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だいたいどの会社も40代くらいが活躍できない仕組みになっている
成人して社会の入り口に立ったとき、もう既に、入り口が閉ざされていた
企業のほとんどは、採用という扉を1ミリ程度しか開けてくれず、それでもその1ミリに向かって私達は、果敢に飛び込んでいった。
100社、200社とエントリーシートを送り続け、それが300社になろうとしたとき「この会社で働きたい」と思えるような企業ではないのに、エントリーシートを送り続けている自分を、やっと否定できた。
新卒で正社員で働くことを諦めた瞬間だった。
このとき自分が「就職氷河期」の渦中にいたことを知るのは、ずっとずっと後になってからだ。
「時給700円で毎日試験管を洗っているだけだって」
厳しい受験を突破し、難しい国家資格を取得して、念願の大手医療機関に新卒で就職できた先輩の噂が耳に入る。彼女はとても優秀な学生だった。
私はその時、大手広告代理店の派遣社員として、事務処理で手が空いたら、給湯室で正社員のために湯を沸かしたり、さまざまな種類の茶筒を整理したり、マグカップを洗ったりしていた。時給1600円。同じ洗い物だけど、自分の方が「手取りは倍だ」なんて思っていた。
当時の就職率は、55~70%といったデータもあるが、怪しい
難関大卒だろうが、正社員として就職できず、不本意に派遣社員やフリーターにならざるを得なかった若者がどれほどの数いるか。高卒や専門学校、短大卒はもっと酷い。その数値を政府は正しくカウントしていない。就業率は、低い年でも55%。冗談じゃない。もっと低いはずだ。
いま40代の多くは、正社員やフリーターとして働いていた20代のころ、その会社の就業環境が悪いために転職を繰り返さなければ、とても生きていけなかった。
グラフィックデザイナーとして働いていた友達のひとりは、死んでしまった。たまたま表参道でばったり会って軽く話したとき「仕事が忙しすぎて寝れないんだ」そんなことを言ってた彼の、笑っているのか泣いているのか何とも言えない顔を、たまに思い出す。学生のころ明るかった彼は、痩せすぎて頬がこけ、まるで人相が変わっていた。本当の理由はわからないが、会社に寝泊まり毎月残業100時間以上、残業手当なし、休みなし、賞与なし、退職金なしの会社で働いていた背景が、関係していると私は今でも思っている。
派遣社員の場合、派遣法で働ける期間が定められているため、派遣先企業で無限に働くことはできないし、スキルや経験を得ても、正社員のような踏み込んだ業務を任せてもらえない。一度派遣社員として働いたら最後、なかなか抜け出すことは難しい。経歴書は、職歴が増えるばかりだ。
令和になり、様々な理由でやっと正社員として働くことができた40代は、新卒よりも年収が低いケースが目立つ
「もう不採用になりたくない!」
潜在意識としての心の叫びだろう。多くの40代は、中途採用の面接で自身の希望年収を控えめに伝えてしまう傾向がある。そんなことはないのに、だ。経営的にそのほうが都合がいいので、人事もその価格帯で経営陣へ通してしまう。
令和的40代の中途採用
いざ40代が中途採用され営業部なんかで働いてみると、上司は入社3年目の20代。そんなユニット長の配下で、指示された仕事をこなすことからはじまる。上司は「コロナのとき大学生でした」の年齢層。
彼らは、就職氷河期を知らない。彼らの親も、バブルのときに入社した世代で、就職氷河期の真実はおそらく知らないだろう。
だいたいどの企業も構図として、40代の「正社員」が、ごそっといない。
令和になって、私は運よく中途採用でやっと正社員として働くことができた。退職金は出ないけど、ボーナス1か月分はある。正社員という勲章が、どの世代よりも輝いてみえ、雇用形態を話す場面では何だか誇らしい気持ちにすらなる。手取りで20万ちょっと。共働きでなんとか子育てもやっていける。
そんなことを話せる40代は、恵まれているほうなのかもしれない。
就職氷河期世代の自尊心の低さが、中学受験ブームに火をつけているという本質を誰も指摘しない
40代は子育て世代でもある。せめて自分の子どもだけは就職に苦労してほしくはない。昨今の中学受験ブームは、そんな就職氷河期世代の自尊心の低さが影響していることを、テレビのコメンテーターやコラムなどで誰も指摘していないと思う。
就職氷河期世代は、もっと政府に対し怒るべきだ
「なんでこんなに転職してんだよ、まわせるとこねー。職歴刻みすぎじゃね、まじで」
人材業界に長く在籍していたって、氷河期世代をかすっていない社員はわかってくれない。ましてや氷河期世代で新卒で正社員になれた氷山の一角の成功者は、厳しい世の中を勝ち抜いてきた勝者であって、プライドが突き抜けている。すでに役員として話すらできない。
何度も言ってしまうが就職氷河期世代の多くは、好んで転職を繰り返しているわけではない。そんな背景をいくら伝えても、だめだ。わかってくれない。というか、わかろうとしてくれない。
「いやいやわかるっすけど年齢とスキルのバランスが悪いっすね」
「この年でマネジメントとかしてないとキツいよね」
「この歳でこの経歴、やばいっすねー」
「いままで何やってきたんだよ」
どこぞの40代の経歴書を、20代の上司に馬鹿にされるばかりだ。
輝けなかった40代(50代)を何とかしたくて私は、10年以上人材業界にしがみついている。ふざけんなよ。私は会社に届く経歴書の背景を想像し、「あなたが磨けるスキルを、絶対に私がみつける、そして絶対に繋げる」そう自分事として組織の中で、毎日腹が立っている。
就職氷河期世代のみんな、まじでもっと怒ったほうがいい
そして政府に届くよう、ちゃんと声を上げるべきだ
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