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【雑文】ミュージカルで1番ワクワクする瞬間-Overtureの世界-

突然ですが、ミュージカルといえばOvertureですよね!
って、ミュージカルやオペラをご覧にならない方は、「は?」って感じだと思いますが、Overtureとは、ミュージカルやオペラが始まる前の前奏の事です。ミュージカル曲の前奏ではなく、ミュージカルそのものの前奏です。

私は、このOvertureが大好き💕
いや、Overtureでワクワクする瞬間が大好きなのです。ミュージカルを観てる時間の中で、1番の至福な時間と言っても過言ではない!

そこで、今回のnoteでは、ミュージカルのOvertureについて徒然なるままに書いてみたいと思います。今までOvertureを脳内スルーしてたあなた!これからはちゃんと耳を傾けるようになっちゃうかも?

Overture とはなんぞや?

Overture は、日本語で序曲という意味です。オペラやミュージカルでOvertureといったら、幕が上がる前にオケだけで演奏される曲です。
ケースバイケースではありますが、客席の照明を全て落とさず、オーケストラピットの中がある程度見える明るさで演奏が始まり、曲が終わる頃に完全に客席もピットも暗くして、幕が上がる、というパターンが一般的かなと思います。

最近のミュージカルは、Overtureがない作品も多くなってきましたが、いわゆるグランドミュージカルの王道と言われる作品には必ずあります。また2幕制の作品だと、2幕が始まる前にも演奏される事もあります。2幕が始まる前に演奏される曲の事をEntr’acteと呼びます。作品における役割としては、Overtureとほぼ同じなので、このnoteでは、まとめてOvertureと呼ぶ事にします。

Overtureの最大の役割は、現実世界と舞台の世界観の橋渡しだと思います。
ほんの数分前、息せききって劇場に駆け込み、長蛇の列に並んでトイレに行き、おっとプログラムも買わなくちゃ!と思ったら、きゃーもう始まっちゃう!と慌てて着席。コート脱いで、バッグの奥底深くから観劇用のメガネを掘り出して装着!代わりに、コートをまるめてバッグに突っ込み、準備完了!ゼイゼイ。。。あ、泣いた時用のハンカチ準備するのわすれた!ひょえー!

と、ここで、いきなり幕が開いたら、なんだか落ち着かないまま、始まっちゃう事になる。

こんな落ち着きのない慌てん坊さんは私くらいかもしれませんが、たとえ私みたいな人でも、ゼイゼイを治めて、心を整え、舞台の世界に感覚を誘ってくれるありがたい存在がOvertureなのです。

よくあるOvertureのパターンとしては、劇中で使われる曲のアレンジを変えて演奏する、あるいは複数の曲をメドレー的にアレンジして演奏するパターンもあります。
もちろん、Overture用に一曲書かれている作品もありますが、いずれにしろ、その作品の世界観をぎゅぎゅっと凝縮した魔法の音楽で、観客を一気に作品の世界にトリップさせるという手法は、ミュージカルならではの醍醐味だと思います。

私のワクワクOverture体験ベスト3

「Overtureでワクワク」の原体験はいつだろうかと思い出してみると、恐らく小学生の頃に見た初めての宝塚ではないかと思います。その日は久々の観劇で、しかも前から三列目のドセン(ど真ん中の席)。普段そんなに近くで見る事のないきらきらする豪華な緞帳に目を奪われてぼーっとしてたら、Overtureの演奏が始まりました。「知らない曲だ。だけどどこかで聴いた様な気もする。あれ?なんかの曲に似てるなぁ。なんだろ?なんだっけ?やっぱ知ってる曲だっけ?」のループに入ったところで、曲がオープニングの曲に移り、幕が開きました。
そして目に飛び込んで来る、あの宝塚の度肝を抜くような華やかな世界。

まさに、Overture で精神を持っていかれたところに不意打ちのオープニング。
これこそが、「Overtureトリップ」ってやつです(勝手に命名)。
ちなみに、演目は当時一世を風靡していた花組の『ベルサイユのばら-オスカル編』でした。
オスカルは安奈淳さんが、アンドレは榛名ゆりさんだった記憶です。
宝塚デビューにこの作品を選んでくれた父のセンスは、今思えばなかなかだと思う。

