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オリジナル作品「恋と窓と花瓶」


初めに

小説風の脚本を目指した作品です。
朗読劇と小説の部分を持つナレーターと、舞台表現の面を持つ女性の二人劇(台詞は1人)です。
脚本の体で書かれていますので、慣れていない方には少し読みにくく感じるかもしれません。
台詞の文章は○○(発言者)「○○(台詞)」になっており、ト書きの文章は「」がありません。
それではいきましょう。

本編「恋と窓と花瓶」

初恋

明転。電車内。一人分の椅子があり、女の子が大人しく座り、窓の外を見てる
外には様々な風景が見える

ナレ「女の子が一人、電車に揺られています。人は皆、生まれてからずっと電車に乗っています。人生を歩むとはそういうものでしょう」

電車が走っていく。電車は単線。対向は来ない。
女の子が見ている先で、どんどん風景が流れていく

ナレ「女の子は窓を見ています。窓の外には綺麗な物と汚い物と興味のない物が流れていきます。その一つ一つはしっかりと目に映り、心に残り、消えていきます」

電車は変わらず走っていく。窓に映る風景に関わることもなく。

ナレ「女の子は成長していきます。より美しく、より麗しく。誰かに巡り合うために。」

がたんごとん。電車が走っていく

ナレ「女の子は成長していきます。親の手が届かないぐらいに、自分の足を信じ始めるのです」

電車が止まる。建物の中に入る

ナレ「電車が止まりました。ここは駅です。降りる事は出来ませんが、やはり重要な物として駅は存在します。人生とは、時たま挟まる分岐的な駅と大部分の日常的走行の積み重ねなのです」

窓の外には一輪のオレンジ色の花が飾られている
それを見る女の子、ふいに、自分の胸に手を当てる

ナレ「気付きは唐突にもたらされます。得体のしれない心が女の子の胸に芽生えます」

女の子、席を立って、上手の方に歩いていき、はける
そして花瓶を持って戻ってくる

ナレ「花瓶を手に取りました」

女の子、窓に近づき、開ける
 
ナレ「花に手を伸ばします」

止まる

ナレ「戸惑い、不安、心配、恐怖。そんな中で勇敢に手を伸ばします」

女の子、花にさわる

ナレ「花に触れました」

女の子、花を取り損ねてしまう
駅と電車の間に花が落ちていく

ナレ「残念ながらその花は落ちていきます。二度と手が届かない所に行ってしまいました」

女の子、名残り惜しそうに花の落ちた先を見つめる

ナレ「花の落ちていく様子をじっと見つめます。まだ、まだ・・・・・・」

発車の合図が鳴る
女の子は窓を閉めて、自分の席に着く
発車
オレンジ色のお花畑を通過する
駅の方向を見ながら、電車に揺られていく
前を向く
いつの間にかオレンジ色のお花畑を抜ける

