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『こころ』を読んで

夏目漱石の『こころ』を読んでみました。高校の教科書以来でしたが、あの時とは違い、面白く感じます。
読んだのは新潮社から2004年に出ている版です。

解説内で気になる箇所がありました。

漱石は自筆の広告文で、人間の心を研究する者はこの小説を読めと書いた。

363p

「人間の心を研究する者」という表現は面白いですね。それは研究者だけでなく、全人類に言える事ではないでしょうか。誰しも自分や他人の心が原因で悩むことはあるでしょう。そんな時悩みの種を考えた時こそ、既に「人間の心を研究する者」になっているのではないでしょうか。

以下本文を引用するのでネタバレあります。

「上 先生と私」から

先生は始めから私を嫌っていたのではなかったのである。先生が私に示した時々の素気ない挨拶や冷淡に見える動作は、私を遠けようとする不快の表現ではなかったのである。傷ましい先生は、自分に近づこうとする人間に、近づく程の価値のないものだから止せという警告を与えたのである。他の懐かしみに応じない先生は、他を軽蔑する前に、まず自分を軽蔑していたものと見える。

16p

過去のKへの行いがあるからこそ、自分を軽蔑しているんでしょうね。悲しいですが、その気持ちも分かります。僕は先生のような行いをしたわけではありませんが、似たような感情は、ごくたまに持つこともあります。

私が丸い墓石だの細長い御影の碑だのを指して、しきりに彼是云いたがるのを、始めのうちは黙って聞いていたが、仕舞に「貴方は死という事実をまだ真面目に考えた事がありませんね」と云った。私は黙った。先生もそれぎり何とも云わなくなった。

19p

死という事実をまだ真面目に考えた事がありませんね、という言葉は僕にも重くのしかかってきました。自作小説内で登場人物を死なせることがありますが、その時の自分へ言われているような気がします。

私は最初から先生には近づき難い不思議があるように思っていた。それでいて、どうしても近づかなければならないという感じが、何処かで強く働らいた。こういう感じを先生に対して有っていたものは、多くの人のうちで或は私だけかも知れない。

21p

「どうしても近づかなければならない」と私が感じるのはなぜなんでしょう。先生が寂しく見えたからでしょうか。

「貰ッ子じゃ、ねえあなた」と奥さんは又私の方を向いた。
「子供は何時まで経ったって出来っこないよ」と先生が云った。
奥さんは黙っていた。「何故です」と私が代りに聞いた時先生は「天罰だからさ」と云って高く笑った。

29p

奥さんはこの時悲しいんでしょうか。こんな先生の隣にずっといて、よっぽど強い人なんでしょう。先生も余程自分を蔑んでいるんですね。

その時ただ私の耳に異様に響いたのは、「最も幸福に生れた人間の一対であるべき筈です」という最後の一句であった。先生は何故幸福な人間と云い切らないで、あるべき筈であると断ったのか。

34p

好きな人と結ばれたという点で、「あるべき」と言ったのでしょう。しかしKの犠牲を伴っているので幸福にはなれません。

「悟るの悟らないのって、そりゃ女だからわたくしには解りませんけれど、恐らくそんな意味じゃないでしょう。やっぱり何か遣りたいのでしょう。それでいて出来ないんです。だから気の毒ですわ」

37p

時代が見えるセリフですが、やはり奥さんは強い人物ですね。先生やKが惚れるのも納得です。

先生は奥さんの幸福を破壊する前に、先ず自分の生命を破壊してしまった。

40p

Kのことを言わずに死んだことに対しての私の台詞。良い表現だな、と。

「君は今あの男と女を見て、冷評しましたね。あの冷評のうちには君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声が交っていましょう」
「そんな風に聞こえましたか」
「聞こえました。恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものです。然し……然し君、恋は罪悪ですよ。解っていますか」

41p

これも自分に言われているよう。そして「恋は罪悪」というこの物語を象徴するような言葉。

「かつてはその人の膝の前に跪ずいたという記憶が、今度はその人の頭の上に足を載せさせようとするのです。私は未来の侮辱を受けないために、今の尊敬を斥ぞけたいと思うのです。私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代りに、淋しい今の私を我慢したいのです。自由と独立と己れとに充ちた現代に生れた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう」
 私はこういう覚悟を有っている先生に対して、云うべき言葉を知らなかった。

47p

面白い表現。「その人」とはKのことなのでしょうか。

「そりゃ私から見れば分っています。(先生はそう思っていないかも知れませんが)。先生は私を離れれば不幸になるだけです。或は生きていられないかも知れませんよ。そういうと、己惚になるようですが、私は今先生を人間としてできるだけ幸福にしているんだと信じていますわ。どんな人があっても私ほど先生を幸福にできるものはないとまで思い込んでいますわ。それだからこうして落ち付いていられるんです」

