見出し画像

漫才やコントのネタ台本を書くことって (2065文字)

 テレビ番組で、「漫才やコントのネタの台本(ネタ台本)を書いている芸人さんとそうでない芸人さんがその負担差を言い争う」、ということがテーマになることがあります。

 このテーマが成り立つのは比較的最近のことで、かつては作家さんが書いたネタ台本を演者が舞台で行うという形式が多く、演者がネタの台本も書くという、音楽でいえばシンガーソングライターみたいな形式が多くなってきたのは、恐らくNSC(New Star Creation 吉本総合芸能学院)の卒業生が多くなってきてからなのではないかと思います。

 コンビ又はトリオ等(4名以上で構成される芸人さんもいるので、以下「芸人グループ」といいます。)の中で、ネタを書くという負担をしている者とそうでない者との負担の不均衡性は、「真面目な芸人とそでない芸人」「楽をしている芸人とそうでない芸人」「負担量が違うのに、同じギャラを貰うのは公平性に反する。」といった分かりやすい対立構造を作りだせます。

 でも、多くの場合、ネタを書かない芸人さん達はいわゆる「華がある(華やかさや華々しさが備わっているさま)」人で、そのネタとともにその芸人グループのカラーを決定づけています。
 つまり、ネタを書いている方も書いていない方も、自分達の芸人グループの芸に貢献しているという意味では「同等」と言えます(ウエストランドさんの場合は、当事者双方が負担の偏在(「へんざい」かたよって存在すること。)を認めているので「同等」といえるかどうかは微妙ですが。)。

 番組に出演している芸人さんらは、そういうことを分かったうえでいわゆる「プロレス」(喧嘩風の殴り合い、蹴り合い、技の掛け合い。でも誰も大怪我をしない興業。このことは決してプロレスを揶揄[<やゆ>。からかうこと。]しているわけではありません。)をしているのだろうと思います。

 それはそうと、漫才にしてもコントにしても、ネタ台本を書くというのはどういうことなのでしょう。
 私はこうしてnoteに投稿していますから、多く文章を書いていますが、ネタ台本を書くのはちょっと違います。
 以前、ふたつほどコントの台本を書いてnoteに投稿しましたが、セリフが説明調で自分でも「これをやってもウケないだろうな。」と思いましたし、この先上達しそうな予感もしませんでした。

 私が思うに、ネタ台本を書くには脚本やシナリオを書くのとは違う感性が必要です。なにしろ、漫才やコントは、芝居と違って演ずる時間が短いので、それなりの手法を身につける必要があろうかと思います。

 まず、ネタの目的は「笑いを誘うこと」ですから、全体を通る大きな柱(漫才コンビのパンクブーブーの佐藤哲夫さんはこれを「大ボケ」と呼んでいます。)はおもしろくなければなりません。
 芸人グループの芸の全体像を作っているという意味ではネタ台本を書いている人の貢献度は高いといえます。
 しかし、この「大きな柱」(大ボケ)だけでは漫才もコントも成立しないので、この「大きな柱」(大ボケ)に沿った笑いのエピソード(episode 物語の本筋の間に挿入する小話。挿話。漫才コンビのパンクブーブーの佐藤哲夫さんはこれを「小ボケ」と呼んでいます。)を入れるのですが、これはボケ役の人が担当することが多く、その人のキャラクターや演技力が大きく影響します。
 また、この小ボケによって道を反れそうになるのをツッコミ役の人が修正します。
 この修正によって芸人グループが行う漫才やコントが「大きな柱」(大ボケ)の範疇から出ないシステムになっていて、その漫才やコントが首尾一貫した統一された世界観として成立することになります。
(佐藤哲夫さんによると、この修正の基準は漫才のできるだけ早い段階で観客に示す必要があるそうです。この基準はこの漫才の中では一つの「常識」となり、その「常識」内でやり取りしないと笑いが大きくなっていかないといいます。さらには、最初の15秒くらいでひと笑い取る必要があるそうです。)

 パンクブーブーのネタに、陶芸家に弟子入りしようとする青年の話があります。「先生。僕は先生の作った皿がマジでツボなんです。」等となかなかに引き付ける台詞が多い漫才なんですが、この漫才では「陶芸」という単語は、はじめの1分半か2分間くらいしか言っていないそうです。
 いわば漫才の前半は、二人の関係の説明を兼ねた騒ぎのきっかけを描いています。
 そして後半は、ピントがづれた入門希望者とだんだん怒り出す陶芸家とのやりとりに発展していきます。
 漫才を二つのブロックに分けて作るという手法は、設定を変えるだけでいろいろな種類の漫才にすることができるという大量生産に向いていて、私は一つの発明ではないかと思います。(陶芸家以外の設定では、新聞勧誘の漫才があります。)

 ミルクボーイのネタの手法も発明だと思いますが、それより前にパンクブーブーもそういうやり方をやっていたのですね。

 やはり、ネタ台本を作るのは難しい。

#ネタ #パンクブーブー #佐藤哲夫
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?