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教師のネット活用

教え子と数年ぶりに話をする機会がありました。彼女は中学校の教員をしています。「先生(私のこと)を見ていて教師になりたいと思った」という彼女の言葉は私をとても嬉しくさせました。さらに「先生が出していた学級通信をまねて私も学級通信を出しています」と言うのを聞いて、私がやっていたこともまんざら無駄ではなかったと思いました。でも、そのあとの彼女のことばにちょっと引っかかりました。

「子どもたちが誰でも自由に悩みを書き込めるサイトがあったので学級通信で紹介したい」と彼女。勉強や友だち関係、進路のことなどで悩む子どもは少なくないですし、いじめなどで学校に行けない子どももたくさんいます。中には「死」を考える子どもさえいます。「自分が教える生徒たちの中にもそうした子がいるのではないかと思うけど、気づいてあげられないこともあるから」と彼女は言います。生徒を思う優しい気持ちを彼女の中に感じました.。でも「ちょっと待って!」と私は言いました。彼女がやろうとしていることに一抹の危うさを感じたからです。

彼女はそのサイトをネットで偶然見つけたと言います。「それって安全なの?」と私が聞くと、自分で確認した限りは問題なさそうだと言います。しかし、だれが、何の目的で、どのように運営しているサイトなのかという私の問いには答えることができませんでした。私は「問題がなさそうに思えても、問題がないと言い切れないのであれば安易に生徒に紹介するのはやめた方がよい」と言いました。「何かあったらあなたに責任が持てるの?」と言うと彼女は何も答えず考え込んでしまいました。

その後、私は彼女に教えられたサイトを確かめてみました。誰でも簡単に投稿できるサイトで、数多くの書き込みがなされています。「学校に行きたくない」「居場所がない」「親と話が合わない」など多くが悩みや不満です。「死にたい」という書き込みも複数ありました。でも、私にはこのサイトがいかなるものか判断できませんでした。NPO法人が運営しているようですが、この時点では詳細がわかりません。寄付が募られていますが寄付金がどのように使われているのかも不明です。投稿しているのは多くが子どものようですが、本当に子どもなのか判断できません。投稿内容も真実かどうか判別できません。書き込まれたことに対して共感を示す機能がありますが、「なぜこの投稿に共感?」と思えるものもあります。くわえて、個々の悩みに対してどのような対応がなされているのか不明ですし、個人情報がどのように担保されているのかもわかりません。少なくともこの時点では私は生徒に紹介しません。私自身が理解していないからです。

もちろんそれは有意義なサイトかもしれません。書き込みをすることで救われている子どもがいるかもしれません。でも、教師がそうしたものを紹介する際には調査が必要でしょうし、自分自身が十分に理解する必要があると思います。少なくとも彼女にそれができているとは思えませんでした。

また、「悩み」というデリケートな問題を学級通信というオープンな場で扱うことにも引っかかりました。学級通信を読むのは生徒や保護者でしょうが、それ以外の人の目に触れることもあります。受け止め方はまちまちです。生徒や保護者の中には「先生が紹介してくれたものだから」と安心して受け入れる人もいるでしょう。ネット上には教育活動に有効なツールはたくさんあり、生徒に推奨できるものも少なくありません。でも、利用する人や利用の仕方によってはマイナスに作用することだってあります。

さらに、彼女には目の前にいる生徒にもっと向き合ってほしいと思いました。自分が気がつかないところで悩んでいる生徒がいるかもしれないと思うのであれば、気づく努力をしてほしいです。ネットに頼るのではなく、教師として彼女自身が子どもにもっと歩み寄ってほしいです。生徒の悩みに寄り添いたいと思うのであれば彼女が一人一人の生徒にもっと関わってほしいです。もちろんそのためには教師の働き方などの体制整備は不可欠です。また、ネット情報を紹介するにしても学級通信のようなオープンな場に「放り投げる」のではなく、この子には必要だと思う生徒を吟味し、個人的に勧めてほしいです。フォローが必要なことは言うまでもありません。デジタルの時代だからこそ生身の人間のつながりが大切だと思います。

ここに記したことはあくまでも私個人の考え。最終的に判断するのはもちろん彼女です。










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