55p

やはり強い奥さん。「私は今先生を人間としてできるだけ幸福にしているんだと信じていますわ。どんな人があっても私ほど先生を幸福にできるものはないとまで思い込んでいますわ。」こんなこと言えますかいな。いやむしろ自分に言い聞かせているのかも知れません。

「どうぞ隠さずにいって下さい。そう思われるのは身を切られるより辛いんだから」と奥さんが又云った。「これでも私は先生のためにできるだけの事はしている積りなんです」
(中略)
「私はとうとう辛防し切れなくなって、先生に聞きました。私に悪い所があるなら遠慮なく云って下さい、改められる欠点なら改めるからって、すると先生は、お前に欠点なんかありゃしない、欠点はおれの方にあるだけだと云うんです。そう云われると、私悲しくなって仕様がないんです、涙が出て猶の事自分の悪い所が聞きたくなるんです」
 奥さんは眼の中に涙を一杯溜めた。

58-59p

先生が厭世的になった理由に関する箇所。奥さんはなぜ先生がそんな性格になったのかを知りません。しょうがないけど、奥さんが可哀そうだと思ってしまいます。

「それっきりしか云えないのよ。けれどもその事があってから後なんです。先生の性質が段々変って来たのは。何故その方が死んだのか、私には解らないの。先生にも恐らく解っていないでしょう。けれどもそれから先生が変って来たと思えば、そう思われない事もないのよ」

61p

奥さんはKが自殺した事を知らない様子。

先生は、歓楽の交際から出る親しみ以上に、何時か私の頭に影響を与えていた。ただ頭というのはあまりに冷か過ぎるから、私は胸と云い直したい。肉のなかに先生の力が喰い込んでいると云っても、血のなかに先生の命が流れていると云っても、その時の私には少しも誇張でないように思われた。

72p

非常に良い表現。「血肉となる」ってことを表現してます。

「まだあるという程の理由でもないが、以前はね、人の前へ出たり、人に聞かれたりして知らないと恥のように極が悪かったものだが、近頃は知らないという事が、それほどの恥でないように見え出したものだから、つい無理にも本を読んでみようという元気が出なくなったのでしょう。まあ早く云えば老い込んだのです」

78p

僕はまだ若いので恥だと感じてしまいます。恥ないために読書をする、というのはわかります。『こころ』を読んだきっかけも知見を広げたい、という動機の下で。

然し悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にある筈がありませんよ。平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです」
(中略)
「金さ君。金を見ると、どんな君子でもすぐ悪人になるのさ」

87-91p

「私」に「父親の遺産がどれくらいか」や「親戚の構成」を聞いたのはこうした理由があるからでしょうか。「金は人を変える」とは良く言うものの実際はどうなのか、僕はまだ感じたことがありません。

「私は他に欺むかれたのです。しかも血のつづいた親戚しんせきのものから欺かれたのです。私は決してそれを忘れないのです。私の父の前には善人であったらしい彼らは、父の死ぬや否や許しがたい不徳義漢に変ったのです。私は彼等から受けた屈辱と損害を小供の時から今日まで背負わされている。恐らく死ぬまで背負わされ通しでしょう。私は死ぬまでそれを忘れる事が出来ないんだから。然し私はまだ復讐をしずにいる。考えると私は個人に対する復讐以上の事を現に遣っているんだ。私は彼等を憎むばかりじゃない、彼等が代表している人間というものを、一般に憎む事を覚えたのだ。私はそれで沢山だと思う」
 私は慰藉の言葉さえ口へ出せなかった。

94-95p

先生の人嫌いの過去が明かされます。そして先生もそんな嫌いな裏切り行為をKにやってしまう。だからこそ自分自身も嫌う対象になるのでしょう。

「あなたは本当に真面目なんですか」と先生が念を押した。「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るにはあまりに単純すぎる様だ。私は死ぬ前にたった一人で好いいから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたは腹の底から真面目ですか」

97p

先生は「私」のことを信用したから遺書を渡したのでしょうか。そして奥さんは「たった一人」にはならないのか。

「先生と私」を読み終わり、先生の過去が徐々に明かされていったな、と思います。そしてそれは「私」に心を開いたからで、しかも奥さんにも話していないことを話しています。余程信用しているのでしょう。

