はれすぎやろ
11時に歯医者に着く。
今日は右下の親知らずを抜いてもらう。
11月の右上の親知らず以来2つめの抜歯だ。
不安はあまりない。
右上の親知らずは10分くらいで抜歯したので今日もそうなるだろう。
名前が呼ばれ、悠々と歩く。
「ちくっとしますよ」と言われ少しの痛みと共に麻酔をうたれるが、思い浮かぶ暴力的行為のどれよりも痛みはないと考えると余裕がでる。
「麻酔効いてきた感じありますか?」と先生に言われるが、麻酔が効いたデフォルトを知らないので
(これが麻酔が効いている状態かわからねぇよ)と思いながら「はい」と返事をする。
右下の親知らずは舌の方に曲がっており、また神経との距離の話もされ少しのリスクがあることを説明される。
後ろで先生方が準備をしている会話が聞こえる。
「メスを…」と
え?リスク?メス?親知らずで?
心臓の鼓動が聞こえる。
こんなに音大きかったっけ?
肋骨を破る勢いだ。
施術が始まる。
まだ「簡単に抜ける」という思いに縋り付く。
だが全然抜けない。
目隠しをされながらも先生が色々な角度から抜こうと頑張っているのがわかる。
私はどうしたらいいのだろうか?
体を脱糞時のように強張らせ歯を歯茎から絞り出す方がいいのか、体の力を抜き歯までも脱力させた方がいいのか。
そう考えている間も先生方は頑張っている。
そんな中、右頬を引っ張る力が強すぎて耳まで裂けるのではないか?と思ったり「ダンサーインザダーク」を観たので周りの音の重なりに少し楽しくなったりした。
あまりの抜けなさに笑いが込み上げる。
もう生まれてきてからずっと口の中に先生の指や抜歯器具があったかの様に感じてくる。
このまま生活がなされてきたと思うようになり、ゴム越しに伝わる先生の指の暖かさや抜歯器具の冷たさを覚える。
終わって時計を見ると12時になっていた。
貰った歯はやはり根元付近が曲がっていた。
帰りにご褒美として常温水とピュレグミぶどう味を買う。
数時間は何も食べない方がいいらしいので初めてピュレグミを眺めるという時間があることに気づく。
親知らず抜歯はその瞬間だけでなく、数日間続く拷問なんだな。
家に帰る途中いきなり少し口が動かせる様になり、麻酔が切れてきたのではと怖くなる。
道の途中で痛み止めをすぐさま常温水で流す様を通りすがりの人に見せつける。
家に帰り、ふと親知らず抜いた人々の動画を見始める。
それはこれから自分が体験する痛みや不自由を映していた。
左は絶対やらん!!