【小さな物語】美術館で…
横浜のある美術館で
私の大好きな絵の展覧会がありました
出来たばかりのまだ新しい美術館の階段をのぼりきった所に
展覧会のメインとなる
私の大好きな絵が飾られていました
その絵の前に
見覚えのある後ろ姿が…
一緒に暮らして、喧嘩して、仲直りして、
いっぱい、いっぱい
いろいろな事があったけど…
そんな事がずっと続くと想っていた彼の後ろ姿でした
昔のように…”ねぇ…”と、声をかけて彼の左腕に寄り添ったら
本当に彼と過ごした時間に戻れるような気がしました
だけど…
それ以上、一歩も動く事さえ出来なかった
時間が止まっているような気がしたのは一瞬だけ
彼の隣には素敵な彼女が
昔、私がそうしたように
左腕に寄り添って
少しも変わらない彼の笑顔に包まれていました
よく、ドラマにこんなシーンがあったっけなんて
よけいな事しか思い浮かばなくて
本当は、いつかどこかで偶然彼に逢えた時
どんな笑顔で逢おうとか
どんな言葉で彼に話そう
なんていっぱい、いっぱい考えていたはずなのに
何一つ、
私には想い浮かばなくって
ただ…
素敵な彼女と懐かしい後ろ姿を
吹き抜けのホールからずっと見送っていただけ
二人で一緒にいた時は
美術館なんて、一度も行った事なかったのに
私が絵が好きだって事
きっと、最後まで知らなかったはずなのに
同じ時間を
二人で過ごしていた頃に気付かなかった事
それぞれ別の人が隣にいて
一枚の同じ絵を見に来るなんて
彼に出逢えた最後の一瞬…
ドラマのように
声は掛けられなかったけど
一番最後に彼を笑顔で見送れた事
少しでも気付いてもらえたのかな
後ろ姿の彼の右手が少しあがって
振り向いてくれた最後の笑顔…
ありがとう…が
言葉にならなかった…