見出し画像

岩上の鷲

〜2〜

藤縄辰巳という男を一言で表すのであれば、
「変人」これに尽きる。
彼と初めて出会ったのは18歳の頃。
当時は未成年にも関わらず、喫煙を日課としている身分であった。
みんなが寝静まった夜、己の息を殺し、寮監の目を掻い潜って一人喫煙所へ通っていた。
己が忍者を生業としていたならば良い忍になっていただろう。なんて呑気に考えながら一日の締めを行っていた。

ある日のことだ。
夜中、いつも通り喫煙所へ向かうと、普段とは違う匂いがそこにはあった。
芳ばしいけど、鼻の奥をツンとつくような匂い。

『マッチの香りだ。』

思えば亡くなった祖父は煙草を吸う時、必ずマッチを使っていた。
ライターやZIPPOとは違うあの香りが大好きだったことを思い出す。
ああ、懐かしい。
いやいや、そんなこと考えている場合では無い、誰だ???
寮監がこんな時間に喫煙するなんて有り得ないし、ま、まさか、不法侵入者か!!!
断じて許すことはできん!なんとかして捕まえなければ!!!
だが待て、ここで捕まえたとしてもなぜこんな時間に喫煙所に行く用があったのかと問われればなんと答えれば良い??
パトロールをしておりました!!!
ダメだ、絶対にバレる。
考えろ、考えろ自分。
、、、、、、、、、、、。
何も思いつかない!!ビックリするくらい思いつかない!!!
仕方ない、そいつと仲良くなってお互い円満に事を終わらせようでは無いか。
それしか道はない。
夜遅くということなのか、それとも少々頭が足りてないということなのか、そんな事は考えもせず腹を括って喫煙所の中へ入った。

身長170センチ程、二重でハッキリとした目元に対し顔色は少し病的でとにかく細身。

奴はそこにいた。

喫煙所の真ん中に置かれている灰皿を占領し、何食わぬ顔をして煙草を吸っていた。その堂々たる姿からは全く悪意というものが感じられなかった。
圧倒的な存在感に怯んでいる人間に対し彼はこう言い放った。

「なにやってるの?」

どこをどう切り取ってもそれはこちらの台詞であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?