さて、その次はなんだろう?と考えると今から10年ほど前。とある子供の劇団のミュージカル『トムソーヤの冒険』を観に行った時の事。

少し解説しますと、ブロードウェイには、子供キャストだけで演じる事が前提で書かれたミュージカル作品というのが無数にあるそうで、主には、ブロードウェイで一般に上演されるというより、いわゆる市民劇団や学校の演劇などに広く使われています。そういう脚本と楽曲を日本語訳したものを日本で上演している劇団の公演を、ご縁があって観に行きました。
キャストは大人役も含め全員子供ですが、スタッフはプロの人たちが大真面目に作っている作品でした。

ま、事前の情報から、学芸会的な感じだろうという想定で客席に座ったら、本格的なOvertureが流れてきました。生オケではなく、あらかじめ録音された音源でしたが、古き良きブロードウェイミュージカルの香りがする曲。トムソーヤの時代だったら、お祭りの会場とかで、地元のご機嫌なおじさんミュージシャンが、カントリーバイオリンとピアノかなんかで演奏してそうな曲でした。
学芸会を観に来たつもりが、一気に開拓時代のアメリカに連れて行かれる本格的なOvertureに鳥肌がたちました。

街の公民館の200人も入らない小さなホールでの公演でしたが、Overtureの持つパワーを改めて実感させられた出来事でした。

もう一つ。ミュージカルの公演でないケースで、感動したOverture体験を。

数年前、『ウエストサイドストーリー』の作曲家としても有名なバーンスタイン生誕100周年の年に、とあるコンサートのオープニングの曲として、『キャンディード』の序曲を聴く機会がありました。
曲自体は、中学か高校生の頃だったか、ブラスバンドかなにかで私自身も演奏した事のある曲で、よく知っている曲です。

この日は、バーンスタイン最後の教え子と言われる佐渡裕さんの指揮で、佐渡さんが音楽監督を努めている神戸のオーケストラの演奏でした。常々、バーンスタインについては、並々ならぬ畏敬の念と愛を語っている佐渡さん。『キャンディード序曲』は、佐渡さんが「題名のない音楽会」の司会をしていた時期に、番組のオープニングで使われていた曲だし、日本人キャストによる『キャンディード』の初演時には、若かりし頃の佐渡さんがオケの指揮者として参加されていたそうです。その佐渡さんの指揮で生で聴くのは初めての事でした。

というか、もはや初めて聴く曲でした。
私の知っている『キャンディード序曲』ではなかった。
作品とは離れても輝く曲の持つ力。演奏家の作曲家に対する尊敬と愛。
おそらく人生で、何百回いや何千回とこの曲の指揮をしてきたであろう佐渡さんが、それを全部ひっくるめて、今日こそ人生で最高の「キャンディード序曲」を!というオーラ。その熱量が、神戸に世界中から佐渡さんを慕って集まったイキの良い若き演奏家たちの技術を借りて、まさに具現化された瞬間に立ち会いました。

なんだかすごいものを観ました。いや聴きました。演奏が終わってもしばらく拍手をするのも忘れて現実の世界に戻ってくるのに、数秒かかりました。まさに「Overtureトリップ」の極みでした。
この時は、トリップの行く先がなくて、すぐ戻ってきちゃったけれど。

Overtureを実際に聴いてみよう!

さて、ここまで読んでくださった方なら、改めてOvertureを聴いてみたいと思うのが人情という物なので、いくつか珠玉の楽曲をご紹介したいと思います。

ミュージカル初心者さんなら、こちらなんかはいかがでしょう?

