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タンゴを習う
「アルゼンチンタンゴを始めたいけど、どこで誰に習ったらいいのかしら?」確かに迷うところですよね。習い始めても「これでいいの?」と迷いは尽きない...…。できることなら、お金も、時間も、人間関係も無駄にしたくない大人の習い事、見過ごされがちな「本場のタンゴ教育」事情もふくめ、ご参考ぐらいにはなるかなー、という事を書いてみました。
(タイトル写真 by Pablo、タンゴの歩道 Vereda del tango)
はじめに
ピアノ、油絵、フリークライミング……やってみたい事は星の数。「まあ今から始めるんだからさぁ、XXXにはなれないよね~」とか言いつつ入れあげてしまうのが大人の習い事。アルゼンチンタンゴも沼ですが、そこは大人の知恵、適度のユルさでいきましょう。(いつも額にシワ寄せて踊ってたら怖いですし……)
ダンスパートナーがいなくても始められますか?
タンゴを習うのは一人でも始められます。タンゴはペアダンスなので、決まった練習パートナーがいたほうがいいのでは? と思われるかもしれませんが、タンゴの場合、将来的に(踊れるようになって)ミロンガに行くと、パートナー以外の人と踊る機会も多いので、はじめからいろいろな人と踊れるように練習した方が長期的にはハイリターンかな、と思います。
アルゼンチンタンゴでは一人で参加できるプラクティカや固定パートナー方式でないダンス教室・レッスンが多数派です。ただ、国や地域によってはそうでないところもあるので、見学して実際のところを確認すると安心かもしれません(先生が、パートナーチェンジしましょう、と言っても知らん顔だったり、なんてこともあるので)。見学する時は、つい先生のカッコよさや上手な人の数などに気を取られがちですが、コミュニティの全体的な雰囲気が自分と合うかも見たほうがいいと思います。自分に合ったコミュニティだと安心感があるし、メンバーと踊る機会も多くなって上達も速いからです。
どのスタイルを習ったらいいですか?
アルゼンチンタンゴにはいろいろなスタイルありますが、サロンスタイルから入るのが一般的だと思います。サロンタンゴはショーで見るタンゴよりもっと落ち着いた、基本の踊り方です(詳しくはこちら)。
サロンタンゴの中にもいろいろなスタイルがあり、見え方・見せ方が異なります。アルゼンチンタンゴを専門にされている先生は、そのあたりの細かいことも折々に教えてくださると思います。
アルゼンチンタンゴ専門の先生がいいのか、アルゼンチンタンゴも教える先生がいいのか、は一概には言えません。アルゼンチンタンゴだけを習いたい、いろいろなスタイルや文化的・歴史的背景も知りたい、という場合はやはり専門の先生になるでしょうし、他のダンスといっしょにアルゼンチンタンゴも軽く習っておこうかな、と言う場合にはむしろペアダンス一般を教える先生の方がとっつきやすい、となるかもしれません。なので自分の目的にあった先生やレッスンを探しましょう。
アルゼンチンタンゴは比較的歴史の浅いダンスなので、バレエなどと違って専門の先生方の間でも教え方が標準化されていません。また、先生方ご自身がどこでだれに習ったかでも違いがあります。なので、始めてからも、自分が習っているのが「正しいタンゴ」なのか、と迷われることがあるかもしれません。
個人的な意見ですが、アルゼンチンタンゴは「正しい」を追い求めると、かえって見えなくなってしまう気がします。いろいろな個性があることを誇りにしているダンスだし、今も進化しているので、どのスタイルが好きだ、という事は言えても、どのスタイルが正しい、いうことには答えがないように思うからです。
それでも迷ったときは(可能であれば)複数の先生に習う、別の先生の単発ワークショップをとってみる、などがいいと思います。そうすると、何が問題だったのかも、アルゼンチンタンゴの核みたいなものも、ぼんやり見えてきます。また、どのメソッドが自分の体に合う、どこのコミュニティが楽しい、といった事もわかるし、違うスタイルを習っておけば、音楽やミロンガの雰囲気で踊り分けたりしてより楽しむこともできるので、損はないと思います。
踊れるようになるのに時間はかかりますか?
習い事としての効率は良くないです。用語や解釈の違いもあって、誰に聞いてもよくわからない😭、みたいな事も割とあるので、そのあたりも許せる心理的余裕が必要です。また踊りを習うだけでなく、一緒に踊れる仲間をつくる、ミロンガの作法を知る等、社交的な面にも時間がかかるので気長にやった方がストレスは少ないかな、と思います。
特に、リードを習うのには時間がかかります。社交として踊るタンゴには振り付けがなく、リーダーが即興でダンスの展開を決定するので、自分が踊るだけでなく、フォロワーに自分が決めた展開で踊ってもらえるよう、きめ細かく指示を出していかなくてはなりません。振付家とダンサーの役割をぶっつけ本番でこなしているわけなので、とても大変です。そんなわけで、多くのリーダーは音楽を感ずるだけでなくきめ細かに分析し、ダンスフレーズをつくり、臨機応変に使えるよう日々地道な努力を重ねておられます。(リーダーの皆さん、ご苦労様です。あなたのダンスをシェアしてくれてをありがとう♡)
ダンス経験があったほうがいい?
