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『月に囚われた男』の孤独と相棒 (3044文字)

 映画『月に囚われた男』(監督ダンカン・ジョーンズ 主演サム・ロックウェル 2009年)は、3年契約で一人でで月の裏側でエネルギー資源のヘリウム3を採掘する主人公サム・ベルの奇妙な経験を描きます。

 監督のダンカン・ジョーンズは、デビット・ボウイの息子ですが、顔はあまり似ていません。
 私はイギリスのテレビ番組でゲストのデビット・ボウイが人種差別的取り扱いの現実を指摘しそれに反対するシーンを見たことがあります。
 息子のダンカン・ジョーンズにも、その性質が遺伝したのか、この映画も次作の『ミッション・8ミニッツ』も、主人公は悩んだり怯えたりした末に利他的な行動をします。

 私はNHKBSでたまたま『ミッション・8ミニッツ』を途中から観て、意味がわからないまでもとても気に入り、その後再放送で最初から観ることができ、自分がこの映画を気に入ったという感覚が間違っていなかったことを確認した後に、この映画の前作に当たる『月に囚われた男』のDVDを買いました。

 『月に囚われた男』の主人公サム・ベルは一人ぼっちで月の裏側で3年間単身で働いています。
 仕事は、月面を移動してヘリウム3を採取する掘削車からヘリウム3を取りだし、地球に送る(ロケットを使っているようです。)ことが主で、危険を伴うといえるのは、主人公が居住している月面基地サランから月面探査車に乗り巨大な採掘車まで行きカプセルに充填されたヘリウム3を持ち帰ることくらいです。なにしろ一人なので、月面で事故があっても誰も助けてくれないため、「事故=死」ということになります。

 以下、『月に囚われた男』の内容に踏み込みますので、内容を未知の状態でいたい方はこの投稿を読むのを中断してください。


 (注)『月に囚われた男』の内容に踏み込みます。

 主人公はサム・ベル(以下「サム・ベル1」といいます。)、月面の裏側でヘリウム3の採掘と地球に送る業務を一人で行っています。契約期間は3年間。サム・ベル1はいつもは月面基地サランにいます。そこでは人工知能ガーティがサム・ベル1の健康管理をはじめいろいろな業務を扱っています。

 サム・ベル1は、月面を移動しながら掘削する機械(以下「掘削車」といいます。)からヘリウム3が一定分量を採掘できたという信号を受けると、月面探査車(3台あります。)の1台で掘削車に出向き、掘削車から掘削したヘリウム3(既にカプセルに封入されています。)を取りだし地球に送ります。
 サム・ベル1の実質的な仕事はこれです。

 あと2週間で契約の3年間を終え地球に帰れるというとき、主人公サム・ベル1は徐々に体調を崩していきます。
 人工知能ガーティは、原因究明できないようで一般的な投薬とうをするだけです。
 そんなとき、サム・ベル1は月面探査車の操縦を誤り掘削車と衝突します。頭部を強打し動けなくなるサム・ベル1。

 サム・ベル(以下「サム・ベル2」といいます。この段階でネタバレになります。)は、月面基地サランの治療室のベットで目覚めます。
 人工知能ガーティは、サム・ベル2に①脳に軽い損傷があること、②そのため記憶の喪失がみとめられること、③しばらくはこの月面基地サランから出ないよう言います。

 人工知能ガーティの処理判断はサム・ベルの判断や意見を重要材料にする傾向にあり、サム・ベル2は基地内で小さな事故を偽装し、安全確認のために基地の外に出ることを許可するよう人工知能ガーティを説得します。
 ガーティを説得することに成功したサム・ベル2は、基地の外に出るとき宇宙服が1着無いことに気づきますが、それほど気にもとめずに残された1着を着て基地の外に出ます。
 サム・ベル2は月面探査車に乗り掘削車に向かいます。そこで事故を起こしているもう1台の月面探査車(基地には全部で3台の月面探査車があるようです。)を見つけ、その中に動けなくなっている人間を発見します。

 その人間を月面基地サランに連れ帰ると、その人間は少し老化したサム・ベル1でした。

 そして、サム・ベル1もサム・ベル2も自分たちがクローンであると受け入れざるを得なくなります。そのうちぎくしゃくしていた関係が、徐々に打ち解けたものになります。

 そして調査の結果、サム・ベルの大量のクローンが月面基地サラン内部に冬眠保管されていて、3年ごとに古いサム・ベルの寿命が尽きるのでその体は始末され、その後に新しいサム・ベルが蘇生していることが分かりました。

 今回は、想定外の事故のため古いサム・ベルが始末される前に新しいサム・ベルが蘇生してしまいました。それでも、サム・ベル1の死亡確認がされるまでサム・ベル2が基地の外に出ないようにしていたのですが、前述のようにサム・ベル2が基地の外に出てしまい、結果二体のクローンが鉢合わせする事態になったわけです。

 月面基地サランから地球に直接交信できないため、サム・ベル1は録画映像で妻のテスと娘のイヴ(3歳)からのメッセージを見て、地球に帰ったときに思いをはせていました。
 サム・ベル1は、地球との交信を妨害する設備があると考え、その設備が機能しない地域に行き地球の自宅と交信します。そして、①妻のテスが既に亡くなっていること。②娘のイヴは今十代に成長していること。③オリジナルのサム・ベルが生存していること。④立派な家に住んでいること。を知ります。
 ここからは推測ですが、オリジナルのサム・ベルは自分のクローン製造を許諾する代わりに大金を得て今の立派なな家を手に入れたのでしょう。クローンのことは妻のテスも知っていたと思います。
 ということは、テスとイヴからの録画メッセージは全部芝居だったんだということになります。「あなたに会いたい。」と涙ながらに訴えていたシーンは、演技だったんだ。
 サム・ベル1は、本当の孤独を感じます。残されているのは、同じクローンのサム・ベル2だけ。

 このシーンは痛々しくて観るのが辛いです。

 この後、なんやかんやありますが、二人は次のような計画を立てます。

 ①三体目の新しいサム・ベルを蘇生させるよう準備する。
 ②サム・ベル1は事故を起こした月面探査車に戻します。サム・ベル1の寿命は3年であり、サム・ベル1の体調悪化が著しいので月面探査車の中で人生を終えるでしょう。このことは、サム・ベル1が提案しました。
 ③サム・ベル2は、ヘリウム3地球送付用のロケットに乗って(ヘリウム4を入れる格納庫に入って)地球に出発する。

 この計画を実行するとき人工知能ガーティは、自分はサム・ベル2を記憶しているので、それを消去するようサム・ベル2に助言します。サム・ベル2が存在することがばれると、面倒なことになります。
 サム・ベル2は、自分の乗るロケットが発射されたらガーティの中のサム・ベル2の記憶を削除するようセットしまし、地球に出発します。

 この映画のサム・ベル1と2は、どちらが地球に行くかという選択問題について、互いに相手に行くよう提案します。
 この映画の前作『ミッション・8ミニッツ』で主人公は、通勤列車に仕掛けられた爆弾が爆発して大勢の乗客が死亡するという避けられない事件が起きる未来と現在とを行き来しながら、最後は爆発は避けられないとしても乗客には人生最後に笑わせたいと考えます。

 監督ダンカン・ジョーンズの、この利他的な主人公設定が好きです。


#月に囚われた男 #ダンカン・ジョーンズ #ミッション・8ミニッツ

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