ナレ「電車はひとつの線路を、ひたすら走っていきます。ただひたすら走っていきます」

暗転
大部分の日常的な電車の走行音と、非日常的なブレーキ音が続いていく

二度目の恋

明転、変わらず女の子が電車に乗っている
電車はいくらかの時が流れた後の様子
女の子は少し大人になっている

ナレ「いくらかの時が経ちました。数多の枕木を超えた先に駅はあります。次の駅はどこになるか。誰も知らずに電車は進みます」

電車が止まる
また建物の中に入る

ナレ「どうやら新たな駅に到着したようです。ここではまた花が飾られています」

女の子が窓を開ける
外には赤い花が一輪、飾られている

ナレ「どんどん惹かれていきます」

女の子、花に手を延ばそうとする。
止まる

ナレ「手が止まってしまいました」


女の子、花に触れることが出来ない

ナレ「一度伴った恐怖は心に強く根を張ります。そうなれば指は花に届きません」

発車の合図
女の子、窓を閉める
発車

ナレ「もう駅には戻れません。あの赤い花は、過去となりました」

女の子、胸に手を当てる
元々座っていた位置へ戻る
目の前にはしばらく赤いお花畑が流れていく
いつの間にか、花畑は終わる

ナレ「電車は進んでいきます。一分ごとに、一秒ごとに、その刹那ごとに」

暗転
大部分の日常的な電車の走行音と、非日常的なブレーキ音が続いて

三度目の恋

明転、電車内。女の子が座っている
女の子はまた少し大人になっている
電車が止まる

ナレ「新しい駅に着いたようです。ここではどんな出会いがあるのでしょうか」

女の子、窓を開ける
目の前には綺麗に飾られた、黄色の花が花粉を飛ばしている

ナレ「今度は花を花瓶に活けられるのでしょうか」

女の子、一度花から離れる

ナレ「おや」

女の子、髪と息を整える

ナレ「どうやら前髪が気に入らなかったようです」

女の子、花に手を伸ばす
一度止まる

ナレ「かつてと同じように、止まってしまいました。しかし、かつてより大人な女の子です」

それでも震えながら手を伸ばす
掴む
自分の胸の方に持ってくる
そのまま、花瓶に大切そうに入れる
慌てて窓を閉じて、窓の近くから離れ、自分の席に座る

ナレ「見事、花を掴むことが出来ました。ずっと掴みたかったものをようやく掴んだのです。ここまで通ってきた線路と駅が実を結んだのです」

女の子、花瓶を掲げて喜ぶ
女の子、愛おしそうに花を眺める
花瓶を撫で、抱きしめる
女の子、先頭の方に行き舞台から出る

ナレ「長く花を活けておくには、無くてはならないものがあります。それは水です。愛情を映す鏡でありながら、愛の証でもある。花が花であるためには必ず水が必要なのです」

女の子、手に水差しを持って、自分の席にもどってくる
女の子、水差しで花瓶の中に水を入れる
たっぷりと入れる
     
女の子、花瓶を掲げて喜ぶ
女の子、愛おしそうに花を眺める
花瓶を撫で、抱きしめる

ナレ「花瓶を掲げ、花を眺め、抱きしめます。離れぬように、離さぬように。ようやく花が入ったのです。あるべき物がここにある事。それは、なによりの物なのでしょう」

発車の合図

ナレ「車輪は一つずつ次の線路を掴んでいきます。女の子は電車に揺られ、花も揺れます」

女の子、花が動かないように自分の手で茎を持つ
時間がどんどん経過する
     
花がしおれていく
女の子は気付かない

ナレ「共に電車に揺れるには、初めて掴んだ花は頼りなかったようです。離さない手は次第に毒になり、花の呼吸は浅くなります」

女の子、前を見ている
花がどんどん枯れていく
花が枯れ落ち、花瓶の中に入る

ナレ「大切な花が落ちました」

女の子、慌てて花を取り出す
もう既に朽ちた後の花がそこにある

ナレ「もう朽ちた花は戻ってきません。そこにあるのは思い出です。面影を持った、ただの枯草です」

電車が止まる
建物の中に入ったようになる

ナレ「もう枯れる前には戻れません」

女の子、枯れた花と花瓶を大事そうに抱えながら窓に近寄る
窓を開ける
しかし、周りに花を戻せるものはない
目の前にはゴミ箱がひとつ

ナレ「助けを求めて窓に近寄ります。が、何もない。何度も、どこを見ても、やはり何もない」

女の子、花瓶と枯れた花を持ちながら椅子に座る
電車は進まない

ナレ「朽ちた花は朽ちぬ思い出と絡みつき決して離れません。その重みでは電車は動かないでしょう」

女の子、ゆっくりと窓際に近づいていく

ナレ「決心がついたようです」

女の子、朽ちた花をゴミ箱に捨てる
発車の合図
女の子、窓を閉めて席につく
女の子、泣く
その涙が花瓶にたまっていく
外には黄色の花畑が流れていく

ナレ「水よりもどこか重い花瓶を持って、電車に揺られます。女の子は遠くを眺め、うつむきがちに花を思い出しています」

電車は進む

ナレ「電車は変わらず動いていきます」

暗転
大部分の日常的な電車の走行音と、非日常的なブレーキ音が続いていく

四度目の恋
明転
電車はまだ走っている
女の子、うつむいたまま水だけの花瓶を持っている
外には黄色の花畑が流れている

ナレ「電車はただひた走ります。空っぽの花瓶には水だけがあり、喪失感が花を求めます。しかし、濁った水です」

電車、停車
建物の中に入る
女の子、驚いたような様子を見せる

ナレ「どうやらまた駅に着いたようです」

しばらく下を向いているが、動き出さない電車に諦めたように窓に進む
窓を開けるが、外に何があるかすら見ようとしない
ただ、自分の手にある花瓶を見つめる
開けた窓から風が吹き込む
花の匂いが女の子に届く
女の子、前を向く
目の前に飾られた、紫色の花に気付く

ナレ「風と匂いが届きました。ようやく」

女の子、少し迷いながらも恐る恐る近づく
花に手を伸ばし、掴む
花瓶に花を入れる
女の子、窓を閉めて席に座る
発車の合図が鳴る
発車
外にはまだ黄色の花畑が流れている

