漫画『最前線』(1243文字)
子供のころ、漫画家望月三起也さんの『最前線』という1冊の単行本を繰り返し読んでました。この本は従兄弟から貰ったものだったと記憶しています。
この中の物語の一つに、雨で増水した川にはまったシャーマン戦車の話がありました。その動けないシャーマンのすぐ先にはドイツ軍の検問がありそこには見張り塔と中くらいの大きさの大砲(対戦車砲だったかも知れません。)があります。
今は夜ですが、もう少しで夜が明けます。夜が明けたら戦車を見つかってしまい、ドイツ軍が攻撃してきます。
そこに主人公である日系二世のミッキー熊本軍曹と野牛というあだ名の屈強な日系の兵隊がやってきます。
事情を聞いた主人公は、戦車と見張り塔をワイヤーで繋ぎその後見張り塔の脚(戦車から遠い方の脚)を爆破し、見張り台が倒れる力で戦車を引っ張り上げるという作戦を立てます。
そのアイディアに対するシャーマン戦車の戦車兵(全員が白人のアメリカ人です。)の反応は次の通りです。
「いいアイディアだ。二世が思いつくとはしゃくだがな。」
「いいアイディアなら、おれは共同作戦もいやじゃねぇ。」
「おれがこの戦車にダイアンって名前付けたのは、国で飼っていた犬の名前だからよ。そのダイアンをほっぽって行けるかよってんだ。」
白人の戦車兵達は、この作戦の実行を承諾します。
作戦はうまく進み見張り塔は倒れ戦車は引き上げられました。しかしドイツ軍の砲兵の動きが予想外に迅速で、引き上げられたシャーマン戦車を砲撃しました。
しかし、シャーマン戦車は直撃を免れます。そして、その大砲に向けて走りだしそのキャタピラで大砲を踏み付け無力化しました。
この間、主人公と野牛は、ドイツ軍の歩兵を制圧しました。
作戦成功です。
戦闘の後、主人公が「でかした」と叫びながら戦車のコマンダーズハッチを開けると、戦車兵は全員砲弾の破片を受け死んでいました。
「はじめに至近弾を喰らったんだ。それでもなおこれだけの働きを・・・。」と白人の戦車兵の死体を見つめる主人公。
私は、この漫画のモデルを第442連隊戦闘団だと思っていますが、本当のところは分かりません。
しかし、二世部隊がアメリカ兵から差別的取り扱いを受けていたであろうことは想像できます。
二世部隊の兵隊は、既にアメリカの市民権を持っていて日本国籍は失っています。だから、日本人から見ると敵兵でしかありません。差別されようがどうされようが、当時の日本人からすると所詮敵国の内部事情です。
そういう事情があったとしても、私には、故望月三起也さんがこの二世部隊の軍曹を主人公に戦争漫画を描いた気持ちを理解できるように思います。
太平洋戦争がはじまったとき、アメリカは日系人だけ収容所に入れました。ドイツ系移民にもイタリア系移民にもそんなことはしませんでした。
第442連隊戦闘団の二世達は、そんな人質を取られた状態でヨーロッパ戦線で全滅に近い犠牲を出しながらも作戦遂行に尽力しました。
今でも「差別」という言葉を聞く度に漫画『最前線』を思い出します。