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ありそうでなかった本格相撲ドラマ『サンクチュアリ-聖域』感想

『サンクチュアリ-聖域』(以下『サンクチュアリ』)は動画配信サービスNetflixで配信されてから瞬く間に国内ランキングに登場したドラマ。海外諸国でもトップ10入りを果たしており、現在日本の国技である相撲が注目されているといっても過言ではないでしょう。
日本の国技である相撲はまわし一つを体に纏った男2人が、円形のスタジアム上で力と力がぶつかり合い、土俵から追い出したり、足以外を地面につかせるために争う、非常にシンプルだけどがそこには様々な技術や駆け引きやらが深く絡み合っているスポーツです。
様々1500年以上の歴史があり、今でも日本では根強い人気を誇っている。そんな伝統的スポーツが注目されることは日本国民として嬉しい事でありますが、近年では親方からの行き過ぎたしごきや明らかな体罰、部屋仲間からのいじめやモラハラ、さらには八百長問題など、現代社会であってはならない問題が露出されており、良いイメージを持っていない人もいるかもしれない、実際私もその1人で、相撲中継を見たことはないし、関わったことは中学の授業だけで文化系温室育ちの私にとっては体育会系の嫌な部分だけを煮詰めた世界だとしか思いませんでした。

このドラマは相撲という競技の面白さを感じることができるのはもちろんスポ根作品のような熱いストーリー性と、相撲をしている人、相撲に関わっている人の問題とこれからの課題についてなど、ドキュメントのようなリアリティショーを肌で感じることができ、相撲を知っている人知らない人すべての人が楽しめるエンターテイメントドラマになっていました。

そして、このドラマで私が語りたいのは、このドラマ制作の気合の入り方とドラマを盛り上げ、相撲世界の奥行きをぐっと広げた助演役者2名のキャラ紹介をしたいと思いますのでこれから見ようと思っている人は参考にしてみて、既に見た方は少しでも共感していただけたらと思います。

〈あらすじ〉

借金・暴力・家庭崩壊で人生崖っぷちの小瀬清は、才能と体格を見初められ相撲部屋に入門する。大相撲に一切興味なし、お金を稼ぐためだけに大相撲界でのし上がろうと、伝統と格式を重んじる角界を揺るがしていく。

https://filmaga.filmarks.com/articles/241357/

〈日本のドラマの本気〉
『サンクチュアリ』の第1話を見た私の最初の印象としては「そういえば相撲ドラマって珍しいな、いい所ついてきたな」です。
今思えば馬鹿ですよね、、何故なら〈相撲をテーマにしたドラマ〉を制作するというのはいくつもの非常に高い壁があるからです。
例えば力士を演じる役者さんを用意すること、力士さんは日頃のトレーニングであの太くて逞しい体を維持しており、一朝一夕で手に入れられる体ではありません、役者さんが力士役をやるためには撮影の相当前から力士の体に近づくための体作りや実際の力士のような相撲技術を手に入れるためのトレーニングが必要になってきます。体を大きくするのは必須のため、他の仕事や私生活にも影響がでるのは明らかです。

その課題をクリアするにはどうするか、役者の顔を特殊メイクやCGを使って大きく見せるのは技術的にも限界があり、さらにそんな人たちをCGやメイクを使った力士が激しくぶつかるのは見る人にとって不自然に映るでしょう。

サンクチュアリでは主人公である猿桜役は役者の一ノ瀬ワタルさんが演じられていました。CMとかでも宣伝しているので一度は主人公の姿を見たことがあると思いますが、プロの力士と遜色ない体とオーラがあります。
一ノ瀬ワタルさんは製作陣から撮影前に相当な期間を用意してもらって力士の体と立ち振る舞い、実際の相撲を取る技術を身につけるための役作りをしていたとおっしゃっていました。役作りというか最早稽古な気がしますが。
ともあれ、そのエピソードで1つのドラマに賭ける想いが伝わってきましたし、実際金を稼ぐために飛び込んだ相撲の世界、で最初は不真面目に向き合いながらも徐々にのめり込み、身心共に成長する猿桜の変化が痛快で素晴らしかったです。

他にも力士を演じるために体づくりをした役者さんもいましたが、元力士が力士を演じているということも多く、経験者が現場の近くにいたからこそリアルな稽古風景や立ち合いが見られたのかなと思いました。また、元力士にドラマ作りを助けてもらう制作陣もやり手だなと感じます。
ほぼ力士の稽古を経験した役者と元力士が演じてくれたことで、力士と力士が土俵で戦うシーンでは、画面ドアップでぶつかり合う体の衝撃を惜しげもなく映し出しており、体の熱気が伝わってきそうです。

もう一つ、撮影には欠かせない撮影場所です。相撲のドラマを撮影するには力士が暮らす相撲部屋、稽古場、そしてお客さんに試合を見てもらう会場、その他もろもろが必要になります。
それをサンクチュアリはセットで作り上げました。YouTubeでメイキング映像を見させてもらいましたが、力士が暮らす家は廊下から寝る場所、土俵がある稽古部屋などすべてセットで出来ており、軋んだ床や畳やこれまで何十年も使っていただろう布団など年季が入っており、実際の相撲部屋を見たことはありませんがこれは違うだろうと疑う余地はなかったです。
さらに、実際「○○場所」と相撲の番付試合を行っている会場は両国国技館ですが、ドラマは実際の両国国技館を借りた訳ではなく会場の内部とそっくりの会場をセットで作り上げました。
その完成度は本当に凄いです、空間的にも広くて真ん中に構える土俵が神々しささえあります。
猿桜がはじめて両国国技館の中に現れるシーンでは独特の緊張感が漂ってきており、画面に呑み込まれました。
一体ネットフリックスはどれだけ金を持っているのだと驚くしかなく、テレビ局や関連制作会社が作るドラマとはスケールが違うなと正直思ってしまいました。

