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『刑事マードックの捜査ファイル シーズン3第2話 #28 仲間の死 The Great Wall』 (2342文字)

 カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』のシーズン3第2話(#28)「仲間の死 The Great Wall」の感想を書きます。

 邦題の「仲間の死」は、第5分署の警官が殺されたという今回の事件を表しています。

 原題の「The Great Wall」(大きな壁)は、マードック刑事切り込んでいこうとする警官同士の仲間意識というか連帯を指しています。

 今回は、マードック刑事は、第5分署のカーティス・クーパー巡査がチャイナタウンで殺害された事件を捜査します。
 それは、第5分署のスロラック刑事(前回、マードック刑事が長期不在のときに、第4分署に応援に来た刑事です。)がおたふく風邪で勤務できないので、マードック刑事が第5分署に応援に行くことになったからです。

 マードック刑事は事件現場に赴(おもむ)き、事件捜査を始めますが、第5分署の警官らはマードック刑事に対して異物感を持っているようです。「自分達の領域に入り込んできたよそ者」というかんじです。
 第5分署の巡査らは、チャイナタウンにいる中国人への嫌悪感を隠しませんし、彼らから賄賂を受け取っています。

 トロント警察第5分署のそういう実態を見て、疎外感(「そがいかん」仲間がいなくて孤独だと感じる意識)を持ちはじめるマードック刑事に対しブラッケンリード警部は「お前は必要な男だ。」と言います。

 またブラッケンリード警部は、警官の汚職に嫌悪感を示すマードック刑事に「お前も、パイを貰ったではないか。」と言います。
 マードック刑事は、以前の事件で少年を自宅まで送ったお礼にと、その少年の母親からパイを貰ったことがあったのでした(でも、そのパイはブラッケンリード警部とクラブツリー巡査が食べたはずですが。)。
 警官は日常的に犯罪と直接接する仕事であり、また、市民から感謝される仕事でもあります。そのため、収賄と感謝の品とを区別することが難しいことがあります。
 ブラッケンリード警部はマードック刑事に、そういう警察官の仕事の側面を指摘し助言します。

 ブラッケンリード警部には、腕力と推理力と犯罪捜査へのバイタリティー(後述)の他にこういう知者の一面があります。複雑な男です。

 バイタリティー(Vitality)には、次のような意味があります。
(1) 英語で「活力」「生命力」「エネルギー」を意味する言葉。
(2) 身体的な健康だけでなく、心の活力や意欲、ポジティブな心構えを含む総合的な概念。
(3) さまざまな苦難や障害を乗り越えていくような力強さ。

 今回は、①マードック刑事の「自分は警察に留まるべきかどうか。」という心の動きと②警察自体に対する正義の執行、そして③当時のトロントにおける人種差別感情、を描いているせいか事件自体はそれほど複雑怪奇というわけではありません。

 ドラマ終盤まで第5分署は「汚職警官の巣」じゃないのかという不気味な雰囲気で描かれます。

 そうそう、チャイナタウンの漢方薬店で阿片(アヘン)が市販されていることに驚きました。
 阿片戦争は1840年から1842年ですから、阿片の持つ毒性は認識されていたはずです。それでも、まだ法的に規制されていなかったのですね。
 この漢方薬店は「チョイの漢方薬店」と字幕にありましたが、映像では看板に「FENG CHOY'S」(チョイの風水)とありました。

 看板といえば、第4分署と第5分署との運動対決の会場の横断幕には
FIFTEENTH ANNUAL (15周年)
TORONTO POLICE (トロント警察)
ATHLETC TOURNAMENT (運動 トーナメント)
と書かれていました。

 捜査が進めば進むほど、第5分署の警官の中に犯人がいそうに思われますが、決定的な証拠が見つかりません。
 第5分署の連中は、疑われていることに憤慨するし、ストックトン長官も第4分署に来て「早急(「さっきゅう」。「そうきゅう」とも言うようです。)に解決しろ。」とプレッシャー(pressure 圧力)を掛けます。

 それやこれやで結局マードック刑事らは事件を解決します。

 事件後、中国人のチャイ老人はマードック刑事に「よい心ありき所に救いあり」という言葉を掛けます。
 マードック刑事は、老子の言葉かと思いましたが、チャイ老人の言葉でした。

 ストックトン長官はマードック刑事にウィニペグ( Winnipeg カナダのマニトバ州南部にある都市。)への異動の話を持ってきます。
 今回の捜査がトロント警察内部に及んだことで「もうここんいはいづらいのではないか。」という配慮でした。
 つまり、警官仲間から敵視されるのではないかということです。

 ウィニペグは、トロントの西に直線距離で1500キロメートルの地点にあります。北にウィニペグ湖、西にマニトバ湖があります。
 ウィニペグは交通の便もよさそうに思われますが、マードック刑事は「私の居場所はここです。」と異動を断ります。

 マードック刑事は、警察官の仲間意識からの疎外感を克服したようです。
 よく考えてみたら、第4分署の警官はマードック刑事を疎外などしていません。
 人間、困ったときほど視野が狭くなるものです。

 なお、私はこのストックトン長官という人が好きになれません。
 この男は、マードック刑事の能力を認めながらも、彼がカトリックだという理由で昇進させませんでした。
 私は、勤め人として、能力以外の理由で差別的人事をする人間には物凄く反感があります。
 また、取り繕うことをしないので、その反感は素直に顔に出ているはずです。
 私も、今の職場が自分の本当の居場所なのかわからなくなる時があります。

#マードック #阿片 #アヘン #チャイナタウン

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