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バントで行くかヒッティングで行くか (2956文字)

 プロ野球でジャイアンツ9連覇の頃を知っている方は(かなり高齢でしょうが)、野球のセオリーとして次のような戦い方を常識と考えているでしょう。

 「試合初回の攻撃の場合1番バッターは四球でもなんでもとにかく出塁する(多くの場合1塁)、2番バッターは送りバントをして1塁ランナーを2塁に進めて、次の打順となるクリーンナップで得点することに期待する。」

 この戦術は、ジャイアンツ9連覇の時代の川上監督の定石であったので「川上野球は詰まらない。」などと悪口を言われたりしました。

 スポーツ新聞や野球ファンの一部は「川上野球は詰まらない。」と批判していましたが、代替的な戦術を示してくれるわけではなかったので、前述の戦術はその実績から各チームにもアマチュア野球にも拡散していきました。

 野球でどういう戦術を選択したとしても、結局は試合に勝たないとそのチームのファンは満足しません。

 例え相手チームのエラーが決勝点になったとしても、「勝ちは勝ちだ」というのがプロ野球に限らずスポーツファンの気持ちです。
 私も、野球やサッカーやラグビーそれに他にスポーツでも、自分の贔屓の側が相手のエラーで勝った場合、「同じような緊張感、同じようなプレッシャー、同じような気性条件下で戦っている状態で、相手チームがエラーで自滅したということは、贔屓のチーム(又は個人)は精神面と技術面で相手チームより勝(まさ)っていたんだ。勝負に勝(か)ったからこそ試合にも勝(か)ったんだ。」という気持ちで喜びます。

 とにかく贔屓のプロ野球チームには「勝ってほしい、そして日本シリーズに出場してそこでも勝って日本一になってほしい。」というのが「ファンにとって、たのしい野球」ではないかと思います。

 この「試合に勝つために有効な戦術が正しい戦術である。」という論理で行くと、初回からバントするという戦術はファンの求める戦術の一つだといえると思います。

 ところが、先日YouTubeで「1番打者から攻撃する回(典型的なのは初回での攻撃)で1番打者が出塁し、次のバッターがバントした方が1点以上得点する確率が高いか、ヒッティングをした方が確率が高いか。」についてデータで比較したところ、ヒッティングの方がわずかながら確率が高いという動画がありました。
 このデータは2011年から2020年までのプロ野球全試合の内容をデータベースに入れたものから抽出した結果だそうです。公式記録に残らないプレーについても記録されています。

 意外でした。

 上記のデータ抽出では、2番打者のしたバントが「送りバント」なのか「セーフティーバント」なのか区別されていなさそうです。私が思うに、圧倒的に送りバントが多いと思います。

 ところで私は、バントの方がヒッティングより成功確率が高いと思っていました。

 もっとも、「送りバントが成功して、1死2塁の状態にしたのに、そこから得点に結び付けることができなかった」。という場合もあると思います。 少なくないでしょうがそれは2番打者がヒットを打ってランナーを進塁させることができたとしても、同じ確率で起こり得ると思うので、結局は送りバントの成功率の高さが得点に結び付く確率にいい影響をもたらすと思っていました。

 ジャイアンツ9連覇は昭和40年から昭和48年まで続けられた連勝記録なので、今から半世紀以上昔の話です。
 それから、打撃技術が向上しこそすれ劣化したということはないと思いますし、守備側の技術は大きく向上しています(しているはずです。)。
 これは今期だけの話ですが、プロ野球選手における3割打者の数の少なさは、守備側の技術が攻撃側の技術に勝(まさ)っているという一つの間接事実になろうかと思います。

 他にも、ドーム球場が増えたこと、公式球の種類や反発係数の変遷、メジャーリーグ経験選手の増加、ジャイアンツ9連覇時代の戦術模倣の減少など、プロ野球界はこの50年間で大きく変化していますから、半世紀以上前の戦術が徐々に通用しづらくなってきているとしても驚くことではないのかもしれません。

 でも、「打率3割の選手は一流」という打者の基準は変わっていないはずです。
 つまり、「一流打者でも3割しかヒットを打てないんだから、それより成功確率が高いバントを多用しよう。ただし、バントは飛距離が極端に短いのでその特性を利用した使い方をしよう。」という発想で「2番打者の送りバント」という戦術は理にかなっていると思いますし、現代でも通用する理屈のように思います。

 と、ここまで書いてきて気づいたのですが、前述のデータでは、バントの数とヒッティングの数(母数)が示されていません。
 あくまで両方の戦術を選択した場合の各々の得点割合が比較されているだけです。

 そこで、以下は私の推測です。
 バントとヒッティングでは成功率は、バントの方が高いとします。
 無死走者1塁の場面では、多く場合成功率の高い送りバントを選択すると思いますが、仮に相手投手を打つ確率が高そうな場合なら(そう攻撃側が判断したなら)、バントよりヒッティングを選択するのではないかと思います。
 これは、ローテーションの谷間のとき、つまり一線級の投手でない投手やルーキーが先発したとき等を想定しています。

 そして、2番打者がヒットを打った場合、無死の状態が維持されつつ、走者は2塁1塁か、3塁1塁になります。

 両方のケースとも、次の打者にヒットが出れば得点できます。
 そして、打者は3番4番5番と回ります(3番打者が内野安打を打った場合など、無死満塁になることもあるでしょうが、それでも次の打者は4番ですから、やはり得点確率は高まります。)。
 仮に守備側が投手を交代して、防御率の高いリリーフ投手が出てきたとしても、攻撃側はクリーンナップで迎え撃つ形になりますから、攻撃側優位という状況は変わりません。

 (「無死1塁のときの2番バッターがヒッティングした数」が分からないのですが、ここでは「送りバントの数と比較できる程度にはヒッティングの数が多い。」と考えています。)

 こう考えると、一概に「バントより打ちに行く時代になった。」という解釈をすることはできないように思います。
 繰り返しますが、そう考えるにはデータが足りないと思います。

 これは、あくまで私の考えですが。

 これまで書いてきたことは日本のプロ野球のことを念頭に置いているので、メジャーリーグの場合だと状況が異なると思います。
 野球はその発祥当時は、「投手は軽く打ちやすい球を投げ、打者はそれを打つ。両チームはより多く得点することを競う。」というゲームだったそうです。そして、白人らしく「勝負を付けることを重視する。」精神で試合をします。
 だから、バントを多用するようなスモールベースボール(バントや盗塁などの細かいプレーを駆使する野球の戦術。)よりは「ヒッティングして多く得点する。」戦術を選ぶ傾向が強いと思いますので、そもそもこの議論に馴染みません。

 なお、noteの投稿で何度か書いていますが、私はたまにしか野球に試合もサッカーの試合も観ない、その程度のスポーツファンです。


#バント #ヒッティング #野球 #スモールベースボール

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