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『web別冊文藝春秋賞』受賞から掲載まで&掲載版「雨の日の怪談」

編集者さんがいるってこんな感じでした

文藝春秋掲載にあたり、note様×WEB別冊文藝春秋様の投稿企画#2000字のホラーの応募作を改稿し、2500字程度に加筆しています。

受賞させていただいた企画はこちらです。

編集者さんがアドバイスしてくれる改稿ってどんな感じに変わるの? と興味をもたれる方もいらっしゃるかな~?と思い、比較できるように差し替えではなく別記事にしました。
※文藝春秋社様からは掲載許可をいただいています。

また、同じタイトルの記事をただ載せても面白くないだろうということで、改稿録も追加しました。

目次から飛んで、興味のある所だけ見ていただいても、もちろんオッケーです!
では本文をどうぞ~(*´∀`*)ノ

掲載版「雨の日の怪談」

 蒸し暑い夏の夜だった。会社帰りに牛丼屋で夕食を済ませ、少し歩いただけなのに、もう汗でワイシャツがベタついている。家でシャワーを浴びて、キンキンに冷えたビールでも飲もう、と思った。

――あー、昨日、買い置きの最後の一本、飲んじゃったかも

 はっきりと覚えていなかったが、もしなかったら最悪だ。俺は目に付いたコンビニに迷わず飛び込んだ。冷蔵庫からビールを取り出し、ついでに手で裂けるチーズをつまみに選んで会計を済ませる。自動ドアを出ると、俺は目をしばたいた。

――雨だ。さっきまで降ってなかったのに

 チラリと入り口の傘立てを見ると、濡れた傘がすでに数本ささっている。透明なビニール傘も二本あった。特徴のないビニール傘だ。見咎められたとしても、間違えました、と言い訳すればいい。

――急に降ってきた雨なんだから、持ち主が買い物している間に雨も止むさ
 心の中で身勝手な言い訳をして、ビニール傘の片方を手に取った。本当の事を言えば、雨に降られて、傘を盗るのは初めてじゃない。俺の家には、持ち主のわからないビニール傘があふれている。

――傘を持たずに出かけた時に限って、なぜか降ってくるんだから仕方ないよな

 歩き出すと、雨は視界が悪くなるほど降ってきた。街灯の灯りが頼りなくチラチラ瞬いている。救急車のサイレンが遠くから響いてきた。雨の夜の救急車の音はなぜか不吉だ。

――ああ、早く帰ろう

 そう思って、自然に早足になった。

「……」

 ふいに呼ばれたような気がして、耳を澄ませた。雨が傘を叩く音がうるさくて、周りの音はよく聞こえない。歩く速度をゆるめて声が聞こえたらしい方に目を向けた。

「あ」

 シャッターが下りている何かの店の小さな軒先に、女の人が濡れそぼって立っている。半袖のカットソーにショートパンツ。寒いのだろうか? 足を不自然な形にからませている。夏の夜とはいえ、濡れていては冷えるのだろう。

「あの、入って行きます?」

 声をかけたのは、同情心からだろうか? それとも傘を「借りパク」した罪を薄めたかったから? 自分でもよくわからない。

 うつむいていた女の人が顔をあげた。驚いたように見開いた目の下には、泣き黒子ぼくろがある。横長につぶれたひし形で、もうひとつの目みたいな形をしている。

ーーあれ? どこかで会ったかな?

 特徴的な黒子に見覚えがある気がした。けれどせわしく記憶をまさぐってみても、引っかかるものはない。やっぱり初対面、だよな?

「えーと、別に、無理にとは」と、ぎこちなく言葉を継いだ。まあ、どうせ断られるだろうな、という俺の予想を裏切って、彼女はすっと傘に入ってきた。

「どこかで会いましたっけ……?」

 あまりに迷いのない態度に、やはり知り合いだったのかもしれないと思った。

「いいえ」と、そっけなくそう答えた彼女の声にも、聞き覚えがある気がする。会ったとすれば、どこで会ったのだろう? 黙り込んだ俺の代わりに彼女が口を開いた。

「ですけど、その傘のことは知ってます」

「は? 傘? そりゃ、なんのへんてつもないビニール傘ですから」ははっと笑った。冗談だと思ったが、彼女は笑っていなかった。

 彼女は俺をじい、っと見つめながら、ゆっくり、子供に言い聞かせるように一言ずつ区切って言った。

「だって、その傘……、私の、なんですもん」

 ドキッとした。
 そうだ。この傘は俺のものじゃない。他の誰かのものだ。
 だけど、彼女のものでもない……たぶん。なぜなら彼女は、俺より前を歩いていたはずなのだ。後からコンビニを出た俺が、彼女の傘を盗める訳がない。

「まさか……」

「信じられませんか? でも、柄に私が付けた印があるはずですよ」

 俺は握っている傘の柄を見た。さっきまで、ただの白い柄だったはずなのに、俺の手の下には赤い色が見えた。ぎょっとして手をずらすと、赤い色もずるりとこすれてのびる。錆びくさい臭いがつんと鼻をつく。

「ひっ! 血っ?! な、なんだよ、これ」

「4ヶ月前、あなたが私の傘を「借りパク」した日も、今日みたいな急な雨でした。コンビニで買い物している間に傘を盗まれた私は、雨の中を走って帰りました。視界が悪かったし、雨を避けるためにうつむいていて、よく見えなかったんです。それで……」

――彼女は一体、何を言ってるんだ? 以前、俺が彼女の傘を「借りパク」したって? 仮にそうだったとしても、なぜ彼女がそれを知っているんだ?