ダンス経験の有無にこだわる必要はないように思います。多少の運動経験はプラスかもしれませんが(格闘技の経験やバスケットでディフェンスを突破するテクが込み合ったミロンガでのリードに役立った、なんて話も😯)歩くことに問題がなければ、タンゴのレッスンも問題なく始められると思います。
一方、すでに他のダンスをかなりのレベルで踊れて、アルゼンチンタンゴを始めようと考えておられる方もいらっしゃると思います。すでに体ができている皆さんには技術的なチャレンジ(爪先で立ったり頭のてっぺんで回ったりとか)はないし、体を作り変えずに踊れるダンスを一つ増やせるのも嬉しいところです。しかし、タンゴには基本的に振り付けがないので、即興をこなせるよう音楽を聴きこむ、他のダンスのしっぽが出ないように細部の表現を調整する等には、それなりの時間がかかります。
タンゴの職業訓練システム
アルゼンチンでは、12歳から17歳まで舞踏学校に通って国が指定したカリキュラムの訓練を受け、卒業試験に通ってプロのダンサーとしての職業資格を得る、というシステムがあって、その中にクラッシックバレエなどと同じように「タンゴとフォルクローレ」という専攻があります。学生は舞踏技術だけでなく、音楽や歴史なども習いますし、卒業後、別の進路を選択することもできるように、バカロレア対応のオプションも用意されています。
卒業後はプロとして踊って舞台歴をつけながら、さらに体育系・芸術系の大学・高等教育機関に通ってアルゼンチンの中高校の体育、芸術教師資格をとる人も多く、さらにその中から舞踏歴も教育歴も優秀な人たちが舞踏学校に戻ってきて教える、という循環を一応考えたシステムになっています。
このシステムも1983年以降アルゼンチン政府がついにタンゴを、フォルクローレ同様、国の芸術と位置づけたところから始まっています(関連記事はこちら)。「国の芸術」の継承と進捗のために、タンゴをバレエなどヨーロッパの舞台芸術と同じような効率的な訓練システムで教え、また、ダンサーの現役後も視野に入れた資格やキャリアパスを示して、職業として踊る人のすそ野を広げよう、という意図なわけですね。
こういう訓練を受けた人たちが必ずしもタンゴ界のスーパースターになれるわけではありませんが、システム化された教育とその波及効果は概ねいい方向のようです(例えば、タンゴショーの群舞のグランバットマンなどを1980年代と今とで比べてみると、基礎ダンス力の向上は一目瞭然です)。
ただ、タンゴの場合、バレエなどと違って学校や舞踏団より個人のパフォーマーのほうが知名度が高いので、若いダンサーたちは、個人の先生のレッスンもとり、また、目の肥えた地元の観客の前で踊って評価されることで、タンゴの伝統に連なり、その美学を身につけていきます。
もちろん、昔ながらにミロンガで踊って頭角を現す人もいますが、ある程度以上のキャリアを目指す人は、ダンスや音楽の基礎科目をプライベートで取っていることが多いです。
このように様々な仕組みで、アルゼンチンでは毎年びっくりするような完成度の若手が生まれている一方、彼らがダンサーとして生活していけるようなパフォーマンスや教える場は十分あるとは言い難いです。また、興行面でも、基礎力のあがったダンサーたちの魅力を最大限に生かせるような新作をプロデュースする、伝統を生かしつつも飽きられないように、新しい価値観・美学をどのように取り入れるか、など大きな課題もあります。
アルゼンチンに行かないと本当のタンゴは習えない?
現在はアルゼンチン国外にもすばらしい先生方が(アルゼンチンの方も、そうでない方も)おられますので、アルゼンチンに行かないと絶対ダメ、と思い詰める必要はないように思います。しかし、本場の空気、というのは説明しがたいモノがあるし、タンゴの魅力の大きな部分を占めるので、機会があったら是非行って体験されることを個人的にはお勧めします。(そういう気持ちを後押ししてくれるAKANEさんの記事はこちら。)
おわりに(ビデオあり)
素晴らしいプロのダンサーを目前にして、彼・彼女のように踊れたら・踊りたい、と思うのは人情ですが、彼らがどうやってここまで来たか、ということを頭の片隅に置いておくのは、趣味として習う私たち(が素面でいるため)には必要かなーと思います😅。
ある時、ロベルト・レイス(Roberto Reis)が言いました。
「君が(習ったことができなくて)イライラする気持ち、よくわかるよ。だって、僕もかつてはひどいダンサーだったからね😉」
……まあロベルト。ありがとう。でもね、あなたがひどいダンサーだったなんて、そんなコトは信じられるわけないワ(観よ、このダンス!)
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