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私たちはただの数でしかない(We are just numbers.)

14日にNHKBSで放映された「世界の市民が見たアメリカ大統領選挙」を見ました。これまでの番組と類似したものだろうという私の予想を覆した重い番組でした。

大激戦と言われたアメリカ大統領選挙。番組ではその行方を世界各地の市民が固唾を飲んで見守りながら、それぞれのどのように感じているかを伝えていました。アメリカの後押しを受けるイスラエルと激しい攻撃にさらされるガザ地区、アメリカからの武器援助を頼りにロシアと戦闘を続けるウクライナ、米中対立の狭間で揺れる台湾、移民問題が大統領選の争点ともなっているメキシコ、最後はイスラエルの攻撃を受けるヨルダン川西岸の難民キャンプでした。アメリカの影響を受けるそれぞれの地域で市民たちは今回の選挙をどう見ているのか。市民たちの自撮り映像で様子が伝えられていました。

いずれの地域も状況の厳しさはすさまじく、市民の不安がひしひしと伝わってきました。中でも、最後に伝えられたヨルダン川西岸の北部にあるジェニン難民キャンプ出身の26歳の若者が語った言葉が心に深く染み入りました。キャンプは「テロリストの巣窟」としてイスラエルの激しい攻撃にさらされており、毎日多くの命が失われています。抵抗して殺された人は「殉教者」として讃えられます。彼自身も攻撃で負傷し、生死の境をさまよいました。

彼が墓地を前に語ります。「毎週、毎月、毎年数えきれないほどの命が失われている。でも誰も私たちパレスチナ人のことなど気にもかけてくれない。私たちはただの数でしかないのでしょう。ひとりひとりにそれぞれのものがたりがあるのに、数多くの悲劇がこの墓地を覆い尽くしている」

攻撃によって何人死んだか。報じられるその数字に憤りや悲しみを覚えながらも、人々は殺されたひとりひとりに目を向けることが少ないと彼は言いたいのでしょう。「ひとりひとりにそれぞれのものがたりがある」という彼のことばは私にも向けられているように感じました。

墓地には戦いに参加して「殉教者」となった人たちのポスターがたくさん貼られており、近くに子どもたちの姿がありました。彼は子どもたちを見ながら言いました。「子どもたちは成長しても戦う選択肢しかない。生きるために抵抗し、抵抗するために生きる。それがここの人間の生き方だ。ほら、子どもがポスターを指さした。愛する人(殉教した戦士たち)のようになりたがっているからだ」と。そして「あの子どもたちが次の番かもしれない」という彼のことばで番組は終わります。

戦う以外の選択肢を持たない子どもたち。何という不条理かと思います。印象的だったのは、彼が「平和が欲しい」と言った時の言葉の弱々しさです。彼は「平和」など来ないと言っているように私には思えました。彼にとっての「平和」は、私たちが「平和な世の中になってほしい」とか「平和が大切」などと言う時の「平和」とは重さがまったく違うのだと感じました。


番組は11月21日(木) 午前9:25〜午前10:25に再放送されます。


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