神話と現代の境目へ(出雲旅その14)~暗くなってからヨモツヒラサカへ~
【前回までのあらすじ】
令和6年元旦に起きた震災で心に期するところがあった野郎二人。出雲を目指して旅することになった。しかし、時間は1月4日の夕方から5日の夜まで、約24時間しかない。「24 -TWENTY FOUR-」のように緊迫した「中国大回転」旅が今始まる。
福山駅→米子駅前スーパーホテル→赤猪岩神社→清水井→境台場公園「美保関事件」慰霊塔→美保関灯台→美保神社→参道である青石畳通りと佛谷寺→「神仏の通い路」を通って島根半島を西へ横断→出雲に到着して八雲立つ下で出雲そばを食べる→出雲大社へお参り→稲佐の浜→八重垣神社へ→神社の裏にある「奥の院」へ←イマココ
【暗くなったのにヨモツヒラサカへ】
八重垣神社から20分程度足を伸ばすと「黄泉比良坂」がある。
日本神話において、死者と生者の世界の境界にあるとされる坂である。
『古事記』では黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)の場所を「出雲国之伊賦夜坂也」と説明している。
ここは現在の松江市東出雲町の揖屋だと推定されている。
近くの揖屋神社には伊邪那美命が祀られている。
【黄泉比良坂神話をかいつまんで説明】
私たちが行こうとしている黄泉比良坂とはどのような地なのか。
その坂がクローズアップされるのは、伊邪那美命の死によってである。
夫神・伊弉諾尊は悲しみ、死者がいる黄泉の国に妻に会いに行こうとする。
黄泉の国へ行けば亡き人と会えるというのは羨ましくもある。
黄泉の国で再会した伊邪那美命は
①黄泉の国のかまどで作られた食事を食べる黄泉戸喫をしたので本来は帰ることができない。
②しかしわざわざ来ていただいたので黄泉の神と相談する。
と説明し、
③自分を決して見ずに待っていてほしい
と意味深なお願いをする。
しかし待てども待てども伊邪那美命は戻ってこない。
しびれを切らした伊弉諾尊は、あまりに暗いので右の角髪に刺していた湯津々間櫛の太い歯をポキリと折って火を灯して見た。
見えたのは驚愕の光景だった。
伊邪那美命の身体は朽ち果てウジ虫がたかり、雷神をまとっていた。
あまりに驚いた伊弉諾尊は逃げ出す。伊邪那美命は「醜い姿を見て、私に恥をかかせましたね」と激怒して、予母都志許売に追跡させる。
古今東西こういう時の男は逃げるしか無いのである。
伊弉諾尊は黒御縵(ツル)を取って投げつけたところ山葡萄が生え、予母都志許売は思わずパクパク食べている。
食べて終えてまた追ってきたので、今度は湯津々間櫛を投げる。するとタケノコが生えてきて、同じくそれらを食べている間に逃げた。
業を煮やした伊邪那美命は自分の体にいた八種類の雷神達に千五百の軍勢(ヨモツイクサ)をつけて追跡させる。
そこで伊弉諾尊は十拳剣を体の後で振りながら逃げる
ようやく黄泉比良坂の麓まで来た時に、生えていた桃の木から実を3つ取って投げつけると、追跡者は皆戻っていった。
とうとう、伊邪那美命があらわれたが、伊弉諾尊は千引きの岩(千人で引くほどの重い大きな岩)で、黄泉比良坂を塞いでしまう。
岩の向こうの伊弉諾尊から「いとしい私の夫よ。あなたがこんなことをするのなら、あなたの国の人を一日1000人、殺しましょう。」と声がする。
伊弉諾尊は「いとしい妻よ。あなたが1000人殺すなら、私は、一日に1500の産屋を建てよう。」と答えた。
これにて、一日に1000人死に、1500人が生まれるようになったという。
こうして黄泉比良坂は封印された。
しかし、ヨモツヒラサカという言葉は、口に馴染んで本当に言いやすい。
かわぐちかいじの漫画「ジパング」では、キスカ島撤退作戦の符丁名が「ヨモツヒラサカノボレ」だった。
ジパングは風呂敷広げすぎて、最後わけがわからないことにはなったが、「ヨモツヒラサカノボレ」という符丁名は死中に活を求める意味合いもあって、めちゃくちゃかっこいいと思った。
宇宙戦艦ヤマトの「天岩戸開く」もかっこいい。
やはり古事記のネーミングというものは私たちの心に響くのだ。
【真っ暗なのに黄泉比良坂へ】
とにかく場所がわかりにくい。
住宅地の裏の山にあるので「道はここでいいのか」と思うような場所を登っていく。しかも暗くてよくわからない。
看板が車のライトでぼやーっと浮かび上がる。
ああ、ここだ!ココだ!
車のライトを頼みに説明板を読んでいく。
駐車場に隣接した東屋があり、そこに資料があった。
ここには黄泉の国への入口なだけに「天国へのポスト」があり、死者に届けたい言葉があればポストに入れ、6月にお焚き上げをするのだという。
千引きの岩によって封印された黄泉比良坂だが、こうして死者に今でも言葉を届けようとするのは素敵な文化だと思う。
ここでクレソン後輩が怯えだす。
「あまりよくないところですから、早く帰りましょう・・・」
もう目の前に千引きの岩があるというのに、近寄ろうとするたびに「帰ろう」と言ってきて怯えている。
暗い中に車のライトが見えたかと思うと、もうひとり見学者がやってきた。
「こんばんは!」
お互い気まずいのでこちらから挨拶をする。
「あっ、こんばんは!」
向こうも返してくれたのに、クレソン後輩は「おっおっ!!((((;゚Д゚))))」と怯えている。万治の石仏以来の怯え方かもしれない。
でも、確かに黄泉の国への入口ならばあまり良くないのかもしれない。
今日中に福山駅に戻らねばならないし、出発しよう。
我々は黄泉比良坂から尾道、そして福山を目指して出発した。
出雲旅その15(最終回)に続きます