い、目を開けると、車は目の前には無く、悟の真上に浮いている。
車の中ではフロントガラスに張り付いた黒服の男たちが慌てている。車はそのまま悟の上を通り過ぎ、背後に逆さまのまま派手な音を立て落ちると、そのまま滑り電柱に激突した。
電柱の横を見ると、エリが腕を前にかかげ、肩で息をしている。慎也は呆気にとられた表情で固まっている。異星人には〈超能力〉を使える者もいた事を思い出しながら、悟はその場に倒れ込んだ。
悟が目を開けると、エリと慎也が心配そうに覗き込んでいる。
「車は!」悟が思わず叫んだ。
「落ち着けって。もう、大丈夫だ」
辺りを見回すと、そこは高架下の土手だった。悟は慎也の言葉に安堵し胸を撫で下ろすが、エリが使った〈超能力〉を思い出し、恐る恐る彼女を見た。
「あれ…君がやったの?」
グレイは困った表情で頷いた。
「いや、マジすげーよな!知ってはいたけど、初めて見たわ! なっ!」と喋り辛そうな悟を気づかい、慎也が先に口を開いた。
喋りや行動はぶっきらぼうだが、慎也のこういった優しい面が気に入っていた。
「いいよ、慎也。異星人たちが特殊な能力があるのは知ってる…でも、そんな特別な力があって、何でアイツらに追われてるの? むしろ、その力があるせい?」
グレイは戸惑った表情をした後、身の上を話し始めた。
「ごめんなさい! 私あの人たちの事知ってるの。わ…私の両親は犯罪者で…この星に送られてきたの。その時私も一緒に。そういう異星人を引き取って売買がされてるの。私の両親はもう売られたわ…私はあのガチャの景品として最近売られて、あの人たちの言う通り、何かの手違いで、悟君に当たったんだと思う」
突然の告白に唖然とする二人。
「異星人の人身売買なんて聞いた事ねぇぜ」
「でも、実際こうやって目の前にいる、否定はできないよね」悟は眼鏡を直して、慎也を見た。
「悟って、妙に落ち着いて分析する時あるよな。で、どうするよ?」
「どうするもこうもないだろ? あいつらの言ってる事が正しかったんだ…返すしかないじゃないか」
「いいのか?せっかくこんな可愛い彼女ができたのに?」
「はぁ? 彼女って、何言ってんだよ? それに彼女は異星人だし…」
「はぁ?はお前だよ! 異星人だとか地球人だとか関係あるか!? 見た目が全てだろ!」
「慎也…いま酷いこと言ってる自覚ある?」
「酷いのは悟だよ。異星人って言葉だけで判断すんのかよ、お前は!」
「私なります!」
悟と慎也の口論を止めたのはエリの意外な言葉だった。
「エリちゃん? なるって?」
「なります。彼女にでも何でも…だから、私…あの人たちから逃げたい」
二人、言葉が出ない。
「だめ…ですよね」
「まぁ、あいつらヤバそうだし…無理だよな、なぁ、悟」
いつも強気の慎也が弱気になるのは、子供の頃捨て犬を見つけた時と同じだった。弱気に見せかける事で悟の正義感を引き出していた。今回もその作戦は見事成功し、悟は「やるよ…」と呟いた。
「やればいいんだろ。でも、あくまでも君はレアキャラのエリだ。ここまで頑張ってガチャに課金して引き当てたんだ。それを手違いだからと言って、返却するなんて納得いかないだけさ」
エリは薄ら涙を浮かべ笑顔を浮かべた。
「ま、悟がそういうんなら、協力してやるか」
「でも、あいつらからどうやって逃がせば…」
「そこはだな…」
慎也が何か企んだ表情で、悟とエリに耳打ちをした。
悟たちはマジカルアイドルズ運営の水木が運転するバンに乗っている。
「これって、拉致ってやつですよね?」と悟が聞くと、助手席の水木が優しい口調で答えた。
「違いますよ。説明したじゃないですか? エリ返還の手続きを行いたいだけですよ。 簡単な書類にサインして貰いたいだけです 」
サインするだけなら、何処でもできるという言葉を飲み、隣に座る慎也を見て、高架下慎也の提案を思い出していた。
「諦めろって? さっき、助けてやるって言ったばかりじゃないか」興奮気味に悟が慎也につっかかった。
「早とちりすんなって。諦めんのは逃げるってことをな。このまま逃げ続けるって言ったって、現実的に無理だろ?」
「まぁ、そうだけど…捕まった後はどうするのさ? エリちゃんが連れてかれて終わりじゃないか」
「だから、三人で捕まる。エリちゃんを返す上での保証が欲しいとでも駄々を捏ねれば嫌でも連れてくだろ?」
「その後は…?」
「その後は覚悟が必要だ」
バンはいつの間にか高速を降り、運営会社の大きな自社ビルへと入って行く。駐車場からは専用のエレベーターで会議室というよりも、取り調べ質の様な部屋へと3人は連れていかれた。
