忘れてはいけないこと:旧アウシュビッツ強制収容所を訪ねて
2019年の秋にポーランドにある旧アウシュビッツ強制収容所を訪れました。ナチスによる第二次世界大戦の「負の遺産」として一般に公開されているところです。一度は訪れなければいけないとずっと思っていました。
現地で受けた衝撃は私の予想をはるかに超えるものでした。展示された眼鏡や靴、衣類、食器、歯ブラシ、トランクなど収容された人の遺品からは犠牲者の無念さが伝わってきます。どれもごく日常的なものですが、それがここにあることが恐怖を掻き立てます。すべて死と結びついているからです。積み重ねられたおびただしい数の義手や義足、2トンほどあるという女性の髪にも息を飲みました。殺害に使われたガス室や毒ガスの容器、死体を焼く焼却炉も衝撃的で、直視するのが辛かったです。でも目を背けてはいけないと思い見続けました。
最後に壁一面に並んだおびただしい数の顔写真を見ました。ここに収容され、命を落とした人の写真です。どれも無表情ですがこちらをじっと見つめる眼はこの世の不条理を訴えているように感じました。多くがユダヤ人ですがそれ以外の人もいます。政治犯として捉えられた人たちです。ガイドのポーランド人女性がおじいさんの写真を指し示しました。おじいさんも政治犯として収容され、殺されたそうです。そのことを淡々と語る彼女からは「負の遺産」が残された家族にとって単に重いというだけではないことを強く感じました。
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