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【小さな物語】 免許証…

時を遥か遠く遡り…

18の頃…
高校を 卒業して
静岡の大学に行った彼と一緒に住み始めて
最初の秋だった…

車の免許を取ろうと思った

遠い昔の話…
ちょっと山奥にある大学までの道
駐車場には
学生が帰ると、殆ど車が入ってこない

夕方から夜に掛けて
彼の大学の駐車場で
こっそり練習させてもらっていた

ちょっとした坂道やS字も有り
苦手だった坂道発進、S字運転、車庫入れ…
何度も何度も彼は
私の横に乗って
優しく教えてくれた

歳を重ね、今振り返って考えると
親ならともかく
よくぞ、ふわふわした私の運転を信じて
横に同乗しながら
教官の如く、細かい注意点をわかりやすく、根気強く教えてくれたと思う

苦手だった坂道発進もS字も車庫入れも
何処に注意して
無駄な動きをせずに
操作すれば良いのか
彼だったから
彼の言葉だったから
私の心に全て残った

12月、冬の初め
私は免許がとれた
100%、彼のお陰だと今も感謝している

一方、何故か?
原付免許を取る時も
試験場にまで着いてきてくれた父が
再び着いてきて
合格発表まで終日、付き添ってくれた

遥か昔?は
試験から発表、免許証交付まで
一日がかりな試験場がありました

十代の私は
保護者同伴の試験にかなり恥ずかしかった…

今、想い返したら
少し遠い試験場まで
きっと、
仕事を休んで同行してくれたのだろう

終日、時間を潰しながら
寒い廊下で待ち
昼食に温かい鍋焼うどんを一緒に食べながら
『きっと、受かる!受かってる!』と励まし
発表まで見守ってくれた父には
心からありがたい事だったと今は想う…

合格したその夜
父が同乗して初運転!

自宅前の道路は通学路になっていて
夜は殆ど車が入って来ない

さぁ!初運転!

が…
合格まで見守ってくれた父には
私の運転がやはり怖かったらしく
私の踏むブレーキの前にハンドルを切り

対向車も何もなかったはずの道路脇
唯一有った電信柱の前で車は止まった

ある意味、軽い初~ドリフト?状態で車は止まったので
『お父さん!何するの!』と怒った私に
『このまま行ったら危ないと思って…』と、
イヤイヤ!?あなたの急な行動の方が危なかったです!
と…思いながら

父の前で
運転は二度としない様にしようと誓った
これも親孝行の一つだと
免許を取った夜、心に刻んだ

そして
ふわふわした私は、
再び彼の指導のもと

彼の大学が少し長い休みになる度
伊豆(彼の家の別荘が有る)までの道のり
彼の隣で運転を重ねた

あまり信号のない真っ直ぐな道や
有料道路に限ってだけれど

彼は、私に運転を代わり
始終見守ってくれた

余談ではあるが…
私には
父からの忘れられない大切な"言葉"が
今でも心の奥にひとつしまってある

我を忘れるくらい、忙殺?されそうな
バタバタと過ごしてしまう時

私は
父からの言葉を想い出す様にしている

私が静岡から免許を取る為
帰省している時

朝に、夕に、
躍起になって教習所の予約を取り
乗車して帰宅すると
教習本を読みあさり
また、夕方からの乗車予約に
出掛けて行く日々を
繰り返して過ごしていた最中の事…

仕事の泊まり明けで遅くに起きてきた父が
私のバタバタぶりに
笑いながら、穏やかに言った

『そんなに、無理して一日に何度も乗車して
本番の乗車試験の時に
教官が"おまけ"でも付けてくれるのかい?
何も付かないなら
今日はもう、勉強も乗車もしてきてるんだから

お母さんが作った美味しいもの食べて
テレビでも見て
ウチに居た方がいいんじゃないかい?』

と、さらっと!言って
"お母さんが作った美味しいもの"を
また食べだした

私の心の中では
かなり衝撃的な言葉だった

そっか…
今、バタバタ慌てて教習所へ再び駆け込んでも
最終乗車試験が必ず通るとは限らない
"おまけ"なんか付くはずもない

私は、父からの気が抜けた言葉で
本来の自分に
自分の物事の進め方に
立ち返れた気がした

そして、今でも…
自分を見失いそうになるくらい
バタバタしだした時

『本番で
"おまけ"が付く訳じゃないんだから
今日は美味しいもの食べて
テレビでも見て
ウチに居た方がいいんじゃないかい?』

そんな
穏やかな呑気な
父からの言葉を想い出す

私の免許証に纏(まつ)わる
彼と父の優しい時間だった

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一葉故(ひとはゆえ)
心残りの想いさえ
届かぬままの 散りゆく冬に
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