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映画『アイアム・ア・コメディアン』が鮮烈。お笑いの概念が変わるかも。

「コメディアン」のすごみ

『アイアム・ア・コメディアン』という映画に心打たれた。衝撃のあまり、劇場に2回も足を運んでしまったほどだ。

お笑いコンビ・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんを3年間密着したドキュメンタリー映画。「コアなお笑いファンや村本さんのファンのための映画なのでは?」と思っていたが、そんな単純な映画ではなかった。

日本独特のお笑い文化に疑問を覚え、怒りや物足りなさと葛藤し、世界に飛び出した村本さんの「すごみ」に触れることができる。

劇場やお茶の間を笑いで湧かせる威力は突出している。しかし、日本のテレビからは突然「抜けて」しまった。その理由についても納得と共感が得られた。

コロナ禍のフジロックで叫んでいた村本さん

数年前、私はコロナ禍にフジロックに足を運んだ。出発前日になって一緒にいく友人に「コロナが怖いからやっぱり行かない」と言われたが、どうしても行きたかったので必死で説得して向かった。現地は、東京の密とは比較にならないぐらい安全な環境だった。

フェスの合間の休憩時間、トークやお笑いを披露するステージで、私は村本さんがネタをしているのを見かけた。全身黒のスーツ、早口で熱いトークを繰り広げていたが、観客はまばらだった。ご高齢のおじいさんが、嬉しそうに熱心に耳を傾けているのが印象的だった。

当時、私は村本さんに対して世間と同じ印象を抱いていた。

「 どうして、政治や社会課題にまつわるネタを独りでするようになったんだろう?」「もう、相方と漫才はしないのだろうか?」

「TVから消えてしまった変わり者」。その場にいた多くの人が、同じような視線を村本さんに送っていたのではないだろうか。彼にとっても、決して居心地いい場所ではなかったと思う。

「スタンダップコメディ」の昇華する力

映画に刺激を受けて「スタンダップコメディ」がどうしても見たくなり、一時帰国している村本さんが出演するショーに足を運んだ。

私は、新宿や神保町にあるお笑い劇場に時々足を運ぶ程度のゆるいお笑いファンではあるが、スタンダップコメディは人生初で、とても新鮮な感覚だった。これまでと違うツボを刺激してくれる笑いだったからだ。

多くの人は、モヤモヤとしたストレスを抱え、我慢しながら、それでも人に迷惑をかけないように、法を犯さないように社会生活を送っている。スタンダップコメディには、大衆の鬱屈をカラッと笑いに変えてくれる力があった。

新宿や神保町のお笑いでは昇華できないウィットがある。村本さんが、日本のお笑いに物足りなさを覚え、スタンダップコメディに虜になった理由がよくわかった。

それを習得しに行ける才能があり、「自分らしくいられる場所」をようやく手に入れたのかもしれない。フジロックで見かけた村本さんよりも、生き生きしていて「なんかすごくカッコイイ!」と感じた。

世界一スゴイ仕事は、コメディアンだ

この映画で、救われた人、自分も頑張ってみようと鼓舞された人は多いのではないだろうか。個人的には、村本さんとお父さんが会食で語り合い、だんだんと険悪になってしまう場面が印象的だった。

そこで村本さんは「TVに出るタレントじゃなくてコメディアンになりたい。コメディアンが世界で一番すごい仕事だと思っているから」と主張するのである。

「なぜ、親なのに認めてくれないのか、わかってくれないのか」という感情を増幅させて衝突してしまうことは私にもある。

しかし、第三者の立場で親子の会話を眺めると、お父さんは「息子のことを十分に認めているけれど、うまく伝えられない」だけなんだなと伝わってくる。2人が、愛し合っているのに衝突してしまうのが人間臭くて素敵だった。

まさかのタイミングで私の「推し」になってくれた村本さんには、頑張って欲しいなと思う。何よりも健康でいて欲しい。

そして、ウィットに富んだ笑いを世界の人に届けて欲しい。数年後、きっともっとすごい人になっているはずだ。



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