そして想像以上に読みやすいです。短い節になっているからコンパクトにまとまっている印象。高校の授業とは違う、自ら読む読書。

「中 両親と私」から

「大学位卒業したって、それ程結構でもありません。卒業するものは毎年何百人だってあります」
 私はにこんな口の利ききようをした。すると父が変な顔をした。
「何も卒業したから結構とばかり云うんじゃない。そりゃ卒業は結構に違いないが、おれの云うのはもう少し意味があるんだ。それが御前に解っていてくれさえすれば、……」
 私は父からその後を聞こうとした。父は話したくなさそうであったが、とうとうこう云った。
「つまり、おれが結構という事になるのさ。おれは御前の知ってる通りの病気だろう。去年の冬御前に会った時、ことによるともう三月か四月位なものだろうと思っていたのさ。それがどういう仕合せか、今日までこうしている。起居に不自由なくこうしている。そこへ御前が卒業してくれた。だから嬉しいのさ。折角丹精した息子が、自分の居なくなった後で卒業してくれるよりも、丈夫なうちに学校を出てくれる方が親の身になれば嬉うれしいだろうじゃないか。大きな考を有っている御前から見たら、高が大学を卒業した位で、結構だ結構だと云われるのは余り面白くもないだろう。然しおれの方から見て御覧、立場が少し違っているよ。つまり卒業は御前に取ってより、このおれに取って結構なんだ。解ったかい」
 私は一言もなかった。詫まる以上に恐縮して俯向いていた。父は平気なうちに自分の死を覚悟していたものと見える。しかも私の卒業する前に死ぬだろうと思い定めていたと見える。その卒業が父の心にどのくらい響くかも考えずにいた私は全く愚ものであった。私は鞄の中から卒業証書を取り出して、それを大事そうに父と母に見せた。証書は何かに圧し潰されて、元の形を失っていた。父はそれを鄭寧に伸した。
「こんなものは巻いたなり手に持って来るものだ」
「中に心でも入れると好かったのに」と母も傍から注意した。
 父はしばらくそれを眺めた後、起って床の間の所へ行って、誰の目にもすぐ這入るような正面へ証書を置いた。何時もの私ならすぐ何とかいう筈であったが、その時の私はまるで平生と違っていた。父や母に対して少しも逆らう気が起らなかった。私はだまって父の為すがままに任せておいた。一旦癖のついた鳥の子紙の証書は、中々父の自由にならなかった。適当な位置に置かれるや否や、すぐ己れに自然な勢を得て倒れようとした。

115-117p

父の親心とそれに気づいた「私」。そして父の病気が子への思いに拍車をかけました。僕ももうすぐ大学を卒業する身だから、この感覚が少し近くにある気分。

「あなたから過去を問いただされた時、答える事の出来なかった勇気のない私は、今あなたの前に、それを明白に物語る自由を得たと信じます。しかしその自由はあなたの上京を待っているうちには又失われてしまう世間的の自由に過ぎないのであります。したがって、それを利用出来る時に利用しなければ、私の過去をあなたの頭に間接の経験として教えて上げる機会を永久に逸するようになります。そうすると、あの時あれ程堅く約束した言葉がまるで嘘うそになります。私はやむを得ず、口でいうべきところを、筆で申し上げる事にしました」
 私は其所まで読んで、始めてこの長いものが何のために書かれたのか、その理由を明らかに知る事ができた。私の衣食の口、そんなものに就いて先生が手紙を寄こす気遣はないと、私は初手から信じていた。しかし筆を執ることの嫌いな先生が、どうしてあの事件をこう長く書いて、私に見せる気になったのだろう。先生は何故私の上京するまで待っていられないだろう。
「自由が来たから話す。しかしその自由はまた永久に失われなければならない」
 私は心のうちでこう繰り返しながら、その意味を知るに苦しんだ。私は突然不安に襲われた。私はつづいて後を読もうとした。その時病室の方から、私を呼ぶ大きな兄の声が聞こえた。私は又驚ろいて立ち上った。廊下を馳け抜けるようにしてみんなの居る方へ行った。私は愈父の上に最後の瞬間が来たのだと覚悟した。

163-164p

先生がなぜ遺書を書いたのか、なぜ自殺したのか、そのきっかけが気になる所。父の様態も気にしないといけないからおちおち手紙を読んでられない「私」。しかしその手紙が遺書だと気付くと急いで電車に乗る「私」。父より先生に思い入れが強いことに気付かされました。

「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とくに死んでいるでしょう」

166p

有名な台詞。何かで、『こころ』が元ネタ、と読んだことがあるので、原典を見れて良かったです。

「下 先生と遺書」から

実をいうと、私はこの自分をどうすれば好いのかと思い煩らっていたところなのです。このまま人間の中に取り残されたミイラのように存在して行こうか、それとも……その時分の私は「それとも」という言葉を心のうちで繰り返すたびにぞっとしました。馳足で絶壁の端まで来て、急に底の見えない谷を覗き込んだ人のように。私は卑怯でした。そうして多くの卑怯な人と同じ程度に於て煩悶したのです。遺憾ながら、その時の私には、あなたというものが殆んど存在していなかったと云っても誇張ではありません。