〈相撲世界の奥行きをぐっと広げた助演役者2名のキャラ紹介〉
まずは1人目、猿桜が所属している猿将部屋に弟子入りしてきた清水君です。清水君は染谷将太さんが演じています。
清水君は相撲が大好きで部屋入りしますが、体格が恵まれず、真面目に稽古をしても強くなることが出来ず自分の才能を自覚して、力士になる夢を諦めます。
そんな彼は親方の奥さんの助言もあり、呼出という相撲の立ち合い前に「東~、西~」など読み上げる職業を目指します。
主人公である猿桜を常に一番近くで見守りながらサポートをするキャラクターですが清水君が少しずつ呼出として成長する過程も描かれており相撲世界に携わる人の情熱がうかがえます。
何より、染谷将太さんの演技が素晴らしいです。かなり難しい役柄を当たり前のように演じています。
力士を目指していた頃は一般男性の体と力士の体の中間の、まさに中途半端な体で「ああ、こいつは全然強くなさそうだな」とわかりやすく思わせてくれたり、自分に自信がないのと、周りからパシリみたいな仕事も多くストレスを感じているせいで、顔が痙攣している顔面麻痺症状を患っています。
顔面麻痺なんて物語とは全然関係ないのにそれをこなしている染谷将太さん本当に凄いです。そして、相撲について熱く語るシーンや段々と自信がつき呼出の声量が増し背筋もピンと張っていくのでその辺も注目してみてください。

もう1名は猿将部屋を取材していくうちに猿桜という相撲界のアウトローな存在に魅力を感じるようになる、新聞記者の国嶋です。国嶋さんは忽那汐里さんが演じています。
国嶋さんは帰国子女で気が強く、その性格から元いた政治部では空気が読めず政治のタブーに触れようとして相撲を取材する部署に飛ばされた女性です。絵にかいたような社会派切り込み隊長キャラ……。
このキャラが1話出てきた時、私はこんな予感がありました。
「もしかしてサンクチュアリって相撲界の闇に切り込む社会派ドラマなのか……?」と。
その予感通り、国嶋さんは先輩力士が稽古と称して後輩力士を必要以上にしごいている場面では、ドン引きして。ついに我慢が出来なかったのか稽古場に乗り込み女性が近づくことすら許されない土俵に踏み込もうとします。
土俵に近づいた国嶋さんの行動はタブーそのものであり稽古をしている力士や先輩記者をマジトーンで怒らせました。
土俵に女性を上げてはいけないという男女平等の原則から外れたルールは暗黙の上で成り立っています。現在の平等意識が根付いた世の中に残る数少ない例外です、そこに疑問を投じている国嶋さんが相撲の常識を変えるドラマでもあると序盤は思っていました。

しかし、そうではありませんでした。そういう展開を期待していた自分もいましたが、国嶋さんやそういった視聴者ごと「まあまあ、あんま細かい事考えないで相撲の面白さに夢中になれよ」と製作陣の声が聞こえるくらい(個人的な感想)熱くなれるドラマです。
そして、いままで相撲という世界を知らずにいた女性記者が仕事を通してこんなに相撲は熱くなれる競技なんだよ、と世の中に熱を届けようとする記者という描かれ方をしています。その描かれ方に納得がいくかどうかは見た人次第です。

〈まとめ〉
実家の寿司屋を再建させるために相撲界に飛び込んだ猿桜が始めは不真面目に向き合いながらも親方や先輩力士のきつい稽古に耐え、強大なライバルが現れることで純粋に強くなりたいと精進する様子はとても面白く、8話と比較的にまとまった話数で見られるので気軽に見て欲しいと思います。

冒頭にあげた相撲の問題点である行き過ぎた指導や、力士同士のいじめ問題についてこのドラマを見て思ったことは、それを受ける側の気持ちによって変わっていく部分もあるのかなと思いました。猿桜が相撲にのめり込んでも、親方や先輩力士が厳しい事には変わりありません。ただ猿桜が夢中に相撲に打ち込んでいるから、親方や周りの人に尊敬の念を抱き始めたから、見ている人にとっては行き過ぎた稽古が、強くなるためには必要な稽古という見かたに変わっていくだけかもしれません。
だけど、強くなりたいと願う以上はそれくらいの稽古をしないと力士は上に上がれないというのは実感しました。
だからこそ、この問題は難しいのかなと思います。

そういった問題以上にとまではいきませんが、1500年続く伝統競技相撲の魅力は十分に詰まったドラマだと思います。
その魅力というのは土俵に上がる力士同士の戦いもそうですが、体の大きな力士が試合や稽古前に砂を撒いて均一になるように整える作業や、汲み取り前にお互いが敬意をもって正々堂々と戦うことを示す『塵浄水』の作法など動作に無駄がなく美しく、相撲に対してみな繊細さと敬意を払っているという事です。そんな行いもドラマではかなり丁寧に見せてくれました。





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