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タンゴを踊る場所

「ミロンガなんて言われても、普通の人は『はぁ?』ですよ」
 う~ん確かに、ウルトラ怪獣? みたいな音の組み合わせだもんね……。いや、でも、普通の人が来るところなんですよ、冗談抜きで。
(タイトル写真 from Wikipedia

 ミロンガ(milonga)とは、アルゼンチンタンゴを愛する人たちが踊るために集まってくる場のことです。小説『Oblivión』でもミロンガのシーンをいくつか書いたのですが、もうちょっと説明があったほうがとっつきやすかったかも、と反省いたしまして、タンゴを踊られない方にもイメージがわくように、ミロンガってどんなところなのか、少し詳しく書いてみたいと思います。(『ミロンガ』のもう一つの意味、音楽のタンゴミロンガについては、また別の機会に。)


どこでやってるんですか?

 ミロンガはアルゼンチンだけでなく日本も含め世界中で開かれていています。盛んな所とそうでない所はありますが、ヨーロッパ、南北アメリカの大都市ではどこでもある、と言っていいと思います。一度 ”milonga”プラス都市名で検索してみてください。いろいろ出てきますよ~。

 アルゼンチンタンゴは一般の人が踊って楽しむダンスとして発達してきたので、今も普段の生活でなじみのある場所で開かれています。例えば、公民館などの多目的スペース、体育館、時間貸しのダンスホール・ダンススタジオ、踊るスペースのある・作れるカフェやレストラン、野外シアターなど、です。もちろん、アルゼンチンなどタンゴの盛んなところではミロンガ専門のダンスホールもあります。

主催者は?

 ミロンガの主催者は様々です。ダンスホール、ダンス教室やダンスインストラクターはもちろんのこと、アルゼンチンタンゴのファンがボランティアで運営していたり、また市や地方自治体の文化事業部などが一翼を担っていることもあります。

 アルゼンチンではバリオ、と呼ばれる地区ごとのタンゴ愛好家のコミュニティーがアルゼンチンタンゴ文化の母体としてのミロンガを脈々と開催してきた歴史があります。

 また、アルゼンチン国外でもタンゴファンがボランティア的に運営しているミロンガは多いです。タンゴが盛んでない地域でも、踊る場所がないなら自分たちで作ってしまえ、という感じでできたミロンガは結構あって、かかる音楽やパーティーの余興(ビンゴゲームなど)などにも手作り感・個性があって面白いです。

 北米では、ボランティアがNPO法人化したタンゴソサエティという組織があちこちにあって、ミロンガやアルゼンチンから講師を招いてのワークショップなどを精力的に行っています(例えばこちら)。

 ダンス教室やダンスインストラクターがレッスンとは別にダンスパーティーとして開催するミロンガは、日本でもよくあるのではないかと思います。レッスンと違ってそこの生徒でなくても参加できるものがほとんどです。自分の先生以外のミロンガにお邪魔するのもいろいろ発見があって楽しいものです。

 ダンスホールは、木曜はタンゴ、金曜はサルサ、のようにローテーションでミロンガを開催するところや、タンゴだけの専門のホールなど、いろいろです。

 また、タンゴのグローバル化にともない、夏の風物詩野外フェスティバルなどの一環として、ミロンガを組み入れている地方自治体も結構あります。

時間は?

 ミロンガは夕方、夜間に開催されることが多いです。ウィークデーのミロンガは「仕事が終わってから寝るまでの間」に設定されていて、場所柄や主催者の考え方で19:00-23:00とか、21:00-03:00😅とか様々です。週末は午後開催のものもありますし、夏によくある野外のミロンガは午後や夜の早い時間のことも多く、ちょっと覗いてみたい場合には最適です。また、単発のイベントではタンゴマラソンと呼ばれる24時間ぶっ続けのパーティーなどもあります。

 ブエノスアイレスは宵っ張りのカルチャーなので、ミロンガのフロアが温まるのは午後十時以降です。デモを見て、生演奏を聴いて、さらに踊ってフラフラになって出てきたら午前三時、明け方カフェでメディアルナクロワッサンとエスプレッソをいただいてからベッドにもぐりこむ、などというのは、ブエノスアイレスならではの贅沢・極楽、と言えるでしょう。

踊る以外にできることは?

 ミロンガはアルゼンチンタンゴを踊る場所ですが、その前に社交の場所であることに注意が必要です。なので、お金を払ったのだから自分の好きなように踊るではなくて、皆が楽しく過ごせるようにという気持ちで参加することが大前提となります。初めて参加する時は少し緊張しますが、タンゲーロたちはビジターがいることに慣れているので、ごく普通の社交的手続き(隣り合わせた人に簡単に自己紹介するとか)で受け入れてもらえます。また地元のタンゲーロスと知り合いになると、その街の情報を教えてもらえたり、より楽しい時間が過ごせるように思いますので、ただ踊るだけでなく、社交面も楽しむこともお勧めします。

 ミロンガにはプロダンサーのデモや生演奏などが入ることも多く、その場合コンサート的に楽しむこともできます。野外のミロンガなどでは、踊らず見ているだけの人もたくさんいます。小さなミロンガの場合、見るだけでもOKですか?と事前に問い合わせていくと安心かもしれません。

 ほとんどのミロンガでは、飲み物やスナック程度の食べ物を買えますが、食事は済ませてから行った方が確実です。

 また、ミロンガによっては直前に入門レッスンなどを併催するところもありますが、ミロンガ自体はタンゴレッスンではありません。もちろん、素敵なダンスを見て学ぶ、というのはありますが、レッスンやワークショップとは違うので、学ぶモードから楽しむモードに気持ちを切り替えて、踊り、音楽、雰囲気、会話、飲み物などひっくるめて体験したほうが得だと思います。(例えば、Sumiko Kさんのミロンガの楽しみ方紹介はこちら

一人でも参加できますか?

