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30 12月8日に思う 

もうすぐ12月8日。私にとっては8月5日や8月9日と同じくらい重要な日です。

私が初めてハワイを旅行したのは1993年。戦後50年になろうとする頃でした。ハワイを訪れる日本人は増加しており、生徒や教師の中にもハワイ旅行に出かける人はいました。正月休みにワイキキの浜辺でクラスの生徒にばったり会ったなんて言っている同僚もいました。私が訪れたときも現地には多くの日本人観光客の姿がありました。幸か不幸か生徒には会いませんでしたが…

常夏の島ハワイは美しくて魅力的なリゾート地でした。楽しい体験がたくさんできました。でもいちばん忘れられないのは一人の米国人女性の口から出た言葉です。私が直接言われたわけではありませんが、心にぐさりと突き刺さりました。そして彼女のその言葉は私にいろいろなことを考えさせました。

それはアリゾナ記念館を訪れたときのことでした。アリゾナ記念館は太平洋戦争の際に日本軍の奇襲攻撃によって撃沈されたアメリカ海軍の戦艦アリゾナ号を慰霊する施設です。犠牲者を悼むとともに戦争の悲劇を繰り返さないという願いをこめて設立されました。1941年12月8日未明(現地では7日)、日本軍はハワイの真珠湾を攻撃し太平洋戦争が始まりました。攻撃のターゲットとなったのが真珠湾に停泊していた戦艦アリゾナ号で、船上にいた1177名の兵士もろとも海底に撃沈されました。ほとんどの兵士が死亡しました。攻撃は日本による中国や東南アジアの侵略で悪化していた日米関係を最悪のものとし、その後1945年8月の広島、長崎の原爆投下により終戦を迎えるまで数えきれない犠牲を生むことになります。犠牲者は日米だけでなくアジアや太平洋など多くの国の人を含んでいます。記念館で私はアリゾナ号が海底に沈んだままになっている様子を目にしました。そして戦艦をまたぐ形で建てられた海上の記念館にはもろとも死亡した人たちの名前が刻まれていました。胸に迫るものがありました。

見学を終えた私は併設されたギフトショップに立ち寄りました。買い物を終えて帰ろうとしたときです。日本人ツアー観光客の一団がやってきました。添乗員に案内され次々と店内に入る日本人。周囲への気遣いを見せる様子もなく大声を出し、人を押しのけて商品を見ようとします。私は嫌な気分になりました。同じ日本人として恥ずかしくなりました。そのときです。私のすぐ横にいた年配の老婦人が苦々しい顔でこう言ったのです。「ジャップ(Jap)が邪魔して買い物ができない!」 家族らしき人といっしょにいた老婦人は米国人と思われました。

「ジャップ」というのは「ジャパニーズ」の短縮形です。日本人のことを軽蔑して言う時に使われ、戦時中は米国人が敵国人である日本人のことを呼ぶ際によく使ったそうです。私はドラマや映画、ニュースなどでは耳にしたことがありますが、生身の人間が口にするのを聞くのは初めてでした。老婦人が日本人に対してどのような印象を持っていたかわかりません。戦争でどんな体験をしたかもわかりません。でも彼女の口調からは日本人に対して好意的な印象を持っているようには感じられませんでした。少なくともその場にいた日本人観光客に対しては侮蔑の意味を込めて発せられたように思います。ツアーグループには属さない私も自分に向けられた言葉のように感じました。

太平洋戦争では日本でも民間人を含めて多くの人が犠牲になりました。日本人の中には「アメリカは原爆で多くの日本人の命を奪った」「アメリカは加害国で、原爆を落とされた日本は被害国だ」と言う人がいます。罪もない民間人を殺したと言ってアメリカを非難する人もいます。私は戦後生まれなので戦争そのものは体験していません。でも広島や長崎の原爆記念館を訪れ、原爆の恐ろしさは実感しました。多くの民間人が殺された不条理も目の当たりにしました。同様にアリゾナ記念館でも戦争の悲惨さを目にしました。多くの命が失われたことに胸が痛みました。ですから戦争での被害者と加害者に分けることには疑問を感じます。分けることに意味があるとも思えません。戦争には被害者も加害者もありません。強いて言うならばだれもが被害者であり加害者です。だれもが犠牲者であるとも言えます。被害者であるか加害者であるかが問題なのではなく、戦争そのものが悪なのです。また民間人を殺すのは許されないが、兵士ならやむを得ないという考え方にも同意できません。核兵器は絶対に使用してはなりませんが、戦闘機による攻撃なら許されるということでもありません。戦争は絶対に、絶対にしてはならないのです。

老婦人の家族や知り合いの中に戦争で犠牲になった人がいたかどうか私にはわかりません。彼女の戦争体験がどのようなものであったかもわかりませんが、当時はまだ日本に対して複雑な思いを抱いている人はたくさんいたと思います。憎しみを持つ人もいたでしょう。彼女がなぜ「ジャップ」という言葉を口にしたのかはわかりませんが、もし戦争が原因となっているのであるならば彼女もまた戦争の犠牲者の一人だと言えるでしょう。

今も世界各地で戦争が起きています。戦後何十年たっても戦争の後遺症に苦しんでいる人がいます。平和だと言われる日本だっていつ戦争に巻き込まれるかわかりません。いや、すでに巻き込まれているようにも感じます。海外で起きている戦争に自分もどこかで加担しているのではないかという不安もあります。12月8日を前にハワイでの出来事を思い出しています。

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