ナレ「花は香り高く、こちらを向いて咲いていますね。とても美しく見えることでしょう」

女の子、花の匂いを楽しんでいる
しばらくした後、花の香りが少なくなり、花がしおれ始める

ナレ「花が咲き続けるには、どうしても水がいります。その花のための水がなくては、花は咲けないのです」

女の子、水差しで少し水を足す
それでも、花は元気にならない
花が枯れかける
電車が止まる
建物の中のよう
女の子、窓を開ける
目の前にはゴミ箱
花瓶から枯れかけた花を取り出して、捨てる
花瓶の中の水も捨てる
窓を閉める
席に戻る

ナレ「これもめぐり合わせ。花瓶に満ちていた水が、また違うものであったら、あの花の行く末も違ったのかもしれません」

発車の合図
発車
大部分の日常的な電車の走行音と、非日常的なブレーキ音が続いていく

五度目の恋(結び)

ナレ「この前の恋からどれほどの時が経ったでしょう。もう長いこと花瓶は空のままです。確かに空のまま、水も入れれません。時が経つ、その間にいくつの花畑を超えたことでしょうか」

女の子、ぼーっと窓を見ている
女の子、何かを見つけたように立ち上がる
先頭の方向に行く。
ブレーキ音
電車が止まる
そこは建物の外
窓の外には飾られていない、生きた青い花

ナレ「駅に着いたようです。あるいは止まりたかっただけかもしれません。そこに花があるなら、それは恋です。空いた花瓶があるのなら、きっと先もあることでしょう」

女の子、花瓶の中に水差しで水を入れる

ナレ「久方ぶりの水です。花瓶の中が潤っていきます。あとは花が入るだけ」

女の子、窓を開ける
女の子、窓の外に身を乗り出して、花を摘む
花を花瓶の中にスッと入れる

ナレ「収まりはよく、瑞々しい花はとても麗しい」

ナレ「花は自然と同じように呼吸を続けます。澄み切った水をとても心地が良いようです」

発車の合図
女の子、花瓶を抱え、ともに外を見る

ナレ「もう茎を掴むこともありません。花瓶と花の隙間は、あるべくしてあるゆとりであり、なくてはならない自由なのです」

しばらくした後、女の子、窓のブラインドを下ろす

ナレ「もう、外に流れる花を見る必要もありません。手元にひとつがあるのですから」

ナレ「電車は一本道を走ります。ただ一本を。今、車輪が通過する線路はひとつ。その次に続くひとつ」

ナレ「走ります」

列車がどんどん走っていく

ナレ「いつの間にか、花はしおれ、花びらの先にしわが寄ります」

ナレ「いつの間にか、肌は荒れ、顔にもしわができます」

ナレ「いつの間にか、茎は元気をなくし、体は前に傾きます」

ナレ「いつの間にか、腰は曲がり、体は前に傾きます」

列車はまだ走っていく
花が枯れ落ちる

ナレ「命が散りました。人と同じようにはかなく」

女性、目を閉じる

ナレ「かつてと同じように空になった花瓶。もう新しい花を求める事はありません。花を見るためにブラインドを上げることもしません。ただ、目を閉じるだけです。残り香だけで、十分なのです。」

ナレ「ただ、目を閉じて、電車は走って」

電車が止まる

ナレ「ひとつの命が散りました。花のように美しく」

ナレ「もう電車は走ることはありません」

あとがき

こんばんは。星水慕です。
少し前に書いた作品で、小説を書き始める前に小説の風味を入れながら脚本を書いてみたいなと思いまして、挑戦してみました。
世界観設定は好きなんですけどね、今思うともう少し違う書き方ができたんじゃないかなと思わなくもない作品です。
楽しんでいただけたら幸いです。ありがとうございました。
おまけに「はなの気持ち」という男性目線の詩のようなものを付けておきます。よければそちらもお楽しみください。

おまけ「はなの気持ち」

ぼくには目がないからさ
自分の色も分からないけど
なんだか君は好きみたい

ぼくには鼻がないからさ
自分の匂いも分からないけど
なんだか君は好きみたい

たまには調子が悪い時もあるさ
そしたら、僕の根っこは足になるんだ
頑張って走って
君から離れた場所に行こうかな

どうして君は花を見るんだろうね
僕はどこかで枯れるのかも
そしたらゴミ箱に捨てられて
僕の花瓶に、誰かが入るんだ

そんな事を考えてたら
色も匂いも褪せてるんだろうなぁ
だから僕は少し静かにしてるよ
もともと口もないんだけどさ

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