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56 雨のように生きる 

30年近く前に書いた学級通信です。
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雨の一日でした。冷え冷えとした雨の中で何となく物悲しい気分になりました。学級日誌にも「今日は雨が降っていやだった」という感想が書かれていました。そんな中でひとつの詩を思い出しました。

雨の音が聞こえる
雨が降っていたのだ
あのおとのようにそっと
世のためにはたらいていよう
雨があがるように
しずかに死んでいこう

高校生の時、音楽室からこの歌が聞こえてきました。合唱部の人たちが歌う男声合唱です。素敵な歌だなあと思いました。それ以来この歌を時折り思い出します。特に雨が降ったときなどに。

ザーッと降る雨、しとしと降る雨、冷たい雨、むしむしする雨など、雨にもいろいろあります。明るく晴れた日に比べると雨の降る日は概して嫌われます。梅雨時などは特にそうです。でも私は雨が嫌いではありません。もちろんどこかに出かけるときなどに雨が降っているといやだなと思うことがないわけではありません。でも雨は風情があっていいなと思うことの方が多いです。

雨に濡れて一層鮮やかになる木々の緑、樋を伝って流れ落ちる雨水、蜘蛛の巣についた水滴、葉っぱの上の雨粒、雨の匂いなど私にとってはちょっとした宝物のようです。清少納言風に言うとすべて「いとをかし」です。

音楽室から聴こえてきた歌は八木重吉の詩に多田武彦が曲を付けたものでした。詩もメロディーもどちらも素敵ですが、特に詩が印象的です。目立つことがもてはやされ、人に認められることに喜びを感じる人は多いようです。名誉や名声を得ることに躍起になる人も少なくありません。でも雨のような生き方もあるのですね。自分のことばかり考えるのではなく、目立たなくても世の中のために黙々と働く。名誉や名声を求めることに労力をつぎ込むのではなく、見返りがなくても世の中のためになることを精一杯やる。そして称賛や感謝を得られなくてもやるべきことを終えたら静かに退場する。なんて素敵な生き方なのでしょう。

こんな生き方ができたらなあと思いながら、私には難しいだろうなと思ったりします。だれにでもできることではありません。でも、もしかしたらこんな生き方をしている人がすぐ近くにいるかもしれないと思ってふと周囲を見渡してみました。恵みの雨のように目立たないところでそっとみんなのために働いてくれている人が身近にいるような気がしたからです。


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