168-169p

「ミイラのように」というのが面白い表現。「私」のことを忘れるほど、考えられなくなるほど、何かについて考えていた先生。

私の脳髄よりも、私の過去が私を圧迫する結果こんな矛盾な人間に私を変化させるのかも知れません。

170p

余程過去にとらわれています。非常に気持ちが分かります。

その上私は書きたいのです。義務は別として私の過去を書きたいのです。私の過去は私だけの経験だから、私だけの所有といっても差支ないでしょう。それを人に与えないで死ぬのは、惜しいとも云われるでしょう。私にも多少そんな心持があります。ただし受け入れる事の出来ない人に与える位なら、私はむしろ私の経験を私の生命《いのち》と共に葬った方が好いと思います。実際ここに貴方という一人の男が存在していないならば、私の過去はついに私の過去で、間接にも他人の知識にはならないで済んだでしょう。私は何千万といる日本人のうちで、ただ貴方だけに、私の過去を物語りたいのです。あなたは真面目だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいと云ったから。

172p

「私」のことを信頼してのこと。信頼できる相手が見つかってよかったですね。にしてもかなり強い「私」へのメッセージ。

始終接触して親しくなり過ぎた男女の間には、恋に必要な刺戟の起る清新な感じが失われてしまうように考えています。香をかぎ得うるのは、香を焚き出した瞬間に限る如く、酒を味わうのは、酒を飲み始めた刹那にある如く、恋の衝動にもこういう際どい一点が、時間の上に存在しているとしか思われないのです。一度平気でそこを通り抜けたら、馴れれば馴れるほど、親しみが増すだけで、恋の神経はだんだん麻痺して来るだけです。

184p

男女の関係に関してはよく言われることだけども、そこにお香と酒を並列させるのは面白いですね。ぜひいつか使ってみたい言葉。そして漱石の時代から恋愛に関しては、今と同じように考えられていたのでしょう。そしてその共通する真理を漱石は見抜いていた。現代の僕らが真理だと思っているのは、先人らが見つけてくれたものかも知れないです。

私は急に交際の区域が殖えたように感じました。それがために大切な勉強の時間を潰される事も何度となくありました。不思議にも、その妨害が私には一向邪魔にならなかったのです。

203p

好きな相手への題度に共感できます。先生も一人の人間なんだな、と思いました。

御嬢さんは、其所へ来て一寸留まります。それからきっと私の名を呼んで、「御勉強?」と聞きます。私は大抵むずかしい書物を机の前に開けて、それを見詰めていましたから、傍で見たらさぞ勉強家のように見えたのでしょう。然し実際を云うと、それ程熱心に書物を研究してはいなかったのです。頁の上に眼は着けていながら、御嬢さんの呼びに来るのを待っている位なものでした。待っていて来ないと、仕方がないから私の方で立ち上がるのです。そうして向うの室の前へ行って、此方《こっち》から「御勉強ですか」と聞くのです。

203-204p

めっちゃわかります。

何でそんな妙な事をするかその意味が私には呑み込めなかったのです。理由《わけ》を考え出そうとしても、考え出せない私は、罪を女という一字に塗《なす》り付けて我慢した事もありました。必竟女だからああなのだ、女というものはどうせ愚なものだ。私の考えは行き詰まれば何時でも此所へ落ちて来ました。
 それほど女を見縊《みくび》っていた私が、またどうしても御嬢さんを見縊る事が出来なかったのです。私の理屈はその人の前に全く用を為さない程動きませんでした。私はその人に対して、殆んど信仰に近い愛を有っていたのです。私が宗教だけに用いるこの言葉を、若い女に応用するのを見て、貴方は変に思うかも知れませんが、私は今でも固く信じているのです。本当の愛は宗教心とそう違ったものでないという事を固く信じているのです。私は御嬢さんの顔を見るたびに、自分が美しくなるような心持がしました。お嬢さんの事を考えると、気高い気分がすぐ自分に乗り移って来るように思いました。もし愛という不可思議なものに両端があって、その高い端には神聖な感じが働いて、低い端には性慾が動いているとすれば、私の愛はたしかにその高い極点を捕《つら》まえたものです。私はもとより人間として肉を離れる事のできない身体でした。けれども御嬢さんを見る私の眼や、御嬢さんを考える私の心は、全く肉の臭を帯びていませんでした。

