
神話と現代の境目へ(出雲旅その6)~配流の帝を迎えた青石畳通り~
【前回までのあらすじ】
令和6年元旦に起きた震災で心に期するところがあった野郎二人。出雲を目指して旅することになった。しかし、時間は1月4日の夕方から5日の夜まで、約24時間しかない。「24 -TWENTY FOUR-」のように緊迫した「中国大回転」旅が今始まる。

福山駅→米子駅前スーパーホテル→赤猪岩神社→清水井→境台場公園「美保関事件」慰霊塔→美保関灯台→美保神社→参道である青石畳通り←イマココ
【レトロな空気漂う美保神社の参道・青石畳通り】
美保神社に続く参道は「青石畳通り」と呼ばれ、観光名所となっている。
もともと美保神社をお参りするまで「青石畳通り」を知らず、たまたま二の鳥居まで戻ってきた時、石畳が敷き詰められた立派な道があったのでびっくりした。
あまり時間が無い中で、文字通り「横道にそれる」わけなので、どうしようかと悩んだが、その通りの空気に誘われて自然と歩みを進めていた。


出店が並び賑やかだった空気が一変し、落ち着いた空気に満ちている。
石畳は雨が降ると青く反射して「青石畳」となるようだ。
大正ロマンか昭和レトロか判然としないが、大分むぎ焼酎のCMに描かれるノスタルジックな町並みのようだ。
↑ 大分むぎ焼酎のCMの例
この先はどうなってるのだろうか、と奥へ奥へと進んでしまう。
なんでこんな石畳を敷き詰められるほどお金があるのだろうか、と思ったが、美保関は朝鮮半島貿易の入口として栄えてきたそうだ。
【ひものが美味しい枡谷鮮魚店】

「ひもの」の幟に誘われるように、桝谷鮮魚店に入ると、のどぐろ、カマスなどみりん干し、天日干しが並んでいて、見ているだけで楽しい。
店内には有名人のサインもたくさんあり、人気店なのがわかる。

お土産のために「カマス」「のどぐろ」を購入したが、後から焼いて食べると抜群に美味しかった。
【訪れた文豪の碑があちこちに】

青石畳通りのあちこちに文豪の言葉が残されている。あ、あそこには◯◯の言葉が!と読み味わっていると、なんだか自分も文豪になったような贅沢な気分に浸れる。

高浜虚子は美保館に滞在したそうだ。
「烏賊の味忘れで帰る美保の関」と読み味わうと、神社のイカ焼きを食べたくなる。
しかし、クレソン後輩は「別にいいんじゃないですか、無理にここでイカ焼き食べなくても」と何故か乗り気ではない。









クレソン後輩が「福田酒店」の店主といろいろ話していてなかなか来ない。
ようやく出てくると、「後醍醐天皇がこの辺りにいらっしゃったらしいですよ」と予想だにしないことを言い出した。
「この裏のお寺にいらっしゃったみたいです」
【配流の帝の思い偲ばる佛谷寺】
承久3年(1221年)「承久の変」に敗れた後鳥羽上皇は捕らえられ隠岐の島への配流の前にこの地に滞在する。そしてその111年後の元弘2年(1332年)倒幕に失敗した後醍醐天皇は捕らえられ、同じ理由で美保関に滞在することになった。
皇族を島流しにするとんでもない事件だが、どのようなお気持ちで滞在されたのだろうか。
福田酒店の店主に言われた通り、奥に入っていくと「佛谷寺」が見えてくる。

この寺につづく道を「みゆき通り」と地元では呼ぶらしい。
「みゆき」とは「行幸」のことであり、隠岐の島に流される前に立ち寄られた美保関であったが、地元の人々は「みゆき」と誇らしく思っていたのだ。



「佛谷寺」の門前に「後鳥羽上皇、後醍醐天皇行在所」と記された木碑があり、横には澄宮殿下御成記念と書かれていた。
澄宮殿下とは三笠宮崇仁親王殿下であり、昭和天皇の弟君にあたる。
満洲国建国の翌年の昭和8年、国際情勢が混迷を極める中で訪問した当地で何を考えられたのだろうか。

境内には後鳥羽上皇の歌碑があり、達筆のため読むのに苦労するが
一首目「しるらめや 浮世を身をの 浦千鳥 泣く泣くしぼる 袖のしづくを」
二首目「たらちねの 消えやらで待つ 露の身を 風より先に いかでとはまし」
と記されている。
大変な悲しみ、寂しさが伝わってくる。
本殿には隠岐の島に向かう船の絵が掲示されている。
真っ黒な空と高い波で不安を掻き立て、その悲運に共感する絵だった。

美保関の地には、帝が配流になるという時代の悲しみが澱のように残っているのかもしれない。
【来訪者を福として受け止めてきた歴史】
美保神社の御祭神である事代主神は「えびす様」と崇められているが、エビスには、海洋生物の死骸や人の水死体も含まれる。見た目が恐ろしい水死体でさえも福をもたらす恵みとして受け止めてきたのがこの地なのかもしれない。
配流の帝もこの地の人々は温かくお迎えしただろう、と想像できる。そしてやむを得なく当地を訪れたにも関わらず「みゆき」と捉え、未だに「みゆき通り」としてその歴史を誇りに思っているのだ。
神話と現代の境目へ(出雲旅その7)~日本の原風景「神仏の通ひ路」~
に続きます。