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20メートル歩く(中学生の声)

*事実をもとにしたフィクションです。

週末は文化祭だった。2学期が始まってすぐの行事で学校は大忙しだった。でも、文化部の人たちにとっては日ごろの成果を発表する大事な日だ。展示やステージ会場ではみんな張り切っていた。

運動部のボク達は裏方の仕事を任された。ボクの仕事は正門の近くで見学者を案内することだった。保護者や地域の人など朝からたくさん来校してすごく忙しかったよ。ほとんどの人は歩いて来校するけど、たまに車で来る人もいる。原則として車での来校は遠慮してもらっているけど、中には身体の不自由な人もいる。そんな人たちには正門の脇にある駐車場を案内した。校舎の玄関までは20メートルくらいのところだけど、車いすの人には玄関までボク達が手伝うこともあった。玄関はグランドに面しているんだけど、通常はグランドへの車の乗り入れは禁止されている。グランドで活動する生徒や登下校の生徒が事故に巻き込まれないようにするためだ。

午後の2時頃だったかな。グランドに入ろうとした車があったのでボクは急いで車を止めた。そして駐車場を案内しようしたんだ。すると運転していた人が怒った顔して「邪魔だぞ」って言うんだ。ボクは「車は駐車場に停めていただくことになっています」と言ったんだけど、その車はボクを無視してグランドの中に入って行こうとした。玄関まで行くつもりだったらしい。

そのとき向こうから教頭先生が走って来て、「おまえ何やってるんだ!」ってボクを怒鳴るんだ。そして車の人に「生徒が失礼なことをして申し訳ありません」って謝るんだよ。ボクは何が何だかわからなかった。言われたとおりに案内しただけなのに。結局、教頭先生は車をそのまま玄関まで誘導して行った。玄関前で車を降りたのは市長さんだったみたいだ。どうやら文化祭を見に来たらしい。市長さんが文化祭に来るなんてめったにないのにいったい何しに来たんだろう。15分くらいで帰っちゃったから展示などほとんど見ていないんじゃないかな。不可解だなあ。

それよりもっと不可解、というか不愉快に思ったのは、なんで市長さんの車だけグランドに入れたのかということだ。お年寄りや身体の不自由な人も駐車場から歩いているのに、市長さんだけ玄関まで車で行くなんて変だよ。市長だからって特別偉いわけじゃない。市民の代表として仕事をしているだけだ。それにルールはルールだ。市長だからルールは守らなくてもよいということにはならない。さらに、駐車場から玄関までは20メートルくらいしかない。市長さんはまだ40代だよ。元気なんだから歩いたっていいじゃないか。どこかの知事みたいだ。帰りも玄関から車に乗っていた。

教頭先生もひどいよ。ボクがきちんと仕事をしているのに怒鳴るなんて。失礼なのはどっちだって言いたいよ。


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