206p

超共感。愛は信仰に似ている、というのは何に対する愛にも似ているように思えます。
この言葉に触発されたので、以下から自分語りを始めます。嫌な人は以下の目次から「自分語り終わり」まで飛んでください。


自分語り

僕は「愛は信仰に似ている」と考えています。それが『こころ』にも似た表現があり、一気に親近感が湧きました。

なぜこの考えを抱くようになったのか、それは好きだった人に言われたことがあるから、です(好きな人に言われる前から気付いてはいたのですが、対象である人に言われてから確信になりました)。

好きな人に告白した際、どこが好きなのかを聞かれたので、全部と答えました。そしてなぜ全部が好きなのかを、その考えに至った過程を話しました。どん底まで落ち込んでた際に優しい言葉をかけてもらって救われたこと。それ以降僕の存在意義を確かめられたこと。もう一度この人生をやり直すのだとしても、もう一度出会いたいと思える相手であること。それほど貴方を想っているんだ、と話しました。

するとその人は「宗教みたいだね」と笑いました。僕はもともとそうだと考えていましたが、相手の一言で確信しました。愛は信仰に似ている、と。生死を救ってもらう相手に何かしら大きな感情を抱く。それが「愛」と呼ばれるか「信仰」と呼ばれるかの違いでしょう。

そう考えていたらなんだか『こころ』内でのその台詞は、背景が違う気もしますが、まぁ一緒だと考えて良いでしょう。

なんだかんだで、愛は信仰だと思います。もし好きだった人が宗教を開いていたら僕は真っ先に入信したでしょう。それくらい思いは強いのです。

結局その相手にはフラれましたが、なんやかんや良い思い出になっていると思います(そう思おうともしています)。そしてあれだけ強かった思いはかなり薄れてしまいました。フラれたのだからむしろそうならないと相手の迷惑になりかねないですしね。

自分語り終わり

気を取り直して引用再開です。

すると奥さんは又理窟の方向を更えます。そんな人を連れて来るのは、私の為に悪いから止せと云い直します。何故私のために悪いかと聞くと、今度は向うで苦笑するのです。

231p

奥さんはKと私が御嬢さんを取り合うことになるのを見越していたのではなかろうか。

奥さんは果たして留守でした。下女も奥さんと一所に出たのでした。だから家に残っているのは、Kと御嬢さんだけだったのです。私は一寸首を傾けました。今まで長い間世話になっていたけれども、奥さんが御嬢さんと私だけを置き去りにして、宅を空けた例《ためし》はまだなかったのですから。私は何か急用でも出来たのかと御嬢さんに聞き返しました。御嬢さんはただ笑っているのです。私はこんな時に笑う女が嫌《きらい》でした。若い女に共通な点だと云えばそれまでかも知れませんが、御嬢さんも下らない事に能く笑いたがる女でした。然し御嬢さんは私の顔色を見て、すぐ不断の表情に帰りました。急用ではないが、一寸用があって出たのだと真面目に答えました。下宿人の私にはそれ以上問い詰める権利はありません。私は沈黙しました。

240-241p

用事があったとはいえ、Kと御嬢さんが二人きりでいる事に不信感を抱く先生。そして御嬢さんのことも悪く見えてしまう先生。奥さんの言う通りではないでしょうか。

御嬢さんの態度になると、知ってわざと遣るのか、知らないで無邪気に遣るのか、そこの区別が一寸判然しない点がありました。若い女として御嬢さんは思慮に富んだ方でしたけれども、その若い女に共通な私の嫌なところも、あると思えば思えなくもなかったのです。そうしてその嫌なところは、Kが宅へ来てから、始めて私の眼に着き出したのです。私はそれをKに対する私の嫉妬に帰して可いものか、又は私に対する御嬢さんの技巧と見傚して然るべきものか、一寸分別に迷いました。私は今でも決してその時の私の嫉妬心を打ち消す気はありません。私はたびたび繰り返した通り、愛の裏面《りめん》にこの感情の働きを明らかに意識していたのですから。

262p

御嬢さんの嫌な所が目に付くのは、Kへの嫉妬か御嬢さんがわざとやっているのか、という話。先生は前者だとも考えています。
僕も前者なのかな、とも思います。先生の気持もわかりますし。御嬢さんへの好意を否定するために悪い点が見えてしまうのではないでしょうか。

此方でいくら思っても、向うが内心他の人に愛の眼を注いでいるならば、私はそんな女と一所になるのは厭なのです。世の中では否応なしに自分の好いた女を嫁に貰らって嬉しがっている人もありますが、それは私たちより余っ程世間ずれのした男か、さもなければ愛の心理がよく呑み込めない鈍物のする事と、当時の私は考えていたのです。

