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第3話 父と入れ歯

私は実家にあがり
用事を早く済ませようと
入れ歯を探し始めた

父からのLINEでは
いつまであったのかが
分からない、とのこと

父が探したと言う
明日出す予定のゴミ袋をもう一度
玄関に新聞を広げて
全部ひっくり返して
一つ一つ丁寧に確認

もちろん
潔癖症だけは忘れていない母が
「何をしているのか?」
と、ソワソワ落ち着かない様子で
聞いてきた

「ばあば(私の母のこと)の入れ歯だよ」
「入れ歯ってなに?」

こんなやり取りをしながら
さっさと手を動かす

出てくるゴミの9割が
キッチンペーパーであることに驚く

父が言うには
母は気がつけば
せっせとキッチンペーパーで
拭き掃除をしているのだという

父は母の潔癖症に呆れはするものの
私たち子どもと一緒に玄関で
待ち続ける人である
母に対して
あまり反抗しない人だったと
記憶している

しかし
母が認知症になってから
父は少しだけ
母より優位に立つようになった
そんな気がする

そんな父の性格も
最近になって
ようやく私も分かる?ようになった

この日のことも
LINEにはこう書かれていた

「お早う、朝からごめん、
今日何か用事がありますか?
無ければお願いがあります、

和子の入れ歯が無く
探してみると上の歯は
ゴミ袋から出て来たのですが
下の歯がわかりません、
私が今から仕事に
行かなきゃいけなので
お願い出来無いかと思って、
無理は承知でラインしました」

2分後。

「ごめん、
出て来たのは下の歯でした
わかりづらい!」

さらに2分後。

「又又ごめん、再度羽目させたら
上の歯でした、探すのは下の歯です、
ごめん」



えーーーっと
どっちでも良いかな
ほんとに(笑)

小さな棚から
納戸
冷蔵庫
テーブル
椅子の下
炊飯器の中
テレビの裏側
トイレ
天袋
脱衣所

思いつく限り探したけれど
出てこない入れ歯…

そして浴室を見た時に絶句する…

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