『刑事マードックの捜査ファイル シーズン3 第7話#33 サーカスの死神 Blood And Circuses』 (4392文字)
カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』シーズン3第7話(#33)「サーカスの死神 Blood And Circuses」の感想を書きます。
邦題の「サーカスの死神」は、サーカスの中にいた殺人者を指しています。
原題の「Bolld And Circuses」は、直訳すると「血とサーカス」ですが、古代ローマ社会の「パンとサーカス」(bread and circuses: panem et circenses)は、詩人ユウェナリス(西暦60年 - 130年)が古代ローマ社会の世相を批判して詩篇中で使用した表現。権力者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によってローマ市民が満足して政治的無関心になっていることを指摘しました。)とは関係ありません。
生まれながらの異形(「いぎょう」普通とは違った形。あやしい姿。)からサーカスでしか生きる道を見いだせない人と、磨かれた芸を見せることでサーカスで喝采を浴びる人との遺伝の違いを表現しているのかもしれません(かつては親子などが似たような形質を持つことを、遺伝ではなく「血」(血液)によると考えられていました。)。
第4分署にサーカスから虎が逃げたという急報が多方面から入ります。クラブツリー巡査らにより射殺されたそうですが、調教師が犠牲になりました。
遺体はモルグ(morgue 遺体安置所)にあるそうです。
マードック刑事とクラブツリー巡査は現場に行きますが、そこにはサーカスのテントはなく、急いで撤収したようでした。
不審に思ったマードック刑事は、サーカス団員を全員逮捕させます。
そのため、第4分署はサーカス団員で一杯になりました。
登庁してきたブラッケンリード警部が「どうしたのか」とマードック刑事に質問すると、マードック刑事は「全員が住所不定で釈放すれば逃亡のおそれがあるので。」と答えました。
興行主のバーネットによると、出番になったので呼びに行くとキティ・ウィーカーは無残にも半分食べられていたそうです。
キティは舞台の前には儀式として、檻に入って虎を落ち着かせていたそうです。
キティが食べられたことが発見されたとき、虎を落ち着かせようと檻を開けたら、虎が逃げだした。
バーネットは、悪いとは思ったがこんな騒ぎを起こしてしまったので、民衆の怒りを買うと思い急いで町を離れようとしたのだそうです。
モルグ(morgue 遺体安置所)での検視したジュリア・オグデン検視官によると、
「虎はキティ・ウォーカーの首と腹部に食らいついた。
虎の消化器官を調べたら、胃は満たされてたけど他は空っぽであった。
何日も食べていなかったのだろう。襲うのも無理はない。」ということでした。
マードック刑事は、第4分署に持ってきた虎の檻(今は虎はいません。)に、餌係のセルビーを呼び虎へ与えた餌について尋ねました。
するとセルビーは「一日三食餌を与え、全部たいらげていた。虎が空腹だったことなど有り得ない。」と言いました。
クラブツリー巡査が檻を調べてみると、檻の鉄格子に鎖の一方の端取り付けられており、その鎖のもう一方の端は虎に付けられるようになっています。しかし、その鎖の途中に金具が付けられており、鎖を短くすることができます。鎖を短くされていたので虎は檻に入れられた餌のところまで行けずにずっと空腹だったのです。
ブラッケンリード警部はマードック刑事に捜査時間として1日間を与えます。それ以上は「人身保護法だ。(サーカス団員を)不当に拘束はできん。」のだそうです。
興行主のバーネットに尋問したところ、「キティは常人(奇人以外という意味)の中のスターだったから殺すなんてありえない。」と言いました。
また、「キティを恨む者については、親友のアイビーなら何か知っているかもしれない。」と答えました。
アイビー(女性)は、全身にツタの模様が入っています(入れ墨でしょうか。)。ツタの模様がなければかなり美人だ思います。
アイビーは「キティは婚約者のレオ伯爵とよく言い争っていた。」と言いました。
レオ伯爵は、金髪で顔も獣のように毛が生えています。
レオ伯爵は、「キティを殺していない。見た目は野獣でも中身は紳士だ。」と叫びます。
またレオ伯爵は、「魔術師のジェイクは自分に嫉妬しているから、ヤツが自分を狙ったのではないか。」と言い出します。
ジェイクは以前キティの恋人でしたが、決闘の末レオ伯爵が勝ち取ったので、その報復を企てたのだそうです。
モルグ(morgue 遺体安置所)からマードック刑事に電話があり、行ってみるとジュリア検視官が「(キティの)傷口を調べてたら刺し傷が見つかった。」と言います。
その傷は、浅い角度で背骨まで達しています。
顕微鏡で見ると、第4頸椎(「だいよんけいつい」 頸椎は首の骨のことで7つあります。その上から4番目の骨が第4頸椎です。)が削れています。この削れはまっすぐでナイフによるものです。
犯人は、キティ殺害したら、その後に虎がキティに食いつくことをと知っていたようです。
クラブツリー巡査は、サーカスの占い師レディ・ミネルバに占ってもらいそれを信じそうになっています。