入口では水木が三人の身体検査をして、持ち物を没収する。慎也がエリに合図を送るように見つめた。
机を挟み、関口が三人と対面する形で座り、書類とペンを差し出す。
「これにサインして貰えば終わりです」
悟はペンを取るが、サインを書かずに関口に
「エリから聞きましたよ。貴方たちが異星人の人身売買をしてるって」
「何言ってんだ、テメェ!」
関口の背後で怒鳴る水木を手を上げ制し、関口は笑顔のまま「何を言われたのか知らないが、勘違いをなさってるようだ。我々はあくまでも、ゲームの運営会社…そんな事に関わる理由がないですよ」
「そうですか…でも、僕らは見た。彼女の能力…彼女は異星人だ。それがレアキャラアイテムとして、転送されたのは事実ですよね」
関口から笑顔が消える。
「で、何が言いたい?」
悟はペンを置き立ち上がり「もう、止めましょうよ、こんなこと。代わりなんていらない。彼女を開放して下さい」
関口は深い溜息をつき、懐から銃を取り出すと徐にエリを撃った。エリは叫び声をあげ、その場に倒れる。
あまりの突然の出来事に、声すら出ない二人に関口は銃口を向けた。
「何で撃つんだ!」と叫ぶ慎也に「もう情が移ったのか? 忘れるな、こいつらは異星人だ。可愛い顔していても一皮剥けば醜い事は知ってるだろ?」関口は冷酷に告げた。
悟は悔しそうに涙を浮かべる。
「見た目が酷かったら、ダメなんですか。中身は見てくれないんですか?」「…当たり前だ」
「ふざけるな!」血を流し床に倒れているエリが突如発する大声と口調に関口が驚く。
「見た目が違ったって、それが何だっていうんだ!
エリちゃんはエリちゃんだ! それが何だって言うのさ。人間だって嫌なやつはいる。人を見た目だけで決めつけるのはおかしいだろ!」
「エリ…なんだ、その喋り方は? 痛みでおかしくなったのか? ああ、俺は異星人が心底嫌いだ。だがな、商品としては別だ。こいつらが良いって言う好き者がいるからな」
「商売?」深夜が眉を細めた。
「あくまでこいつらはガチャの景品として、客に売る商品だ。高く売れる商品としては大好きだよ」
「ありがとう。それが聞きたかった」慎也が安堵のため息をつくと、今度はエリが満面の笑みを浮かべ「やった!」と叫ぶ。
「あ?」
水木が天井付近の何かに気づき、指を指した。
「関口さん、あれ…」
関口が上を見ると、そこにはスマホが浮いている。
真也は隣の悟に向かって「エリちゃんもう大丈夫だ」と言うと、スマホが慎也の手元に降りてくる。
慎也はスマホの画面を関口に向けた。そこには銃を構えた関口たちの姿が写っている。
「ここでの事は全部ライブ配信させて貰いましたよっと」
ドアを叩く音が聞こえ、他の社員が慌てている。「関口さん!警察が来てます!どうしますか?」
「クソっ! やってくれたな、お前ら!」関口は慎也に怒りの形相で銃を構えた。同時に悟が手のひらを翳し、関口たちを睨みつけたかと思うと、衝撃波が二人を遅い、二人は激しく壁に叩きつけられる。
「悟君!」
悟はエリに向かい駆け寄る。薄れる意識の中で関口は悟の姿がエリに、エリの姿が悟に変わるのを見る。
「〈能力〉か…くそ…」と呟きながら気を失う。
「大丈夫! 悟くん!」
「良かった。慎也が万が一の時にって入れ替わっておいて…それに最初に〈能力〉を使っていたら証拠が撮れなかったし…」悟がか細い声で答えた。
「ごめんなさい…私の為に…」
「いや、僕こそ本当にごめん…」
「…なにを謝るの?」
「アイツらと一緒だったよ、僕も…偏見だらけだった」
「だな…罪滅ぼしにこれぐらい我慢しねーとな」と慎也が悟に肩を貸す。
「ありがとう…二人とも…」エリが涙を浮かべ微笑んだ。
事件から数日経ち、悟と慎也がカフェでドリンクを飲んでいる。
「結局エリちゃんは故郷に戻ったのか?」
「うん…そうみたい」
「残念だったなぁ、せっかく彼女できるとこだったよに…」
「いいよ。今中途半端に付き合ったって、問題は沢山ある。いつか一人前になったら、会いに行くよ」
希望に満ちた悟の目を見て、慎也が冗談交じりに
「なんだよ…一人だけ大人になりやがって」と愚痴を吐く。
「そんなんじゃなないよ」
悟はスマホを見ると「そろそろ行かないと…慎也、ありがとう。勇気をくれて…」と言い残し席を立つ。
「お。そか、じゃまたな」
一人残った慎也がドリンクが入ったグラスに向けて手を翳すとグラスが手元に動いてくる。
「勇気か…俺も勇気出して、あいつにちゃんと伝えねぇとなぁ」
おわり