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母と行った最初で最後の東京

ブレッド&バター「今日の出来事」エンディング曲

#思い出の曲 #ブレッド&バター #亡き母

母は、私が18歳のときに、腎臓がんで亡くなった。
突然のことだった。
咳が止まらないという症状から原因不明と病院を転々とし、
今では考えられないが、ようやく腎臓に癌が見つかったときには
既に手遅れだった。
母が居なくなってから、すでに30年以上たつが、
今でも母の思い出は鮮明だ。
そんな思い出の中で、
母の楽しそうな笑い顔が最も思い浮かぶのが,
ブレッド&バターの「TONIGHT 愛して」という曲である。

タイトルで、メロディがすぐ浮かんできた人は
50代後半以降の年代だろう。
1980代の日本テレビのニュース番組「今日の出来事」のエンディングで
櫻井よしこや小林完悟などが一日を締めくくる言葉とともに、
バックで流れていた。
その時の東京の夜景のキラキラした映像が、
福井から出たことのなかった17歳の私にとっては、
大都会東京そのものの風景だった。
そんな折、出来の良い兄が、東京の国立大学に進学することになり、
母は飛び上がって喜んだ。
アパートの下見や家具を買いそろえるのに、うきうき浮かれていたこと、
そうはいっても、いざ上京する前日は、
しくしく泣いて兄の手を握っていたことも、鮮明に覚えている。
私が夏休みに入り、兄の様子を一緒に見に行こうと、
母と私の2人で2泊3日で東京に行くことになった。
芸能人に会えるかも、という田舎者まるだしの思い込みと
スカウトマンとすれ違うかも、という完全にずれた期待を抱えて
当時、できる限りのおしゃれをして、母と新幹線に乗った。
途中で食べた鱒寿司も、向かい合わせに座っていたお兄さんが
頬張る私たちを見て、目をそむけたこともよく覚えている。

東京に着き、すべてのものがキラキラして見えたその日、
兄の下宿はとても貧相だった。
世田谷の一等地にあったその下宿は、
某大女優の自宅の横にあり、立地は最高だったが
とにかく貧相だった。
実家の6畳の私の部屋より狭く、
日当たりもない暗い部屋で、
私と母、兄は3人で寝た。でも、私たちは浮かれていた。
近くのケーキ屋さんに立ち寄り、狭い兄の部屋で3人で食べた。
3日目はさすがの兄もうっとうしがり、どんどん無口にはなっていたが。

最終日、福井に戻るため、
帰りの新幹線の席に座った母は
行きとは別人のように静かだった。
夢のような3日間を過ごし、
母の本当に幸せそうな顔をずっと間近で見ていられた。
新幹線の窓から見えた東京の夜景は
あの「今日の出来事」で視た夜景そのものだった。

母は、その2年後に亡くなったが、
ブレッド&バターの曲を聴くたびに
あのときの母の顔が浮かんでくる。



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