マードック刑事は、占い師レディ・ミネルバを尋問します。
マードック刑事は、レディ・ミネルバのタロットカード占いに対して「具体的な事実を述べず、曖昧(あいまい)なことを並べているだけだ。」と断じます。
しかし、レディ・ミネルバは占いで魔術師を出します。
マードック刑事は、魔術師ジェイクに尋問します。
犯行時刻、ジェイクはアイビーと「交わっていた。」(この原稿を読む年少者は、「一緒にいた。」と解釈しましょう。)と答えました。
マードック刑事の執務室では、バーネットがクラブツリー巡査に黒板を使ってサーカスの配置を説明していました。
それによると、
舞台はテントの中にあります。
出場者は出番15分前に舞台裏に集合します。
犯行時にいたのはキティだけでした。
彼女は最後の出番です。
彼女を見たのは餌係のセルビーが最後です。
レイと言い争う声が聞こえたので、バーネットがセルビーに見に行かせたのだそうです。
彼女は檻に入るところだったそうです。
遺体を発見したのは5分後。
バーネットはそれまでずっと舞台の袖にいたそうです。
クラブツリー巡査はサーカス団のアリバイを調べましたが、レオ伯爵だけ確認できませんでした。レオ伯爵はアイビーと一緒だったと言っていますが、アイビーはジェイクと一緒でした。
再度レオ伯爵にアリバイを尋ねると、レオ伯爵は「キティと大ゲンカして散歩に出た。アイビーは場所の横でタバコを吸っていた。私が通りすぎるのをじっと見ていた。彼女の視線を感じた。」と言いました。
一方アイビーは「確かにタバコを吸いに外へ出たわ。だけどレオは見てない。ケンカの声は聞こえたけどすぐ部屋に戻った。ジェイクと一緒だった。二人のケンカの原因は、最近はお金の件よ。
キティの伯父が死んで巨額の遺産を相続することになっていた。レオには『壮大な構想』があった。とにかく彼の姿は見ていない。」と言いました。
クラブツリー巡査の報告によると、レオ伯爵の一家は普仏戦争で財産を失い残ったのは爵位だけ。レオはサーカス団に身売りされたそうです。なお、レオ伯爵とキティ・ウォーカーは2週間前に結婚していました。
レオ伯爵はマードック刑事に、キティの希望で結婚を秘密にしていたこと。団員が平等に扱われるサーカス団を作ることが二人の夢であったことを語ります。
そこに、占い師レディ・ミネルバから「今夜署内で誰かが死ぬ」という占いの結果が告げられます。
マードック刑事は、占いを信じていませんが、レディ・ミネルバは何か知っていると考えています。殺人の計画に気づいているのかもしれません。
ブラッケンリード警部は、クラブツリー巡査にサーカス団員を留置場に入れるよう指示します。
マードック刑事は、それに加えてレオ伯爵だけ隔離するようクラブツリー巡査に言います。レオ伯爵には動機があります。
午前6時5分頃、レオ伯爵の異変に気づいたサーカス団員が騒ぎ出しました。
レオ伯爵は、牢屋の中のベットに右腕を下にして横たわった状態で刺殺されていました。
マードック刑事は、「施錠された監房で隔離されていたのに・・・。」と事実を受け入れることができないでいます。
しかし、ジュリア検視官は「それでも2時間前に殺害された。」と事実を述べます。
看守は居眠りしていなかったといいます。
それに、凶器も見つかりません。
謎だらけです。
モルグ(morgue 遺体安置所)でジュリア検視官はマードック刑事に、
「レオ伯爵は、咽頭(いんとう)から頸動脈を一突きに刺されている。
ほぼ即死で、喉を刺されて声も出せなかったろう。」とた伝えます。
裸の状態で解剖台に仰向けに横になっているレオ伯爵は全員毛だらけです。
マードック刑事は「多毛症だね。」と言うと、ジュリア検視官は同意しました。
ジュリア検視官は、もう一つ言うことがあるとして「ナイフが地面とほぼ水平に刺さっている。」と言います。
第4分署の監房はに入っていた団員は次のとおりです。
第1監房にはジェイク(魔術師)、セルビー(餌係)と他3人
第2監房にはレオ伯爵
第3監房にはピエロ、バーネット(興行主)と他2人
その隣にはアイビー、レディ・ミネルバ、双子と他女性3人
監房を隅々まで探しても、サーカス団員を身体検査しても凶器を発見できません。
そんな中で、またレディ・ミネルバが死者がでると占いました。
その後、餌係のセルビーと魔術師ジェイクとが争いになり、セルビーがジェイクの腹を殴ったところ、ジェイクは血を吐きながら死んでしまいました。
ジェイクは刺殺でした。ジェイクの体には傷がありませんでしたが、ナイフは体内にありました。殴られてそのナイフが内蔵に刺さったのでしょう。
おそらくジェイクは、ナイフを吐き出し、犯行後に再び飲み込んだものと思われます。
しかし、マードック刑事は、ジェイクは犯人ではないと言います。
入っていた監房の位置から、ナイフを投げてレオ伯爵を殺したのは別の者です。
ジェイクが飲み込んでいたナイフには、小さな指紋がありました。
小さな指紋とは、部分指紋という意味ではなく、指自体が著しく小さいという意味です。とても人間の指とは思えません。
それやこれやでマードック刑事は事件を解決します。
今回は、ブラッケンリード警部が人身保護法を重視したことと、小動物をかわいがるというところが驚きでした。
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