263p

この気持ちもわかります。相手の気持ちも重要ですよね。

私はとうとう何故今日に限ってそんな事ばかり云うのかと彼に尋ねました。その時彼は突然黙りました。然し私は彼の結んだ口元の肉が顫《ふる》えるように動いているのを注視しました。彼は元来無口な男でした。平生から何か云おうとすると、云う前に能く口のあたりをもぐもぐさせる癖がありました。彼の唇がわざと彼の意志に反抗するように容易く開かないところに、彼の言葉の重みも籠もっていたのでしょう。一旦声が口を破って出るとなると、その声には普通の人よりも倍の強い力がありました。
 彼の口元を一寸眺めた時、私はまた何か出て来るなとすぐ疳付《かんづ》いたのですが、それが果たして何の準備なのか、私の予覚はまるでなかったのです。だから驚ろいたのです。彼の重々しい口から、彼のお嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられた時の私を想像して見て下さい。私は彼の魔法棒のために一度に化石されたようなものです。口をもぐもぐさせる働さえ、私にはなくなってしまったのです。
 その時の私は恐ろしさの塊りと云いましょうか、又は苦しさの塊りと云いましょうか、何しろ一つの塊りでした。石か鉄のように頭から足の先までが急に固くなったのです。呼吸をする弾力性さえ失われた位に堅くなったのです。幸いな事にその状態は長く続きませんでした。私は一瞬間の後に、また人間らしい気分を取り戻しました。そうして、すぐ失策《しま》ったと思いました。先《せん》を越されたなと思いました。

267-268p

Kによる御嬢さんへの気持の告白。重たい言葉が口から出てこない様子を表現した良い箇所。そして先生の固まり具合も伝わってくる。先を越された、と思うのは冷静に考えられている証拠。

二人は各自《めいめい》の室に引き取ったぎり顔を合わせませんでした。

270p

高校時代、隣の席の子が「ぎり顔」と区切って読んでいたことが記憶に残っています。すごく面白かったので、ここは印象的な箇所です。

彼はただ苦しいと云っただけでした。実際彼の表情には苦しそうなところがありありと見えていました。もし相手が御嬢さんでなかったならば、私はどんなに彼に都合の好い返事を、その渇き切った顔の上に慈雨の如く注いで遣ったか分りません。私はその位の美しい同情を有って生れて来た人間と自分ながら信じています。然しその時の私は違っていました。

281p

Kの恋愛への付き合い方を見る私。恋愛は人の汚い部分も映してしまうよな、と共感してしまう箇所。

私は丁度他流試合でもする人のようにKを注意して見ていたのです。私は、私の眼、私の心、私の身体、すべて私という名の付くものを五分の隙間もないように用意して、Kに向ったのです。罪のないKは穴だらけというより寧ろ明け放しと評するのが適当な位に無用心でした。私は彼自身の手から、彼の保管している要塞の地図を受取って、彼の眼の前でゆっくりそれを眺ながめる事が出来たも同じでした。

281p

この文章は高校時代から気になっていて、この文章を読み直すために『こころ』を読んでいるといっても過言ではないほどです。Kは非常に正直で嘘の付けない人物なのでしょう。

私は先ず「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と云い放ちました。これは二人で房州を旅行している際、Kが私に向って使った言葉です。私は彼の使った通りを、彼と同じような口調で、再び彼に投げ返したのです。然し決して復讐ではありません。私は復讐以上に残酷な意味を有っていたという事を自白します。私はその一言でKの前に横たわる恋の行手を塞ごうとしたのです。
(中略)
道のためには凡《すべ》てを犠牲にすべきものだというのが彼の第一信条なのですから、摂欲や禁欲は無論、たとい慾を離れた恋そのものでも道の妨害《さまたげ》になるのです。Kが自活生活をしている時分に、私はよく彼から彼の主張を聞かされたのでした。その頃から御嬢さんを思っていた私は、勢いどうしても彼に反対しなければならなかったのです。私が反対すると、彼は何時でも気の毒そうな顔をしました。其所には同情よりも侮蔑の方が余計に現われていました。
 こういう過去を二人の間に通り抜けて来ているのですから、精神的に向上心のないものは馬鹿だという言葉は、Kに取って痛いに違いなかったのです。然し前にも云った通り、私はこの一言で、彼が折角積み上げた過去を蹴散らした積りではありません。却ってそれを今まで通り積み重ねて行かせようとしたのです。それが道に達しようが、天に届こうが、私は構いません。私はただKが急に生活の方向を転換して、私の利害と衝突するのを恐れたのです。要するに私の言葉は単なる利己心の発現でした。
「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」
 私は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見詰めていました。
「馬鹿だ」とやがてKが答えました。「僕は馬鹿だ」
 Kはぴたりと其所へ立ち留ったまま動きません。彼は地面の上を見詰めています。私は思わずぎょっとしました。私にはKがその刹那に居直り強盗の如く感ぜられたのです。然しそれにしては彼の声が如何にも力に乏しいという事に気が付きました。私は彼の眼遣《めづかい》を参考にしたかったのですが、彼は最後まで私の顔を見ないのです。そうして、徐々《そろそろ》と又歩き出しました。

