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授業で手を描いたときに (985文字)

 中学の美術の授業のときのことです。
 クラスメートをモデルにして人物画を描く授業のとき、絵を描く側のクラスメートの一人が「オレ手を描けないんだ。」といっているのが耳に入りました。
 最初は何を言っているのかわかりませんでしたが、よく聞くとそのクラスメートは手の複雑な造形を描けずに適当な省略をするそうです。後でそいつの描いた絵を見て私なりに理解したんですが、それは次のようにでした。 

 ①腕の先に丸を描く。これが手全体の外形になる。
 ②その丸に円周から中心向けて何本か短い線を描く。その線で区切られた部分は指になる。そして、その線の本数は4本を超えることはできない。4本を超えると、指の数が5本より多くなるから。

 以上です。

 私には、手というか指を描けないという人間がいることに驚きました。怪我や病気で手が不自由だというのであれば理解できますが、単に描けないというのはどういうことなのかと思いました。
 しかし、よく考えたら私も音楽に関しては似たようなもので、楽器の得意な人から見たら、私がどうしてちゃんと演奏できないのか不思議に思われていたことでしょう。

 テレビの『アメトーーク』の「絵心ない芸人」の回では絵が下手というか、子供のころに漫画やアニメを真似して描いたことがないのだろうかと思われる画力の人が多数登場します。
 この番組を見る度に、中学のころのクラスメートを思い出します。

 手の描き方に話は戻りますが、人間の手はかなり複雑な形をしているので、上手に描くには練習が必要です。でも、下手は下手なりに丁寧に描けば味が出てきます。バランスが崩れていても、指の太さや大きさがおかしくても、丁寧な絵には描いた人の努力が宿ります。そして、その絵を観た人からは味のある絵として好感を持たれます。
 そういう描き方を繰り返していると、「ヘタうま」と呼ばれる絵の領域に近づいていくと思います。「ヘタうま」という絵は、画力のある人が意図的に崩して描いた絵なので、下手な人が到達できる領域ではないと思いますが、似たような感じにはなれそうです。
 一方絵が下手だからと言って丁寧に描き込まないでいると、悲しくなるくらい下手な絵が残ります。その雑な絵から見て取れるのは、描いた人の諦めた姿というか絵を嫌う姿勢です。

 こういうことは、書道にもあるのではないかと思っています。

#ヘタうま #手を描く

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