親しみの行為がハラスメントになることだってある

放課後の部活動が始まる時間でした。サーカー部の生徒が職員室に体育倉庫の鍵を取りに来ました。学校内のカギはすべて職員室のキーボックスに保管されており、生徒が取りに来たときは近くにいる教師が確認して渡すことになっています。「サッカー部ですが体育倉庫の鍵をお借りしに来ました」職員室の入り口で生徒はそう言いました。礼儀正しくてきちんとした態度です。

すると近くにいた教師がこう言いました。「おぅ、サッカー部か。よし、鍵がほしけりゃそこで一曲歌え」生徒はびっくりした様子でした。教師はにやにやしながら続けてこう言ました。「サッカー部員はみんな歌がうまいんだってな。〇〇先生(サッカー部の顧問)が言ってたぞ。踊りもうまいらしいから歌って踊れよ」生徒はどうしてよいかわからない様子で、顔を赤くして立ちすくんでいます。きっとまじめな生徒なのでしょう。「歌わねえのか。じゃあ鍵は渡せねえな」教師は執拗に続けます。そばにいる教師も数名が同調して「歌え!」とはやし立てます。

その時、職員室の奥にいた女性教師が生徒のところにやってきました。そして体育倉庫の鍵を取り出して「ごくろうさま。練習しっかりね」と言って男子生徒に渡しました。生徒はほっとした様子で「ありがとうございます」と言って立ち去りました。生徒がいなくなったあと女性教師は男性教師たちに向かって言いました。「生徒をおもちゃにするもんじゃないわよ」と。男性教師たちは気まずそうな表情を見せました。

生徒をからかう教師は少なくありません。親しみを込めてからかうこともあり、からかうことで関係を深めようとします。からかわれる方の生徒もそれを抵抗なく受け入れることはあります。お互いの関係がしっかりできている場合です。先の生徒の場合はそんな関係には見えませんでした。彼にとっては苦痛だったのではないかと思います。私には完全なハラスメントだと感じました。そして彼の心に傷が残らないことを願いました。同時にその場にいて理不尽さを感じながら自分が何も言わなかったことを反省しました。「生徒をおもちゃにするもんじゃない」とびしっと言った女性教師に私は教えらました。

教師のからかいや悪ふざけは時に同僚に向けられることもあります。2019年に神戸市の小学校で発覚した「教師いじめ事件」もそのひとつではないでしょうか。冗談やからかいが度を超えて犯罪となった悲劇だろうと思います。そしてその学校にもきっとそれを見ていて何も言えなかった(あるいは、言わなかった)教師がいたのではないかと思います。

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