282-284p

過去に自分が侮蔑してきた恋愛に自分が染まってしまっていることき気付いたK。そして先生は「利己心の発現」から例の言葉をKに向けます。そしてKが何かを決心したであろう面白い場面。

私はただKが御嬢さんに対して進んで行くという意味にその言葉を解釈しました。果断に富んだ彼の性格が、恋の方面に発揮されるのが即ち彼の覚悟だろうと一図に思い込んでしまったのです。
 私は私にも最後の決断が必要だという声を心の耳で聞きました。私はすぐその声に応じて勇気を振り起しました。私はKより先に、しかもKの知らない間に、事を運ばなくてはならないと覚悟を極《き》めました。

290-291p

Kの言った覚悟を先生が取り違えてしまった場面。そして先生はKと同じように「覚悟」を決めます。「覚悟」の意味が違うことに読者しかわからない点が面白いです。

私はその刹那に、彼の前に手を突いて、詫まりたくなったのです。しかも私の受けたその時の衝動は決して弱いものではなかったのです。もしKと私がたった二人曠野《こうや》の真中にでも立っていたならば、私はきっと良心の命令に従って、その場で彼に謝罪したろうと思います。

296-297p

先生の弱い心がはっきりと描かれている場面。

然しKに説明を与えるために、私のいる前で、それを悉く話されては堪らないと考えました。奥さんはまたその位の事を平気でする女なのですから、私はひやひやしたのです。幸にKは又元の沈黙に帰りました。平生より多少機嫌のよかった奥さんも、とうとう私の恐れを抱いている点までは話を進めずにしまいました。私はほっと一息して室へ帰りました。

297-298p

このドキドキは非常にわかります。生きた心地がしないような感覚。

『道理で妾《わたし》が話したら変な顔をしていましたよ。貴方もよくないじゃありませんか。平生あんなに親しくしている間柄だのに、黙って知らん顔をしているのは』
 私はKがその時何か云いはしなかったかと奥さんに聞きました。奥さんは別段何にも云わないと答えました。しかし私は進んでもっと細かい事を尋ねずにはいられませんでした。奥さんは固より何も隠す訳がありません。大した話もないがと云いながら、一々Kの様子を語って聞かせてくれました。
 奥さんの云うところを綜合して考えてみると、Kはこの最後の打撃を、最も落付いた驚をもって迎えたらしいのです。Kは御嬢さんと私との間に結ばれた新しい関係に就いて、最初はそうですかとただ一口云っただけだったそうです。しかし奥さんが、『あなたも喜こんで下さい』と述べた時、彼ははじめて奥さんの顔を見て微笑を洩らしながら、『御目出とう御座います』と云ったまま席を立ったそうです。そうして茶の間の障子を開ける前に、また奥さんを振り返って、『結婚は何時ですか』と聞いたそうです。それから「何か御祝いを上げたいが、私は金がないから上げる事が出来ません』と云ったそうです。奥さんの前に坐っていた私は、その話を聞いて胸が塞るような苦しさを覚えました。

300-301p

奥さんの悪気ない行動が先生やKを苦しめてしまった。Kは覚悟を決めたからなのか、すごく精神が大人だと思いました。

私の眼は彼の室の中を一目見るや否や、あたかも硝子で作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立に立竦みました。それが疾風の如く私を通過したあとで、私は又ああ失策《しま》ったと思いました。もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫ぬいて、一瞬間に私の前に横わる全生涯を物凄く照らしました。そうして私はがたがた顫《ふる》え出したのです。