「あの、この傘、返します」

 気味が悪くなり、傘を彼女に押しつけた。受け取った彼女の手が赤く濡れている。ハッと見ると、不自然に絡めた足はすねで折れ曲がり、頭から血がしたたっていた。逃げるように歩き出したが、彼女は折れ曲がった足をずるずると引きずって、追いかけてくる。

 大丈夫だ、あの足じゃ追いつけるはずがない。そう思ったが、自然に小走りになる。早く彼女から遠ざかりたい。しばらくして、もう大丈夫だろうと後ろを振り返ると、すぐうしろに彼女がいた。

「うわあああっ!」俺は闇雲に走った。濡れた路面を革靴が叩き、水しぶきがズボンの裾を濡らすが、気にしている場合じゃない。早く、早く……。

 突然、キキーッというブレーキの音が雨の音を切り裂いた。地面を滑るタイヤの音、アスファルトが焦げる臭い……。

 雨でよく見えなかったんだ。信号がすでに赤に変わっていたことに。
 ヘッドライトに照らされて、視界が真っ白に染まる。

 ドンッ!

 全身に強い衝撃と痛みが走る。俺はダンプカーにはね飛ばされ、地面に叩きつけられていた。

「ねえ、痛い?」

 その声で記憶がフラッシュバックした。この痛みは初めてじゃない。

「一緒だね? 私もずーっと、痛いよ……」

 仰向けに倒れた俺の顔の真上から、彼女が覗き込んできた。血がボタボタと俺の顔を濡らす。大きく見開いた眼は白くにごり、泣き黒子が俺を睨む。

――ああ、そうか……たしかにこの顔には見覚えがある

 意識が途切れる直前、彼女が嗤った。

「だから絶対、逃がさない」
 

 そしてまた、俺は全てを忘れてコンビニにいた。罪と彼女と同じ痛みを繰り返すために。
 外は急な雨、傘立ての中にはなんの変哲もないただのビニール傘……。

                      (了)

 

編集者さんってどんな人?

改稿するにあたり、編集者のKさんとやりとりさせていただきました。Kさんはとっても優しい若い(想像)女性の方でした♡ 

ところで、この記事を書くために過去メールを見直していたら、大変なことやらかしていました(>_<)
Kさん宛てのメールで、名前が間違って書いているメールを発見~!!!
しかも途中で呼び捨てにしている箇所も……(←ひどすぎる💦)
申し訳ないです……すみません。この場で懺悔させてください。

皆さんはそんなうっかりはなさらないと思いますが、どうぞお気をつけくださいませ……。作品の校正とともに、メールの校正を!(←自分です)

ちなみに受賞でお世話になった、noteの担当編集者のSさんも、細やかにお気遣いくださる優しい大人の女性(想像)でした♡ もうね、スキ!ってなりました。

推敲経緯


メールのやりとりののち、電話をいただきました。
電話で聞いた感想と改稿ポイントを踏まえて本文に手を入れ、メールにWordファイルを送付しました。(pdfでもよかったみたいです)
小心者なのでドキドキ。

返信で、改稿版のさらなる改稿ポイントと、本文に書き込んだpdfファイルを送ってくださいました。
実はどんなことが書いてあるのか、とても楽しみにしていました。
ちなみにペンの色は、赤ではなかったです。
確かに赤だと、ホニャララ先生の添削みたいになってしまいますものね。圧をかけない配慮なのかな、と思いました。
ただ、ペン色の選択は編集者さんの個人の好みによるものかもしれません。

冒頭部分の整理と、怖い場面の追加をご提案いただきましたので、修正して加筆。
冒頭部分の整理は、時系列順の方がショートですから、分かりやすいですね!
冒頭が大事!とつかみ重視でしたので、目からウロコのご提案でした。
計4回書き直し、掲載版が出来上がりました!

その後、(ホントに? ホントにコレでいいの?)と謎の不安にかられましたが、
無事に令和4年12月20日に『web別冊文藝春秋』に掲載していただきました!
とても嬉しかったです。

謝辞

掲載にあたり、たくさんの方にお世話になりました。きっとわたしの知らない方にも。本当にありがとうございます。

また、応募作、改稿作を読んでくださったみなさまにも、心から感謝を!
もしも私の物語でほんのひととき楽しんでいただけたなら、
この上ないしあわせです。
ありがとうございます( *´艸`)♡

まとめ読み! リンク集

なお、掲載版はnoteWEB文藝春秋様のページでもお読みいただけます。
また「雨の日の怪談」に寄せてくださったありがたい講評や、わたしのプロフィールなどもお読みいただけます。
↓こちら!

応募作(改稿前)

「WEB別冊文藝春秋賞」を受賞された、2名の方の作品もおススメです! 
こちら(お名前順です)!↓ 

花果レビュー:
今の時代ならではの恐怖! 愛は時に、人をどろりと深い暗闇にいざなうのでしょうか……?
ホラー好きな方はもちろん、イヤミスがお好きな方にもおススメです!
怖かった~!

花果レビュー:
来ました『市松人形』!
日本人形と言えば、ホラー界隈のパワーワードです。
ストーリーはどこかホッコリ風味……かと思いきや、ジワジワと怖さに囚われます。
不思議系ホラーがスキな方は、ぜひご一読を!
面白かったです。

お気持ちを届けてくださって ありがとうございます(*´▽`*)♡ がんばります! いただいたサポートはnoteサマで還元させていただきます(*´∀`*)ノ