みんな大好きアニー。
日本で愛され続けている作品で、「Tomorrow」をはじめ、多くの楽曲はどこかで聞いたことがある曲だと思います。
それがメドレーになっている贅沢さ。しかも演奏時間3分あまり。実は3分を超えるOvertureはそうは多くないですし、実際劇場で聴くと結構長く感じる。いや、実際他の作品と比較しても、わりと長い。
私の記憶が確かなら、数年前に見た時は、途中カットされて短くなってた気がします。
ぜひフルバージョンをどうぞ。

短いOvertureでも、観客をサクッと舞台の世界に誘ってくれるのがこちら。

ワクワク感はイマイチながら、なんかものすごく「らしい」Overtureだと思います。
客席に座ってこの曲が流れてきたら、最初の2小節くらいで、トリップできそうな気がします。

ここ最近見たミュージカルで、最高にワクワクさせてくれたのがこちら。

この作品はコメディという事もありますが、とにかく曲がどれもこれも楽しいのです。それをメドレーにしたら、楽しくないはずがない。
加えて、神業のようなマリンバが、マリンバ好きにはたまりません。
これぞ、期待を裏切らないザ・ブロードウェイのミュージカル音楽です。

Overtureはオケだけが演奏する前提でここまで書いてきましたが、実は歌があるOvertureもあります。

この作品は、日本では昨年、城田優さん主演で上演されたばかりの作品です。このオープニングのシーンはちょっと変わっていて、オケの音合わせからすでに作品の一部のような演出になっています。そして何の前触れもなくOvertureであるこの曲が、さらっとはじまります。
通常、歌から始まる場合は、タイトルにPrologueとかOpeningとつける事が多いのですが、あえてOvertureとつけています。
本番では、主人公グイドを取り巻く女性たちが一堂に出てきて、スキャットのような歌を歌います。

非常に不穏な雰囲気で、調和しているような、バラバラのような、とても聴き心地の悪い音楽で、心がザワザワします。Overtureは、基本的にはワクワクさせる音楽でないといけないはずなのですが、この曲はワクワクしません。ザワザワする。楽器だけの演奏ではなく、人の声で演奏されている事で、ザワザワ感が五割り増しな感じがしました。人の声は、本当に偉大な楽器。こういうパターンもあるんだなぁと衝撃をうけた作品でした。

実はOvertureは楽曲として存在しているのに、サントラ版には収録されていない、というケースも多いのです。
CDの尺の問題なのか、それとも単に軽視されているのか。
せっかくサントラ盤を見つけても入ってなくてがっかり、というケースがよくあります。

そこで、私がよく聴いているのがこちら。

どこのどなたか存じませんが、レイモンド、ありがとう。
なんてあなたは偉大なの?
おそらくSpotifyで聴けるミュージカルのOvertureは、ほぼほぼこのプレイリストで網羅されているものと思います。

そんなわけで、ご興味のある方は、このあたりから聴き始めて見るといいかなと思います。ワクワクする、ワクワクさせてくれる音楽のオンパレード。気持ちも上がります。。。
ただし、ずっと聴き続けていると、Overture好きの私でも、お腹いっぱいになります。
全部同じに聴こえてくる病を発病する可能性大。
そりゃそうだ。だって、とんな作品であっても、観客をワクワクさせて、作品の世界に誘うという役割は変わらないのがOverture。
曲調が似てくるのは、当然と言えば当然です。

終わりに

Overtureの世界、いかがだったでしょうか。もちろんミュージカル好きですから、観に行けばOvertureだけでなく、本編も楽しみます。でも本編は、観たらがっかり、という事も起こりうる。細かい点に注目すれば、がっかりなんて事はわりとよく起こる。でも、Overtureだけは、がっかりという事がまず起こらないのです。
初めて観る作品なら、これから始まる新しい作品との出会いにワクワク!
何度も観ている作品なら、あの感動をまた味わえる期待にワクワク!
どんな作品のどんな曲でも、必ずワクワクさせてくれるのがOvertureです。

Overtureにこそ、その作品の楽曲の美味しいところ、名場面に使われる曲のワクワクが全部詰まっている。そんなわけで、やっぱりミュージカルはOvertureだなぁと思うのです。

次にミュージカルを観に行く時、ぜひOvertureに耳を傾けてみて頂ければ幸いです。

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