これもタンゴあれもタンゴ【ダンス編】
アルゼンチンタンゴでないけれど「タンゴ」を呼ばれるものはダンス、音楽ともいろいろあります(音楽編はこちら)。特にダンスにはどの「タンゴ」もインパクトがあるので、いろいろなタンゴのイメージが混ざってしまいがちです。そこでここではアルゼンチンタンゴ以外のタンゴダンスがどのようにしてできたのか、何が違うのか、簡単に書いてみました。
(タイトル写真 from Wikipedia)
タンゴが街にやってきた!
まず簡単な歴史から。音楽編でもふれましたように、アルゼンチンタンゴは二十世紀初めヨーロッパを中心に大ブームを巻き起こしました。当時、ヨーロッパはイギリスのヴィクトリア期に代表されるような堅苦しい時代からジャズ・エイジと呼ばれる開放的な時代へ移り変わる時期で、男女がお互いの体に手を回して踊るタンゴは、新しくて刺激的なダンスとして、社会の上下階級を問わず、あっという間に広がりました。
当時は本家アルゼンチンでも踊り方にばらつきがあったところに、耳コピ・目コピも含めて広がったので、様々なバージョンのダンスが踊られていたようです。例えば、ドイツ、ロシア、スウェーデン、フランス、イギリスでの様子を伝える映像が Walter Nelson と British Pathé のYouTubeチャンネルで見られます。現在のアルゼンチンタンゴとはかなり違いますが、世界中が夢中になった雰囲気が伝わってきます。
ボールルームのタンゴ
さて、タンゴブーム以降、アルゼンチンタンゴに触発されて、イギリスを中心に発達したのがボールルームのタンゴです。これは、ワルツなどと同じくボールルームの種目の一つで、現在のアルゼンチンタンゴとは全く別のダンスと考えたほうがいいと思います。
ボールルームとアルゼンチンタンゴの違いは見れはすぐ判ります。下の写真をご覧ください。ボールルーム・タンゴ(左)のホールドは背中、肩、腕を大きく使ってフレームをつくり、胸も張って上体が離れた体制で踊ります。動きはワルツなどと比べると直線的でシャープ。例えば、女性ダンサーが素早く顔の向きを切り替える動きなどは印象的で、タンゴといえば「顔、パッ、パッ!」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。でも、これはボールルーム・タンゴの動きで、アルゼンチンタンゴにはありません。アルゼンチンタンゴ(右)では、ホールドが「抱擁」と呼ばれることからもわかるように、ダンスペアの上体はずっと近い距離にあります。......なので、顔パッパはできません。
ボールルーム・タンゴのリズムはクイック、クイック、スローの単一リズムで、ステップはペアの足が交差しません。一方アルゼンチンタンゴは複数リズムラインを内包しているので、どのリズムラインで踊るかはダンサーが選びます。また、ペアの足が交差したり接触したりするステップがいろいろあります。
また、ボールルーム・タンゴはダンスの成立と同じ時代にできたモダンなタンゴだけでなくその他様々な音楽でも踊られているようです。(パイレーツ・オブ・カリビアンの "He's a Pirate" やビリー・アイリッシュの "Bad Guy" もいけますよ、いうご指摘などは、なるほど~でした。)一方、アルゼンチンタンゴの方はタンゴ、タンゴミロンガ、タンゴワルツのどれかで踊られることがほとんどです。
このようにボールルームのタンゴはアルゼンチンタンゴとは別物なので、どちらも踊りたい、という場合は別々に習う必要があります。(noteでもプロの社交ダンサーの宮川祐也さんが、ご自身のアルゼンチンタンゴ留学記をに連載されています)
タンゴ・フィンランディア
音楽編でも触れましたが、アルゼンチンタンゴに触発されてできたフィンランドのご当地タンゴです。アルゼンチン風にダンサーが接近したホールドながら、ボールルーム風に足は交差しないなど、なるほど、アルゼンチンタンゴともボールルーム・タンゴとも違う独自のスタイルです。
ダンスパーティーでも独特のシステムがあるようです。例えば、ダンスパートナーを探す時、カベセオではなく表示板の指示に従います。どういうことかというと、リーダーがフォロワーにダンスを申し込んでもいい時間と、逆にフォロワーからリーダーにダンスを申し込んでもいい時間が交互に設けられ、電光掲示板で表示されるので、それに従ってダンスホールの片側に並んだリーダー(もしくはフォロワー)がホールの反対側に並んで待っているフォロワー(もしくはリーダー)に一斉に申し込むというやり方なのだそうです。なんでも、フィンランド人はシャイなので、みんなで渡れば怖くない式にダンスを申し込みやすくするための工夫なのだそうです。百聞は一見に如かず、少し昔のレポートですが、こちらの参考ビデオがよくまとまっています。
映画やミュージカルのタンゴ
『お熱いのがお好き』『007ネバーセイ・ネバーアゲン』『Rent』『シカゴ』『アダムズファミリー』……タンゴシーンがある有名作品はたくさんありますが、残念ながら、そこで踊られるダンスはボールルーム系の音楽にボールルームともアルゼンチンタンゴとも言えない振り付けをくっつけたものがほとんどです。アルゼンチンが舞台の『エビータ』でさえ、マドンナとアントニオ・バンデラスが踊っていたのは、なんだかなあ、という代物で...…。(エキストラでエビータに出た、というアルゼンチン人のダンサーに、アレ何とかならなかったの? と文句を言ったら「金出してるのはハリウッドだから」と言われてしまいました。)観たらかえって混乱するじゃん、とちょっと引っ掛かりますが、タンゴはあくまで素材、という扱いなのかもしれませんね。
もちろん、ちゃんとしたアルゼンチンタンゴが観られる作品もあります。例えば『The Tango Lesson』『Tango』『Tango Libre』『Assassination Tango』『Love and Dance 』などです。
これはタンゴじゃありません
最後に蛇足ですが、
フラメンコはアルゼンチンタンゴと別物です。例えば、フラメンコはソロでも踊れますが、アルゼンチンタンゴはペアでしか踊れません。
パソ・ドブレ(社交ダンス・ラテン種目の一つ)も関係ありません。
サルサ、ランバダなどのラテンアメリカ発のダンスも別物です。
バラの花をくわえて踊る🌹という事もありません……。
ふぅん、あれはアルゼンチンタンゴじゃなかったのか……🤔じゃあさ、アルゼンチンタンゴってどういうダンスなのよ? ハイ、その件はこちらに。
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