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日本は世界とこんなにつながっている
このところ立て続けに読んでいる金井真紀さんの本。今回の本は日本に住んでいる世界の人からか聞いた話をまとめた本です。日本に住む理由はそれぞれに異なり、暮らしぶりも多様。 一人一人のストーリーを通して普段の生活だけでなく難民問題、地球温暖化、ジェノサイド、民主化運動、差別の歴史など様々なものが見えてきます。
取り上げられた人たちはアイスランド、南アフリカ、スペイン、バルバドス、メキシコ、中国、イタリア、ミャンマー、セネガル、モルディブ、韓国、エストニア、フィリンピン、アルメニア、東ティモール、北マケドニア、アメリカ、中国・内モンゴル自治区、コンゴ民主共和国の18組20人。
以前取り上げた『パリのすてきなおじさん』と同様、イラストレーターでもある金井さんが描いた各人の似顔絵が素敵です。温かみがあり、一人一人に対する金井さんのエンパシーを感じます。
登場する人たちは以下のとおりです。
●北マケドニア
上野公園のチェリスト:ペレ・ヨヴァノフさん
●フィリピン
労働組合のリーダーとして仲間を守る:長谷川ロウェナさん
●モルディブ
海面上昇で故郷はがらりと変わった:ラシード・モハメドさん
●日本生まれ、中国籍
横浜中華街育ちで元不良の料理人:黄成恵さん
●バルバドス
カリブ海から来た語学の達人:スプリンガー・ドーン・エイミーさん
●アルメニア
ジェノサイドを経験した国の大使:グラント・ポゴシャンさん
●韓国
すぐ帰るつもりが75年、川崎のハルモニ:崔命蘭さん
●アイスランド
人口が少ないからいろんな仕事を掛け持ちする:アルナ・イェンソンさん
●スペイン、イタリア
長崎のキリスト者たち:ドメリコ・ヴィタリさん、アントニオ・ガルシアさん、泉類治さん
●中国・内モンゴル自治区
東京で起業したひと、草原の遊牧民:エンゲルさん
●東ティモール
12歳で山岳ゲリラへ、いまは広島弁の父ちゃん:マイア・レオネル・ダビッドさん
●セネガル
サッカーボールを追い続けた青春:パパ・ダウダ・ンゴムさん
●ミャンマー
1988年の民主化デモの後、17歳で日本へ:キンサンサンアウンさん
●エストニア
両親はレジスタンスの闘士だった:ペーテル・パウル・ハッラステさん
●メキシコ
スペイン内戦で亡命した一家の子孫:長谷川ニナさん
●コンゴ民主共和国
入管法改悪デモで出会った難民申請中のひと:ポンゴ・ミンガシャンガ・ジャックさん
●アメリカ
戦争花嫁の娘はジャーナリストになった:ルーシー・クラフトさん
●南アフリカ
アパルトヘイト時代を生きたジェンベ奏者:ジョゼフ・ンコシさん
インタビュー相手の見つけ方も行動力のある金井さんらしいです。たとえば、ある朝、寝ぐせつけたままのJ金井さんはコンビニに行く途中で顔なじみの隣人に出くわします。「おはようございます」とあいさつをする金井さん。「久しぶりですね~」と立ち話をするうちに突如目覚めた金井さんは彼に「日本に住んでいるバルバドス人を紹介してください」と頼みます。相手は少し考えて「山形にいい人がいます」と言って南陽市役所で働くバルバドス出身の女性を紹介してくれます。隣人は何と駐バルバドス日本大使なんだそうです。フットワークの軽い金井さんはさっそく山形に飛びますが、大使とも顔なじみになる金井さんはすごい人だと思います。
大使と言えば、金井さんは「お話を聞かせてくれる人を紹介してください」とアルメニア大使館に直接メールを送っています。すると「大使が取材に応じると言っております」との返事。大使自らが話を聞かせてくれるなんてこれもすごいことだと思います。
他にも、上野公園でチェロを奏でる男性や内モンゴル出身者の飲み会でぐらぐら煮え立つ羊肉と野菜の大鍋を囲んでいる時に出会った女性、入管法改悪反対のデモに参加している時に見かけた黒人男性に「話を聞かせてください」と直接依頼するなど、取材のチャンスを逃しません。私自身も常に心がけていますが、金井さんのようにはいきません。
金井さんの文章とイラストはほのぼのとして温かみがあります。中には悲惨な体験を語る人もおり、金井さん自身も記すのが辛いと言いますが、それでもしっかりと書きます。たとえば、コンゴから来た難民申請中のジャックさんについて、「ジャックさんの人生を語るにあたって、どうしても避けて通れないことがある。とても辛い話だが、はっきり書く。どうか覚悟しで読んでほしい」と前置きをした上で、彼の壮絶な体験を綴ります。そこには、日本内外の過酷な歴史と現状から目をそらしてはいけない、自分はそれを伝えなければならないという金井さんの強い思いが感じられ、心に深く刺さります。そして読んだ後ににはなぜか登場する人たちの穏やかさや優しさばかりが残ります。金井さんの筆力のなせる業でしょう。
日本にいても、その気になれば世界の様子がここまでわかる。日本はこんなにも世界とつながっている。そんなことを感じさせてくれる本です。
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