『マッチメイク』を語る

 ミステリ小説『マッチメイク』(不知火京介(しらぬいきょうすけ)著)は本を義弟の奥さんにあげてしまい今手元にありませんので、出版社が分かりません。内容については、いつものとおり私の記憶で書いていきます。
 このミステリは、架空のプロレス団体のエースレスラーの不審死、門番と呼ばれる道場破り撃退要員(ガチンコと呼ばれる真剣勝負に特化したレスラー)の窒息死、などを新人プロレスラーが捜査していく物語です。
 この著者が、ミスター高橋の『流血の魔術 最強の演技ーーーーすべてのプロレスはショーである』を参考にして書いたと言っていますが、たしかにミスター高橋の本の内容を基礎としてプロレスの世界を描いているところがたくさんあります(全部ではありまえせん。)。
 しかし、著者のオリジナル(original 独創的な。)といえる部分もたくさんあります。プロレスファンの私としては、面白く読めました。特に、道場破りとリング上で対戦するシーンは説得力のある描写でしたし、真犯人が負傷して錯乱し暴れるシーンは正直ゾッとしました。
 昭和20年代(力道山が大人気だったころです。)の新聞は、プロレスをスポーツではなく芝居のように扱っていたそうです。それがいつしか、「プロレスは真剣勝負のスポーツだ。」という人達がファンの一大勢力になり、プロレス専門紙はそれに拍車を掛けるという状態になってしまったそうです。アントニオ猪木は、プロレスは真剣勝負と言っていましたから、ファンはそう信じたのでしょう。私が思うに、アントニオ猪木の言う「真剣勝負」とは、「対戦相手相手方と殺し合いをする。」という意味の真剣ではなく、「真剣に相手方と協力してプロレスの凄さを観客に見せつける。」という意味だったのではないかと思います。

 それはそれとして、このミステリは控室の状況、新人レスラーの役割や仕事、先輩レスラーの立ち振る舞い、試合のないときのレスラーのトレーニング、プロレス会社の経営や経理など、恐らく著者が取材と想像で書いたんだろうなぁというところが特に素晴らしく、いい作品だと思いました。

 人によっては、「プロレスははじめから勝つ方が決まっている。」とか「毎日真剣勝負なんてできないのに、プロレスは毎日興行を打っている。」などとことさら言う人がいますが、そういう人には「だからどうした。」と思います(口には出しません。後が面倒だから。)。こっちは、仮にそうであってもプロレスを見たいんだし、伝説の一戦と言われる試合の記憶を他のプロレスファンと享有できればそれでいいんだから、と思います。

 なお、このミステリの登場人物中私が最も好感を持ったのは、対道場破り要員のレスラーです。そして、このレスラーの許婚の女性は、なかなかの大物感(人物が大物という趣旨)がありました。

以上

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