302-303p

Kが死体になっている様子を見た先生。人生を光に例えるのはこの時期からあったのだな、と感じます。BUMPの『ray』を思い出しました。

然し私の尤も痛切に感じたのは、最後に墨の余りで書き添えたらしく見える、もっと早く死ぬべきだのに何故今まで生きていたのだろうという意味の文句でした。

304p

ここは記憶になかった箇所です。なぜKはそのようなことを書いたのでしょうか。恐らく恋愛感情を抱いた時点で自身の理想像とはかけ離れてしまったからではないでしょうか。

『奥さん、Kは自殺しました』と私がまた云いました。奥さんはそこに居竦まったように、私の顔を見て黙っていました。その時私は突然奥さんの前へ手を突いて頭を下げました。「済みません。私が悪かったのです。あなたにも御嬢さんにも済まない事になりました」と詫まりました。私は奥さんと向い合うまで、そんな言葉を口にする気はまるでなかったのです。然し奥さんの顔を見た時不意に我とも知らずそう云ってしまったのです。Kに詫まる事のできない私は、こうして奥さんと御嬢さんに詫びなければいられなくなったのだと思って下さい。

306p

謝ることが出来た先生。

その時漸やく悲しい気分に誘われる事ができたのです。私の胸はその悲しさのために、どの位寛ろいだか知れません。苦痛と恐怖でぐいと握り締められた私の心に、一滴の潤を与えてくれたものは、その時の悲しさでした。

308p

まさか悲しみが一種の癒しになるなんて。

奥さんも御嬢さんも如何にも幸福らしく見えました。私も幸福だったのです。けれども私の幸福には黒い影が随《つ》いていました。私はこの幸福が最後に私を悲しい運命に連れて行く導火線ではなかろうかと思いました。

311p

良い表現ですね。実際その導火線という見方は間違っていなかったように思われます。

私はその新しい墓と、新しい私の妻と、それから地面の下に埋《うず》められたKの新しい白骨とを思い比べて、運命の冷罵を感ぜずにはいられなかったのです。私はそれ以後決して妻と一所にKの墓参りをしない事にしました。

312p

先生が一人で墓参りをする理由です。

私は妻と顔を合せているうちに、卒然Kに脅かされるのです。つまり妻が中間に立って、Kと私を何処までも結び付けて離さないようにするのです。妻の何処にも不足を感じない私は、ただこの一点に於いて彼女を遠ざけたがりました。
(中略)
私は一層思い切って、有のままを妻に打ち明けようとした事が何度もあります。しかしいざという間際になると自分以外のある力が不意に来て私を抑え付けるのです。私を理解してくれる貴方の事だから、説明する必要もあるまいと思いますが、話すべき筋だから話しておきます。その時分の私は妻に対して己を飾る気はまるでなかったのです。もし私が亡友に対すると同じような善良な心で、妻の前に懺悔の言葉を並べたなら、妻は嬉し涙をこぼしても私の罪を許してくれたに違いないのです。それをあえてしない私に利害の打算がある筈はありません。私はただ妻の記憶に暗黒な一点を印《いん》するに忍びなかったから打ち明けなかったのです。純白なものに一雫の印気《インキ》でも容赦なく振り掛けるのは、私にとって大変な苦痛だったのだと解釈して下さい。

313-314p

余程御嬢さんの記憶を汚したくない模様。確かに自分が間に入ってしまった結果……とは考えたくないですね。

私は妻から何の為に勉強するのかという質問を度々受けました。私はただ苦笑していました。然し腹の底では、世の中で自分が最も信愛しているたった一人の人間すら、自分を理解していないのかと思うと、悲しかったのです。理解させる手段があるのに、理解させる勇気が出せないのだと思うと益《ますます》悲しかったのです。私は寂寞でした。何処からも切り離されて世の中にたった一人住んでいるような気のした事も能くありました。

317p

「世の中で自分が最も信愛しているたった一人の人間すら、自分を理解していないのかと思うと、悲しかったのです」という表現が面白いです。しかもなんと自分勝手な、とも思います。「人間らしい」先生の様子。

私は仕舞にKが私のようにたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に所決したのではなかろうかと疑い出しました。そうして又慄《ぞっ》としたのです。私もKの歩いた路を、Kと同じように辿っているのだという予覚が、折々風のように私の胸を横過《よこぎ》り始めたからです。

318p

孤独を言うのは人を死へと向かわせるものなのかな、と感じました。

 私は私の過去を善悪ともに他の参考に供するつもりです。しかし妻だけはたった一人の例外だと承知して下さい。私は妻には何にも知らせたくないのです。妻が己の過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存しておいてやりたいのが私の唯一の希望なのですから、私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、凡てを腹の中にしまっておいて下さい」

327p

”」”すら悲しく感じます。Kの自殺の真相や先生が厭世的になった理由を知らせないのは、妻への思いやりなのか、自身への自己愛のためなのか。

総じて感想

面白い漢字使いが多かったです。

こんな暗い気持ちになるとは思いませんでした。結末は知っていますが、全てを通して読むと重たさも変わってきます。

愛と宗教のくだりを知る事が出来たので、この本を読んだ甲斐がありました。次は『吾輩は猫である』を読みます。

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