「公務員保育士」が最強な理由
「公務員保育士」をご存じですか?
公立保育園は、市や区などの地方自治体が運営している「公」の保育園です。そこで働く保育士は「公務員」になります。また、私立保育園は、社会福祉法人、民間企業、NPO法人などによる運営となります。
公立保育園が「ベテラン」ぞろいのわけ
保育士の平均年齢は、全体では36歳、公務員保育士は48歳とのことです。※
「公務員保育士」になるには?
公務員保育士になるためには、保育士資格を取得後に各自治体の公務員試験に合格することが必要です。
受験の条件に「年齢」があり、「20代後半」や「30代くらいまで」を受験できる年齢の上限としている自治体が多くあります。この受験できる年齢と実際に勤務している保育士の平均年齢より、勤務年数が20年~30年以上の公務員保育士が多くいるということが想定できます。
実際に私が勤めてきた公立保育園はどこも「ベテランが多く、年齢層が高い」という印象でした。
公務員保育士の採用者数や倍率は各自治体により違いますが、首都圏では2~3倍のところが多く、その他の大都市では、高いところで5倍以上のところもあります。難関である狭き門を超えて採用された公務員保育士は、巷で話題になっている待遇面で私立(民間)に比べて安定していることが長く勤務できる理由の一つでもあると思います。
一方、私立保育園では、保育士として勤めて数年で「園長」や「主任」となり、現場の管理を任せられる人もいます。待遇面では公立に比べてよくないところもあり、保育士の確保に苦労している園も多いようです。もちろん公立園にも若手保育士はいますし、私立園でも大ベテランの保育士はいます。ただ、一般的には、公立=ベテラン保育士が中心。私立=エネルギッシュな若手保育士が中心。という印象をもたれている方が多いのではないでしょうか。
ちなみに、公立保育園と私立保育園では採用方法が異なります。公立保育園は筆記試験がかなり重視されるのでそれなりの対策が必要になります。
『保育士・幼稚園教諭 採用試験問題集&論作文・面接対策』(実務教育出版)
こちらの対策本は1冊で教養、専門試験、論文・面接試験とすべてを網羅していていますので、もし、公立保育園を志望される方は一度ご覧になってみるとよいと思います。
「公務員保育士」のすごいところと残念なところ
ここからは、「公務員保育士」に注目し、私自身が体験から感じた公務員保育士の「すごいところと残念なところ」についてお話します。(あくまで私見です)
すごいところは絶大なる安心感と信頼感
ある日、私は5歳児クラスの保育のサポートに入っていました。それまで元気に遊んでいたMちゃん(女児)が突然立ち止まった次の瞬間、マーライオン(噴水)のように激しく嘔吐をしたのです。あたり一面嘔吐物の海。Mちゃんに泣きながら抱きつかれた私も嘔吐物まみれ。この時私は、「あぁ終ったな(感染したな)」と腹をくくりました。
その状況をみた担任のN先生は、「あ~具合悪かったんだね」といって速やかに「看護師への連絡」「嘔吐処理セットの用意」「他の保育士への応援要請と状況説明」を段取りよくかつ的確に対処していきました。その姿に(保育士の私でさえ)惚れ惚れしました。この適切な対応により、誰一人感染することなく無事に乗り切ることができ、もちろん私も翌日元気に出勤できました。
今回の件が無事ですんだのは、たまたま「この保育士(個人)のスキルが高かったからではないか」という考えもあるかもしれません。
しかし“たまたま”ではなかったのです。
しばらくして同様のことが別のクラスで2件連続して発生し、その際も他の保育士の冷静な対応により事なきを得ています。これらに対処できるスキルは、勤務年数が長いため数えきれないほどの実践を経て身につけたベテラン保育士の経験の賜物だと思います。
この保育士の姿には、例えば地震などの震災や不審者侵入などの緊急時においても「この先生たちに任せておけば安心」と思わせるものがありました。それはベテランだからこその絶大なる安心感と信頼感からくるものではないでしょうか。
残念なことは経験が多いからこそ陥る「慣れ過ぎ」問題
ただ、ベテランが多い=よい面しかない、というわけではなさそうです。
私が少し残念に感じたことは、保育士がベテランだからこそ陥る「慣れ過ぎ」の状況でした。
運動会など保護者も参加する大きな行事は、保育士にとって眠れない日が続くほど緊張するものです。少なくとも私はそうでした。でも保育を30年以上経験している大ベテランの中には、「もう(何十回も経験しているので)緊張もドキドキもしない」という人もいるようです。
平均年齢の高い公務員保育士は、行事の司会や係の担当経験も数多くこなしてきているはずです。
そうなると今までの経験(準備物)を自分のスキルの引き出しにしまい、次回の行事の際はそこから出して再利用すればよい。つまり大きな行事も「そつなく無難にこなす」ことができてしまいます。これは決して悪いことではありませんが、新鮮味に欠けて少し淋しくも感じます。
若手保育士がドキドキしながらも“自分のやりたいようにやってみる”という場面は、より新鮮に子どもや保護者の眼に映るのではないでしょうか。
多少の失敗も経験として次回に生かせばいい。何より子どもたちと一緒に毎回ワクワクしたい。いつまでもそんな気持ちでいることは、ベテランでも若手でも大事なことではないかと私は思います。
「公務員保育士」(ベテラン)の今後
定年が延長されていくこのご時世、公務員保育士の平均年齢は今後さらに上がっていくことでしょう。ただ、私か関わってきた大ベテランの方々は、実年齢以上に若々しく元気です。それは保育のプロという意識をもち、長く保育現場で勤めるために自身の心と身体の健康管理を徹底して過ごしているためだと思います。尊敬すべき姿です。
今後も絶えず変わっていく保育現場において、経験不足の若手を導いていくためにもベテラン保育士の存在は必要不可欠です。
ただ、できれば、未来の保育を担っていく若手保育士が成長していけるように、表舞台の主役の座はできるだけ若手に譲りつつ、一緒にドキドキ・ハラハラそしてワクワクし続けていただけたら、これからの保育の場はもっと明るくなるのではないでしょうか。
※
〇令和4年度 練馬区人事行政の運営等の状況の公表(P13【参考1】 職種別給与支給実績)
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/jinji/shokuin_jinji_kohyo.files/kouhyou04.pdf
〇保育士の現状と主な取組(P39 【平均年齢、勤続年数、決まって支給する現金給与額】)
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf
社会福祉法人(民間保育園)および東京都特別区(公立保育園)にて保育士として勤務。その経験から保育士試験対策学校にて、7000人以上の保育士輩出に携わる。現在は、保育士関連書籍の執筆ならびにフリーランス保育士として様々な保育施設にて保育を実施しながら、保育士の教育やサポートも行っている。
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