 普通はできます。リーダーとフォロワーの比率がアンバランスになるのを嫌って、ペアでしか参加できないイベントもないわけではないですが、少数派です。また、ペアやグループの参加者も、自分たちだけで固まらず他の参加者と踊って楽しむのが普通です。

料金は?予約は必要?

 草の根ミロンガは500-1500円程度、飲み物券付のところもあります。野外のミロンガなどでは無料、もしくはカンパということもあります。専門のダンスホールでのミロンガになりますと、生演奏やプロのデモの有無などで料金は変わります。

 フェスティバルや特別のイベントに連携したミロンガの場合は事前の予約が必要なこともありますが、ほとんどの定期開催・草の根ミロンガは予約なしで参加できます。心配な場合は、主催者に事前に問い合わせをするといいかもしれません。(草の根ミロンガの場合、主催者もプロではないので、問い合わせは余裕をもって。)

服装は?

 TPOにより様々です。草の根ミロンガだと、長いスリットの入った黒のキラキラドレス必須......なんていうことはなくて、自分も他人も気分よく踊れるカッコで来ました、と言う感じの参加者が多いように思います(例:タイトル写真)。

 時には主催者が「今日のテーマは白」などとお題をつけるとか、季節のテーマのミロンガもあるので(ハロウィーン・ミロンガなど)、その趣向にそった装いを選んで雰囲気を盛り上げるのも楽しい参加の仕方です。

年齢層は?

 ミロンガは基本、大人の社交場です。若者からシルバー世代の方まで、幅広い年齢層が参加しているのが普通です。野外ミロンガでは子供やペットなども見かけることがありますが、この辺は他の娯楽と同じで、他の参加者に気を使わせない範囲をうまく見極めることが、連れてきた人の技、というか、みんなのハッピーの秘訣のようです。

ばっちり決めた男女がセクシーに踊るタンゴを見たい場合は?

 その場合はタンゴショーを観に行きましょう。アルゼンチンなどではタンゲリアタンゴショーレストラン、そのほかでは劇場です。

 ミロンガにはプロが来ることもあるし、またプロ顔負けのアマチュアさんアフショナードスもたくさんいるので、うわぁ💕というような素敵なダンスをミロンガで見ることはできます(しっかり見て素敵なステップやアドルノ装飾ステップを盗んじゃいましょう!)でも、ショーような大きなジャンプやリフトなどの技がミロンガで披露されることはありません。そういうアクロバティックな技はショーの見せ場としてステージで使われるもの、ミロンガでの踊り方とは別物、と考えられているからです(もう少し詳しいことはこちらをご参照ください)なので、ブロードウェイのショーみたいなのを観たい、という場合は、ミロンガではなくプロのダンサーが踊るショーに行かれるのをお勧めします。

安全ですか?

 皆が安全に気持ちよく踊れる場所を提供することは、ミロンガの主催者がまず気を配るところです。また、そうでないところは行く人がいなくなってしまうので、ある程度続いて開催されているミロンガか、という事は一つの目安になるかもしれません。地元のタンゲーロスから事前に情報を収集するのも◎です。

 万一、ミロンガで危険を感じるようなことがあれば主催者に対応を求めることもできます。ただ、フロアが滑るといったことにはすぐ対応してくれますが、対人関係のコトはケースバイケースなので、自分が安全でない、嫌だな、と感じたら、さっさと引き上げましょう。所持品などは自己責任で管理しましょう。また、ミロンガは夜間開催のことが多いので、安全な交通手段も確保もお忘れなく。

草の根ミロンガとは?

 「草の根」と言うと、身近だけど冴えない、と思いがちですが、ミロンガの場合、アルゼンチンタンゴの歴史から言って、地域の人がオーガナイズする草の根のものが本来の形といっていいと思います。ブエノスアイレスのバリオのミロンガなどは、歴史も長く雰囲気もあり、ダンサーのレベルも高いので、普通のビジターにはとても身近に感じられないかもしれませんが、そんなに敷居の高くないものもたくさんあります。

 例えば、これはドイツの草の根ミロンガのドキュメンタリーですが、ごく普通の人たちがタンゴにはまって(自分のタンゴ哲学を語りだすやら、タンゴの上達のためにモダンダンスのレッスンを始めるやら...…)自分の生活圏にタンゴを踊れる場所を作って、思い思いに楽しんでいる感じがうまくとらえられています。もちろん、ブエノスアイレスのミロンガや大きなタンゴフェスティバルでのミロンガなども素晴らしい体験ですが、身近に安心して踊れる場所がある、と言うことはなにより重要ではないでしょうか? (世界中の草の根ミロンガのオーガナイザーの皆さん、どうもありがとう👏)

 いかがでしょう、ミロンガ、どんなところか少しイメージが広がったでしょうか? アルゼンチンタンゴのあるところミロンガあり。ビジターでも踊った経験が少なくても、気軽に楽しめる社交イベントなのです。あなたの街や旅行先にもあるかもしれません。機会があったら是非覗いてみてください。


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